1日先生
「みんなー、今日一日だけ、この綺麗なお姉さんとかっこいいお兄さんが遊んでくれるんだって。ちゃんと言うこと聞きましょうねー。」



『……最悪だわ。』
「…ま、まぁ一日だけなんだし、我慢しようぜ。」


氷帝学園幼稚舎。
幼稚舎の中でも保育園、幼稚園、初等部の3つにわけられている。
美麗達テニス部レギュラーは全員がエプロン着用で紹介を受けていた。
なぜ美麗達が幼稚園にいるのか…それは毎年行われる職業体験のせい。夏休みが明け、体育祭が終わり修学旅行も済んだこの時期に、毎年全学年対象の職業体験がある。体験する職業は様々だ。氷帝学園内の職業から、学園を出た職業……あちこちに分散して、体験をする。くじ引きで決まった職業は、なぜかテニス部レギュラー全員が同じ幼稚園に決まったのだった。

幼稚園の中にも、クラス分けは当然ある。同じ保母さん保父さんを体験する生徒の中からまたくじ引きをし、何人かに分かれる、という流れらしい。幼稚園のクラスは全部で4つ。

百合組
桜組
秋桜組
黒薔薇組


黒薔薇組の生徒は、問題児だけが集められた…謂わば不良組となっていた。予め幼稚園の先生から説明を受けていた美麗達は、絶対にやりたくない、違う組来い!と祈りながらくじを引いたのだが、見事に全員が黒薔薇組担当。もう仕組まれたとしか思えないくらい、見事だった。

意気消沈しながら、黒薔薇組担当の先生の後ろをついていき、冒頭に至る。


「あれ?皆、返事はー?」
「うるせー!だまれせんこー!」
「かえれかえれー!」
「どこがかっこいいんだよ!ぶさいくばっかじゃん!」
「ジジー!」
「ハゲジジー!」

「……なぁ、絞め殺してもいいよな。」
「いや、あかんやろ!跡部、抑えて!我慢や我慢!」
「…忍足さん、俺も絞め殺したいです。」
「日吉まで!?」

「ムカつくのはわかるよ!うん、俺も今猛烈に殴りたいからね。でも我慢しよう!これじゃあの子達の思うツボだよ、きっと。」


鳳がなんとか日吉と跡部を宥め、落ち着きはしたがまだ二人の鼻息は荒い。


「あのオバさん、きれいじゃなくない?」
「うんうん、ただのババアだよね」
「あたしのほうがかわいいよねー!」
「オバさんはかえれ!きえろ!」

『…………』


女の子達が、口々に美麗を罵る。
ババアだの、オバさんだの言われて黙っていられるわけがない。美麗は怒りで震えながらも、なんとかこらえる。


「美麗がオバさんなわけねーだろ!どんな目してんだ!クソクソっ調子に乗んなよクソガキ!」
「そうだC!」


代わりに、向日とジローが怒る。


「うざい」
「ちび」
「あほ」


しかし、園児は怯むどころか、楽しそうに笑っていた。


『…………っ』


ついに堪忍袋の緒がキレた美麗は、教卓をバン!!と思いきり叩いた。あまりの力に、教卓は砕ける。


「「「………」」」


しーん…と、その場が静まった。砕けた教卓を見た園児達は、恐る恐る美麗を見上げる。


「「「…ひっ!?」」」


そして凍りついた。


『おいクソガキ共。さっきから黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって……お前らどんな教育受けてきたんだ、あん?』


とんでもない形相で園児を睨む美麗は、恐怖に震える園児達なんてお構い無しだ。


『調子に乗るなよクソガキ。私が本気になったらお前らみたいなチビ、一瞬であの世に送れんだぞ。』
「…(怖い!怖いけどナイスだぜ美麗!)」


心の中で、跡部達は優越感に浸る。


『あ、もしかして殺されたいの?だからそんな態度取ってるのかしら?それならそうと早く言ってちょうだい。』
「「「ち、ちがいます!!」」」
『なら大人しく言う事聞こうね。私達だけじゃなくて、先生の言う事に逆らったりしたらダメよ?』
「「「は、はい…」」」
『声が小さいわ!!!』
「「「はいぃぃ!!」」」
『あと、私のことババアとかオバさんって言ったクソ女ども。謝れ。今すぐに。』
「「「……」」」
『早くしやんかいクソったりゃぁあああ!!』
「「「「ごごごごめんなさい!!」」」」



いっそう鋭く、鬼のように怖い顔で睨まれ、女の子だけでなく、園児全員が泣き叫びながら謝る。
えぐえぐ、と泣き続ける園児達は、そのあと先生に、そして跡部達に丁寧に謝りやっと騒ぎは収まった。


「…ちょっとやり過ぎな気もするが……まぁいい。これであのガキ共も大人しくなるだろう。」
「……ちょっとどころじゃなくね?」


宍戸が苦笑するが、皆そんなに気にしていないようだった。
ただとてもスッキリしたような顔で立っていた。
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