学園祭【3】
最終審査の相方を選ぶのに悩み続けている美麗は、候補の九人を順に眺める。充分に吟味した結果。


『よし決めた!』
「当然俺だろ。」
「いや俺に決まっている。」
『お前ら二人は論外だ!あっち行け。』



跡部と真田をしっしっ、と軽く追い払うと、ピッとある人物を指さした。


『比呂士、アンタ私の相方お願い。』
「!?わ、私ですか!?」
「なんで柳生なんだ!美麗ちゃん目大丈夫!?そこは普通俺だろ?」


柳生以上に狼狽える幸村に軽く引きながらも、美麗は意見を曲げない。


「納得いかへんわ。ちょお柳生くん美麗ちゃんの隣に立ってみ。」
「え、あ、はい。」


白石に言われ、柳生は恐る恐る美麗の隣に立つ。


「ウェディング衣裳着るんなら新郎と、新婦ってことだよな。だったらさ、ほら腕組まないと。」


向日に言われ、美麗は『そうね。』平然と柳生の腕に自分の腕を絡ませた。


「……!」
「ちょっと歩いてみて下さい。」


財前にそう言われ、歩き出す。


『……ガチガチじゃん!』
「だ、だだだ大丈夫ですよ!!これのどこがガチガチなんですか!ノープロブレムです!ええ!」
「ノープロブレムなわけあるかい!」



真っ赤な顔で否定する柳生は、全く大丈夫ではなくて。
カチンコチンで、しかも手と足が同時に出ている。


『…アンタどんだけウブなのよ。』


比呂士じゃダメだな、ということで柳生は却下。
また振り出しに戻ってしまった。


『あーもうめんどくさい!』
「じゃあ俺が出てやろうか!」
『私よりチビなやつはお断りよ。』
「ひでェ!」



一刀両断され、忍足に泣きつく向日。


「なら俺が…『なんで変態を相方にしなきゃならねーんだよ!ハゲ散れ!』酷い!」


容赦ない罵倒にすっかりいじけた忍足は隅で「の」の字を書き出した。


《ミスコンに参加される女子に連絡します。まもなく最終審査が始まります。相方を連れ、控え室にお戻り下さい。繰り返します……》


『げっ……もうコレでいいや!ついてきな!』


放送を聞き、焦る美麗はすぐ近くにいた人物の腕をひっつかみ、走り去った。


「……仁王先輩、連れてかれちゃいましたね。」
「……仁王なら、まぁ許す。」
「せやな…これでもし丸井くんや謙也やってみ。半殺しやで。」
「そうだね。」
「「なんで俺!?」」



あぁ、連れていかれたのが仁王でよかった。
丸井と謙也は心の底から、そう思った。


その頃控え室では。
すでに衣裳に着替えた仁王と美麗が打ち合わせをしていた。


「…なんで俺なんじゃ。」
『近くいたのが悪い。』
「めんどい。」
『それは私も一緒よ。だけどやるからには真面目にやりなさい。わかった?』
「はいよ。…それにしても…」


仁王はじっ、と美麗を見つめた。


『何よ。』
「お前さん、何着ても似合うのぅ。」
『当然よ。だって私だもん。似合わないわけがないわ。』


仁王はふふん、と胸をはる美麗に苦笑いを溢しつつ、まぁ、確かにな、と軽く頷いた。
美麗が着ているウェディングドレスはデザインもよく、とても綺麗だ。胸元のリボンがポイントである。


『…雅治も、よく似合ってるじゃない。それ。』
「そうか?」


自分の着ている衣裳を見下ろし、首を傾げる。
白いタキシードに身を包んだ仁王は、元々の容姿の影響もあり様になっていた。


「それより、俺はどうすればええんじゃ?」
『別に何もしなくていいわよ。ただ私と一緒に歩いてくれたらそれでいいから。まぁ、結婚式が舞台だからそーいうサプライズがあった方がいいだろうけど。』
「…サプライズ、ねぇ…」
『ブーケトスだけはやらなきゃいけないから、後は自分達の好きにしてって感じね。』
「…まぁ、俺の好きにやらせてもらうぜよ。」
『…………何するつもり?』


仁王はフッと笑みを浮かべ「やるからには、真面目にやらんとな。」色っぽく片目を瞑った。
嫌な予感がしつつも、もうどうにでもなれって感じな美麗は仁王に任せることにした。
最終審査は順調に進み、着実に美麗達の番が迫ってくる。


その頃、観覧席では。
相変わらず一番前を陣どり、美麗の登場を心待ちにしている跡部らの姿が見られた。


「さすがミスコン代表に選ばれるだけあって、みんな可愛い子ばっかりやなぁ。」


謙也が、ステージに現れる女の子達を見てそう呟くと、隣にいた忍足がすかさず頭を叩く。


「アホ!美麗ちゃんが一番可愛いに決まっとるやないか!」
「なにキレてんねん!」
「美麗ちゃんが一番可愛い!」
「もうわかったから黙れ忍足!」



興奮する忍足を、跡部が一喝して抑えた。


「なぁ千歳ぇー!ワイ腹減ったわぁ…たこ焼き食べたい。」
「たこ焼きは明日たい。今日は我慢しなっせ。」
「えー!」
「金ちゃーん?」
「はい!我慢しますー!」


白石が笑顔で左手の包帯に手をかけると、金太郎はしゅばっと敬礼のポーズ。
その後はすっかり大人しくなった。


「なぁ、美麗まだなの?俺腹減ってきたんだけど…」


丸井が自分のお腹を押さえ、そう呟いた時。


《さぁ!いよいよ次はあの方のお出まし!!一体誰と組んだのか…!そして美麗様のブーケは誰の手に!…あぁ私が欲しい!美麗様ぁぁあ!ブーケ下さいブーケ!!…ていうか相方の男羨ましい。私が隣に立ちたかったのに!くそが!》
「ちょ、ちょっと部長!心の声漏れてるよ!」


「……なぁ。ずっと思っとったんやけど…あの司会者、美麗先輩の時テンション半端ないっすね。」
「あぁ……アイツはな、もうどうにもならねーよ。」



財前が白けた目を向ける先はテンションMAXな司会者。
呆れたようにため息をつく宍戸の言葉に、跡部達も深く頷いた。
このミスコンのメイン司会者を努める彼女は、二年生の放送委員であり部部長だ。美麗が大好きすぎて、最近軽くストーカー化している。ちなみに彼女、あの体育祭で実況をしていた人物でもある。
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