秋の遠足
「遠足だぜイエー!」
「イエー!」
「…たかが遠足ではしゃぐんじゃねーよ。ったく…」


体育祭が終わってから早くも1ヶ月。10月に突入し、もうすっかり秋の色に染まった今日この頃。あの暑かった日が嘘のように、涼しくなり、朝晩は寒く、昼間の気温もだいぶ下がった。空は爽やかな秋空で、雲一つない快晴。今日は氷帝学園全学年対象の行事、遠足の日。

東京都内から離れ、お隣の神奈川へバスで移動中だ。毎年遠足は国外だがまれに国内な時もある。
本来なら、バスは各クラス別に乗らなければならないのだが、特別に好きなバスに乗ってもいいとのこと。1から5まであるバスのうち、1号車に集まる男子テニス部と美麗。楽しい行事はなんでも好きな、精神年齢が低めの向日とジローは朝からテンションが高い。バスの中ではしゃぐ二人を横目に、美麗が不機嫌オーラを放ったまま睨みつける。


『うるっせーんだよクソチビーズが。黙って座れ。』
「「は、はいぃぃ…」」


跡部の隣に座り、窓縁に肘を置き冷めた目を向ける美麗にジローと向日は竦み上がる。


「…クソチビーズだって…」
「…仕方ないよ。俺達背低いもん。」
「「……はぁ…」」


しかし睨まれた事より、クソチビーズという変なあだ名を付けられた事の方がショックだったらしく揃って肩を落とした。


『……』
「…おい、いい加減機嫌直せよ。」
『……』
「いつまでふてくされてんだ。」
『……だって…!』


ムスッとした顔をしていた美麗は窓から視線を外し、不満を爆発させた。


『なんで遊園地なのよ!私山がよかった!登山したかった!先公のバカヤロー!!』
「ちょ、美麗ちゃん先生に聞こえるって!落ち着きや。」
『引っ込んでろ眼鏡!』
「それは全国の眼鏡かけとる子にも当てはまる言い方やな。」
『引っ込んでろ伊達眼鏡で趣味の悪い丸い形の眼鏡をかけた忍足!』
「わざわざ言い直さんでもええやんか!」
「伊達眼鏡で趣味の悪い丸い眼鏡をかけた忍足、黙ってろ。」
「跡部まで!?」
「伊達眼鏡で趣味の悪い丸い眼鏡をかけた侑士、うるせーぞ!」
「なんか名前みたいになってしもとるやん!」



皆して酷いわ…そう嘆き、膝を抱える忍足を見てさすがに可哀想に思ったのか、数人の男子が飴をあげ慰めていた。


『遊園地なんてやだ!登山行きたい!二年生ズルいっ!』


今年の遠足は全学年国内。
一年生は水族館。
二年生は登山。
三年生は遊園地。


「登山の何がいいんだよ。」
『長太郎達が行く山はね!美味しいキノコがたくさん生えてるってキノコ狩りをする者にとっては有名な場所なのよ!そんな場所に私も行きたい!!』
「……だから二年生側に紛れようとしてたんだね。」


滝が今朝のことを思い出し苦笑いを溢した。

集合場所はどの学年も同じなため、美麗はこっそり二年生側に紛れ込もうとしていたのだ。だが、校内で美麗の事を知らない者はいない。跡部並みの有名人である美麗は案の定すぐにバレた。

その頃美麗がいない事に気付いた跡部がキョロキョロと辺りを見渡していた。すると二年の先生達がいる前で駄々をこねている美麗の姿を発見。
跡部はすぐさまそこにすっ飛んでいき、美麗を引きずり連れ戻した。そして三年生を乗せたバスは、美麗の機嫌が悪いまま、目的地へと出発したのだった。


『何が悲しくてガキんちょが行く場所に行かなきゃなんなのよ。』
「遊園地は子供も大人も楽しめる素晴らしい場所なんだぞ!なめるなよ!」
『黙りなさいチビ。
ま、アンタはガキだからいいだろうけど、私はガキじゃないから。大人だからぁ?遊園地なんてつまらないっていうかぁー遊園地行くくらいなら動物園がよかったなー、みたいな?』
「その喋り方超ウゼェ。」


間延びした、ぶりっこのような喋り方に跡部は軽くイラッとした。


『……あ、そうだ!』


しばらく窓の景色を眺めていた美麗は、ふと何かを思いつく。携帯を取り出し、ポチポチとボタンを押す。どうやらメールを作成している模様。
やがてパタリと携帯を閉じた美麗は、先程より幾分機嫌がよくなったみたいで、薄く笑っていた。


「誰にメールしてたんだ?」


跡部が尋ねる。
すると、美麗はうふふと笑い、携帯の送信済みメールを開き見せてくれた。横から跡部、前から向日、ジロー、後ろから忍足、滝、宍戸が覗き見る。


「「「「「「…………」」」」」」


メールの内容を見て、揃ってため息をついたのは言うまでもない。


to:長太郎、若、樺地
sub:お願い事
10/△ 10:58
-------------
お土産にキノコ採ってきなさい。
よろしくね(ハートの絵文字)


キノコの詳細と、画像付き。
そんなメールが、二年生の鳳、日吉、樺地に届いた。それぞれ違うバスに乗っていたが、同じタイミングでメールを開いた三人は、一瞬固まりそして簡潔に返事を返した。


to:美麗先輩
sub:Re:
10/△ 10:59
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はいはいわかりました。


to:美麗先輩
sub:
10/△:11:00
--------------
了解です!
間違えたらごめんなさい><


to:美麗先輩
sub:Re:
10/△ 11:05
--------------
ウス。


それぞれの返事を確認し終えた美麗は、満足げに笑って携帯をしまった。
それから数時間後、バスは神奈川のとある遊園地へ到着した。
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