エクスタシー侍、参上!
秋も深まり、今が一番紅葉の見頃を迎えている、ある日。
四天宝寺中男子テニス部レギュラー達は疲れ果てたような、げんなりとした顔色で部室にいた。
なぜ彼らがげんなりした顔をしているのか…原因は部長である白石にあった。

白石はテニスも、学校生活も普段の生活も、すべてにおいて完璧だ。聖書と呼ばれるだけあって、何もかもを完璧にこなす。
そんな完璧人間、白石はここ最近、さらに完璧さを目指すようになった。
無駄のない、完璧な状態にしたい。それが白石の思い。
その思いが募りに募って、ついに爆発。無駄だと思った事に対して「それ必要ないやろ」「無駄遣いはあかんで」「無駄に体力使こたら後が持たへんで」等と言うようになった。

ただ言うだけならいい。
言われるだけなら、「わかった。」で済む。けれど、白石は言うだけではあきたらず、ついに行動を起こすようになった。ある時部室に入ると、部室はすっからかん。あるのはテーブルと、ロッカー、部誌に2、3本のペン、棚に飾ってあるトロフィーや賞状。たったそれだけ。前はその他に椅子やベンチ、たこ焼き器にかき氷器といった機材、オヤツを収納する棚、千歳の私物であるトトログッズ、謙也のイグアナの置物があったはず。
それらが、なくなっていた。
これには皆びっくりして、白石に問い詰めた。やりすぎじゃないのかと。


「ちょっとこれはやりすぎっちゃうか!?俺の置物どこやったんや!」
「なんでたこ焼き器がないのん!?なぁ白石ィー!」
「…白石部長、俺の買い置きしてあったぜんざいもないやん。最低や。俺のぜんざい返せ!」
「と、トトログッズもない…!
白石これはあんまりじゃなか!?」


ぶーぶーと不満爆発の部員達。
詰め寄られても、白石は涼しい顔。


「よくよく考えたらこの部室、いらんもんがめっちゃあるやろ?そんなんも全部意味ないし、無駄や、無駄。これからは無駄のない部室を目指す!」
「なんでいきなり!前まではそんなん一度も言わへんだやないか!」
「他の学校の部室を見て思ったんや。うちも無駄なく完璧な部室にしたい!」
「他所は他所、うちはうち。」
「…いや、そんなおかんルール出されても…」



財前の発言に白石以外の皆がうんうんと力強く頷いた。
結局、金ちゃんや小石川の必死なお願いで椅子、ベンチ、たこ焼き器は部室に戻ってきた。
なんやかんや言っても、部員達には甘い白石はやれやれと苦笑したのだった。


部活終了後、皆で帰宅中にたまたま見つけた公園で寄り道をすることにした四天メンバー。
ブランコに座る白石に、ふと疑問に思った財前が尋ねる。


「白石部長。」
「ん?」
「部長が思う無駄の基準て何なんですか?」


すると、白石は少しだけ悩んだ後、口を開いた。


「…せやなぁ…んー…立海の真田くんなんかは試合中よう喋っとるから無駄が多いやろ、あと技名が長い。」
「白石も試合中よう喋っとるけどな。」

隣のブランコに座る金ちゃんがさりげなくツッコミを入れる。


「それに比べて氷帝の忍足くんはなかなかええな。技名を極力短くしとるし。」
「そうかぁ?侑士の技名は実際に声に出して言うとけっこう長いで。」

と、謙也。


「あと跡部くんはプレイこそ無駄なく綺麗やけど、行動が無駄やな。氷帝コールとか指パッチンとか、意味わからん。そして技名が冷たいのばっかりでなんか嫌や。
「嫌や、って知らんがなそんなん。」
「ま、跡部さんやからしゃーないっすわ。」



と、ユウジと財前。


「花丸なんは手塚くんや!なんせ技名を自分で言わん!」
「…部長の無駄の基準は技名だけなんか。」


財前は呆れたように肩を竦めた。


しばらく公園でまったり過ごしていた時、突然白石が立ち上がり、「そうや!」と大きな声で叫んだ。


「無駄探しの旅に出よう!」
「はぁ?」


全員がすっとんきょうな声をあげる中、白石は拳を固め熱く語りだす。


「青学と氷帝に潜入して無駄を探してくるわ!」
「学校はどないすると?」
「大丈夫や、問題あらへん。公欠扱いにしてもらうから。」
「ずる!!ていうかそんなん無理やろ!」
「ま、俺の人望は厚いからな。ちょっと人生を見つめ直すために修業してくるって言えば簡単に騙せる。」
「…真面目な白石がまさか嘘つくなんて、誰も思わんわな。」


普段の行いがええからやな、とどや顔で言われ、謙也がイラッとしたのは言うまでもない。


こうして、白石の無駄探しの旅が始まったのだった。
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