学園祭【1】
11月上旬。
氷帝学園では、もうすぐ学園祭が開催される。
2日かけて行われる学園祭は、外部も入場可能なため毎年かなりの賑わいを見せる。
今日から二週間かけて、学園祭準備が始まった。

まずは、5、6限目を利用して各クラスの出し物を決める。
このクラス企画では、一番客数が多かったクラスに豪華賞品が与えられるらしい。そのせいか、皆かなり燃えている。
文化委員が、テキパキと進めたおかげですんなりと決まった。
跡部と美麗のクラス、A組はコスプレ写真館に決定。
様々な衣裳は、跡部が用意してくれるらしい。


「(あの二人がいれば、優勝間違いなし!!)」


クラスメートのにこやかな視線が、二人に向けられる。
跡部と美麗はその視線に気付くと、揃ってため息をついたのだった。


「さて次は…」


文化委員が発する次なる言葉に、美麗は固まった。


「今年も行われるミスコンテスト出場者ですが……まぁこのクラスは美麗様で決まりね。」
「異議なーし!」
『はぁ!?』


ミスコンテスト。
毎年氷帝学園の学園祭で行われる、一大イベントだ。これが一番、盛り上がる。
1年から3年までの各クラスから女子が一人づつ選ばれ、その中で誰が一番美しいかを決めるコンテスト。ミスコンは、もはや氷帝学園、学園祭の名物である。
美麗は1年の頃から毎年ミスコンに出場し、ぶっちぎりで優勝しているため、有力候補。
優勝者クラスにはこれまた豪華な賞品がもらえるらしい。


『なんでまた私が出なきゃいけないのよ!』
「だって美麗ちゃんしかいないし。」
『あんなつまらない勝負したくもないわ!ていうかする意味がわからない。どうせまた私が優勝するに決まってるもの!決まりきった勝負ほどつまらないものはないわ。』
「まぁ、いいじゃないの。ね?」
『だいたいミスコンなんてやらなくても、私が一番なんだから必要ないじゃない!』


憤慨する美麗の、さりげない自慢。もうすっかり慣れてしまった。確かに、この氷帝に美麗より美しい女子はいない。それは皆わかっている。だがまぁやるだけやろうぜ、みたいな感じで、ミスコンは今年も行われるのだ。


『はぁー……』


大きくため息をついた美麗は、何を言っても無駄だと悟り大人しく席に座った。


その日の放課後。
部室でのミーティングの時間は、学園祭の出し物についてだ。


「去年はホスト、その前は写真撮影会……今年は何をやるんだ?」


宍戸の問いに、跡部が当然のように言う。


「今年は無難に喫茶店だ。ただし、ただの喫茶店じゃねェ。」
『どんな喫茶店なわけ?』
「俺達全員が執事の格好をする。美麗はメイド服。」
『執事喫茶ってこと?』
「まぁ表向きはな。」


意味ありげな言い方に、忍足達は首を傾げる。


「店の中は迷路になっていて、行き止まりは一切なし。たどり着いた先に俺達の誰かがいる。」
「…なるほど。アミダくじみたいな感じですね。」


日吉が納得したように言うと、跡部は「そうだ」と頷く。


「へぇ…なかなか面白そうやん。」
「喫茶店の名前は、“誰に会えるかわからない、ドキドキ迷路の喫茶店!”だ。」
『「……ダサ。」』


美麗と日吉の呟きが、見事にハモった。


「誰が考えたんですか?その名前。」


鳳の疑問に、跡部は堂々とした態度で手を上げた。


「俺だ。」


まるで最高の名前だろ、さすが俺。とでも言っているかのようなドヤ顔。


「……まぁネーミングセンスは置いといて。場所は?また部室でやるん?」
「そうだな……今年は迷路状にするから、部室を少し変える。
後で業者を呼ぶから、内装は業者に任せる。衣裳も家にあるやつを借りるから作らなくてもいい。」
「俺らすることねーじゃん。」
「あぁ。クラスの方に専念して構わねェよ。」
「そら助かるわ。」


部活の出し物も、すんなりと決まった。
昨年はモメたりしたが、今年はなかなか順調だ。


「ところでさ、美麗。」
『何?』
「今年のミスコン、やっぱりお前も出るんだよな?」
『…出るけど。』


やけに輝いた眼差しを向けてくる向日に、美麗はちょっと苦笑い。


「うちのクラスのミスコンに参加する女子、今年こそ美麗に勝つ!って意気込んでたぜ!」
「あー、俺らのクラスも。」
「俺のクラスもや。」
「同じく。」
「なんか皆美麗ちゃんに勝つって闘争心燃やしてるよね〜。」


どこのクラスの女子も、美麗に勝ちたい!という思いが強いらしい。向日のクラスのミスコン参加女子は、美麗同様毎年ミスコンに選ばれている。
だが毎年美麗に負けて、悔しい思いをしているみたいで。恐らく、彼女が一番闘争心を燃やしているだろう。

しかし、美麗は余裕そうに鼻で笑う。


『ハッ…何人女子が出ようが、私の敵じゃないわ。勝手にしてればいい。あんなレベルじゃ、私には及ばないんだから。』
「すげー自信だな。」
「まぁ、その通りですけどね。」


宍戸と鳳が苦笑する。
こーいう自信満々で、堂々した態度は跡部によく似てるよな、と、あらためて思うのだった。

外部参加可能な氷帝の学園祭には、今年は立海、四天宝寺が遊びに来ることになった。
立海は美麗が誘い、四天は忍足が誘ったとのこと。
ちなみに、皆は真田から、謙也から美麗がミスコンに出ると聞いた瞬間すかさず遊びに行くことを決意したのは、ここだけの話。

それから準備は怠りなく進み、学園祭当日を迎えたのだった。



to be continued...


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