学園祭【2】
学園祭当日。
秋晴れの今日はまさしく学園祭に相応しい天気だ。

一日目。
初っぱなから始まるミスコンに、参加する女子達は気合い入りまくりである。体育館にて、全校生徒、そして一般客が集まると、いよいよ学園祭は始まる。
ステージがメインの一日目は、吹奏楽の演奏から始まり演劇部の演技、ダンス部のダンスパフォーマンス、野球部による即席漫才、合唱部によるコーラス、先生達のミニライブ、軽音楽部の演奏……

その後昼休憩が終わってすぐに、ミスコンは控えている。
ミスコン参加者は控え室にて準備をしてください。そんな放送が入る。一人ひとりに与えられた控え室に行くため、立ち上がる美麗。


「お、行くのか?」
『うん。』
「頑張れよ!一番前で応援してっから!」
『そりゃどーも。』


ひらひらと手を振りながら、美麗は控え室へと姿を消した。


ミスコンは第一次審査、第二次審査、最終審査の三つに分けて決める。
まず第一次審査。
人気投票。
これはただ単にミスコン参加者の中で贔屓目なしに、誰が一番好みかを投票してもらう。

次に第二次審査。
自前の衣裳対決。それぞれが自分で作ったり何らかの方法で用意した衣裳を着てステージに立つ。審査員は学園祭に来ている人全員。衣裳を着た彼女達の姿を見て、一番綺麗だと思った人に投票をする。

最終審査。
ベストカップル対決。
誰か一人男子を選び、あらかじめ用意されたウェディング衣裳に着替えベストカップルだと思ったペアに投票をする。


第一次審査は学園祭が始まったと同時に開始されて、さきほどすでに投票は終了した。

体育館には、たくさんの人で溢れかえっていた。
皆ミスコンを見るために集まったみたいだ。一番前を陣どった跡部達の元に、見慣れた軍団が姿を現す。


「やぁ跡部。」
「…幸村か。よく来たな。」
「俺達のためにわざわざ一番前を取ってくれたのかい?ありがとう。」
「いや別にお前らのためじゃねーよ。」


なんだか変な解釈をした幸村の後ろで、赤也がワクワクした表情でステージを見た。


「ミスコンはまだ始まらないんスか!?」
「今準備中だよ。」


鳳が笑いながら答えた時、「お、跡部くんみっけ。」これまた聞き慣れた関西弁。
振り向けばそこには、四天宝寺メンバーが勢揃いしていた。


「おう侑士!来たで!」
「謙也、投票はしたんか?」
「当たり前や!」
「俺も美麗ちゃんに投票したで。」


ミスコン第一次審査はそこかしこで行われていたため、興味のある人々はこぞって投票していた。立海も四天宝寺も、もちろん跡部達も、美麗に一票。


「さすが氷帝やな…学園祭の規模がウチとは全くちゃうわ。」
「当然だ。」
「無駄やな。ていうか跡部くん、前に改装希望したのに…全然変わってへんやん。」
「誰が何と言おうと、変える気はねェよ。」


跡部がそう言ったとほぼ同時に、体育館の照明が落ちる。
フッと暗くなる館内。いよいよミスコンの始まりだ。


《お待たせ致しました!!ただ今より、氷帝学園第××回、学園祭名物イベント、ミスコンテストを開始します!》


司会者のテンション高めの声に、会場内も盛り上がる。



《まずは一年生から!!それでは、スタートです!》


ノリのいい音楽と共に、ステージの幕は上がる。
カッとスポットライトに照らされて、綺麗な衣裳を身に纏った一年生女子が次々に現れる。
さすが代表なだけあって、みんな可愛らしい子ばかりだ。


「氷帝はなかなかレベルが高いな…」


柳の呟きに、なぜか跡部は得意気に笑う。


一年生、二年生と続き、三年生の番に回る。


《さぁ!第二次審査は次でラスト!》


司会者の声に、周りの期待は高まるばかり。
三年生の番が来ても、これまでに美麗の姿はない。もう次でラスト……ということは、トリを飾るのは美麗なんだと、言われるまでもなくわかることだった。
氷帝生はミスコン優勝常連の美麗の登場を今か今かと待っている。


《ラストはこの方!ミスコン2年連続優勝者!もはやこの人に勝てる女子はいない!?我が氷帝が誇る美女、女帝こと雪比奈美麗だぁああ!!きゃあああ美麗様ぁー!!


この司会者。
美麗の大ファンらしく、テンションがびっくりするくらい高い。紹介の仕方の熱の入れようは、ある意味贔屓だ。

暗い体育館内に、なかなかライトはつかない。紹介されてから数分、時間があく。
各々が不思議そうに首を傾げた、瞬間。


パッ!とスポットライトが点いた。
スポットライトの真ん中にいる人物に、辺りは一瞬、静まり返る。


「…え、美麗…?」
「…マジかよ…」
「うわぁ…!超綺麗!」


目を輝かせる赤也は、そう呟く。
皆が見とれる中、注目されたのは着ている服。皆だいたい洋風のドレスなのだが、美麗はいつも奇抜な衣裳。一年生の時は浴衣、二年生の時は秋の私服デートコーデ。そして今年。和風で攻めた美麗は着物を今風にアレンジした、妖艶な花魁姿で登場したのだ。
白い生地を元で所々に黒が混じり、肩口は出ており色気は増す。特に美麗の魅力を引き立てているのは、着物に描かれた大きな薔薇の花。
美麗によく似合う、ゴージャスな薔薇が一面に散りばめられた着物。着物だけでも美しいのだが、それを着た美麗はさらに培美しさは増している。
艶やか、かつ妖艶な美しき花魁は、会場内にいたすべての人の心を奪う。

沸き上がる歓声や黄色い悲鳴に応えるように、美麗はただ艶やかに微笑んだのだった。



第二次審査投票を行い、結果を調べている間、もう最終審査の準備に入っていた。
制服に着替えた美麗も、跡部達のいる場所へと姿を現した。


『あ、みんないた…「美麗先輩ーー!!」ぅご!!』


タックルしてきた赤也に、美麗は危うくこけるところだったが、なんとか踏ん張った。


『赤也……』
「美麗先輩超綺麗でした!それはもうチョー!綺麗でした!」
『なんで二回言うの。』
「大事なことなんで!」


ずっと美麗に抱きついている赤也を、真田がたしなめる。


「赤也!いい加減離れんか!」
「…はーい。」


渋々離れる赤也を横目に、真田は美麗に向き直る。


「なかなかよかったぞ。」
『ありがと。』
「あ、そうそう、美麗ちゃんの花魁姿、バッチリカメラにおさめたんやけど、謙也いるか?」
「え、マジで?欲しいほしい!」
「ちょ、忍足くん俺にもちょうだい!」
「せっかくやから皆に配るわ。」
『やめろ変態共!』



忍足にチョップを食らわす美麗の額には、青筋が浮かんでいた。


「美麗先輩、次どうするんですか?」
「やっぱり跡部と行くのか?」
『んー…どーしようかな…悩み中。』
「次…って、最終審査?」


幸村が首を傾げると、宍戸が詳しく説明をする。


「最終審査はベストカップル対決なんだよ。で、相方の男を好きに選べる。」
「あぁ…なるほど。」
「美麗は毎年跡部と最終審査に出てたんだけどな…」
「今年も跡部で決まりだろ?」


向日が何気なく呟いた言葉に真田がピク、と反応する。


「跡部と…?フン、跡部ごときに美麗の相方が務まるとは思えんがな。」
「…アーン?何だと真田。」
「美麗の相方は俺で充分だ!貴様は引っ込んでいろ。」
「何言ってやがる真田。お前が美麗の隣に並んだらまるで父娘に見えるじゃねーか。相応しくねーよ。よって美麗の相方はこの俺だ。俺しかいねェ。
「いや貴様が美麗の隣に並べばまるで主人と奴隷のように見えるわ。」
「!? 真田テメー!!それは言いすぎなんじゃねーの!?」
「事実を述べたまでだ。」



「…なんでこの二人は顔合わせるたびにこうなるんだよ……」
「バカな二人はほっといて……美麗ちゃんどうするの?」


幸村の問いに、美麗はとりあえず、と答える。


『景吾と弦以外の人にしようと思う。』
「ま、それが妥当でしょうね。」


ぎゃいぎゃいと喚く二人はついには取っ組みあいにまで発展。
美麗はそんなおバカな幼馴染みといとこを冷めた目で見たあと、誰に頼もうか頭を悩ませた。

候補は九人。
宍戸、日吉、鳳、幸村、柳生、仁王、白石、財前、千歳。


果たして誰が選ばれるのか。


to be continued...


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