体育祭【4】
体育祭も、いよいよ終盤。
盛り上がりはピークに達し、皆楽しそうに笑っている。

続いての種目は、教師vs生徒の100m走。この種目だけは、全生徒が仲間だ。真剣勝負だけど、点数は加担されない。
赤組からは、美麗、跡部、美加、日吉の四人が選抜。
黒組から四人、白組から四人、合計12人が教師と戦う。

スタートの合図が鳴り、白組から始まった。第一走者の生徒は、3年生担当の学年主任と。
主任は今年39歳のオジさん。だけど剣道部の顧問でもあり、運動神経はかなりいい。接戦が繰り広がる中、バトンは白組から黒組へ移った。

黒組第一走者のジローは自分の担任の先生と。3年C組担任は、28歳の熱血体育教師、小林。
そしてバトンは黒組第二走者へ。忍足はなんと68歳の教頭先生と。よぼよぼじいさんと当たってしまい、一瞬戸惑った。
走るスピードを緩めた時、教頭先生は「ふんがァァァァ!!」と顔を歪ませ走り出した。

「ちょ、教頭先生ー!無理したらアカンって!死ぬで!?」
「死なんわ!教頭先生ナメんなよ!先生はまだまだ元気じゃああああ!」


叫びながらとんでもないスピードで走る教頭に、あいた口が塞がらない生徒達だった。
そしてバトンはようやくラスト赤組第一走者へ渡った。
平居、日吉と続きバトンは美麗へと回ってきた。
日吉からバトンを受け取ると、走り出す。そんな美麗と走る教師側は。


「あぁ、なぜ愛しのマイハニーと争わねばならないのだ!残酷すぎるっ!」


テニス部顧問、変態榊だった。
走る直前まで対戦相手がわからないようになっているこのリレー。一番一緒に走りたくない相手と当たってしまい、美麗はなんてこった!と顔を歪ませる。
榊監督は美麗のすぐ後ろを走っている。うまくいけば離せるかもしれない。そう思った美麗は走るスピードをあげた。
だが榊監督も同じようにスピードを上げるため、離せない。


『ちょっと!ついてこないでよ!!』
「マイハニー、こうしているとまるで恋人のようだな!」


榊監督はうふふと笑う。
その脳内では、夕陽の海をバックに海岸線を走る美麗と自分の姿。そして、「待てー。」『私を捕まえてー。』「こいつぅ!」ベタな妄想が始まっていた。
なんとなく、榊監督がしている妄想がわかってしまい、美麗は青ざめる。


『おぇ…っは、吐きそう!』


口元を押さえ、耐える。


「頑張れ美麗!」
「負けるな!」
「頑張って下さい美麗様ァァ!」


皆が美麗を応援する。


「全くハニーは照れ屋だな!想像しただけで赤くなって…可愛い奴だ!」
『赤くなってねーよ!!』
「そうだ、もしハニーを捕まえることが出来たら今度こそ結婚しよう!」
『誰がするかァァァァ!!もうお前マジでキモい!消えろハゲジジイ!』



美麗はそう叫びながら全速力で走り、アンカーである跡部にバトンを回した。


「マイハニー!」


バトンをアンカーの先生に渡した榊監督は、バッと美麗に飛び付いてきた。だが美麗の回し蹴りが綺麗に決まり、一発KO。


『樺地!』
「ウス。」
『この汚物処理お願い。』
「ウス。」
『燃えるゴミだからね、間違えちゃダメよ。』
「……ウス。」



最後の命令はさすがに躊躇ったが、樺地は榊監督を担ぎ、グラウンドを離れた。


《さぁーお次はグラブ対抗リレー!真剣部門、パフォーマンス部門に分かれてそれぞれの部活が頑張ります!》


放送委員がテンション高く言う。このグラブ対抗リレーも得点には加算されない。息抜きみたいなものだ。
真剣部門には陸上部、バレー部、サッカー部、吹奏楽部、ハンドボール部、美術部、料理部、手芸部…
パフォーマンス部門にはバスケ部、テニス部、書道部、野球部、合唱部、水泳部、剣道部、柔道部…


《今年はなんと!パフォーマンス部門にあの男子テニス部が!いったいどんなパフォーマンスを見せてくれるのか!楽しみですっ!》


まずは真剣部門からスタート。
どの部活も本気で走る。
だが、陸上部がいる時点で他の部活が勝てるわけがない。
結果は当然、陸上部が一位。

続いてパフォーマンス部門。
さすがパフォーマンスなだけあって、皆それぞれ工夫していた。
例えば水泳部は水着姿で走るし、柔道部、剣道部は胴着姿で走る模様。バトンは柔道部は帯、剣道部は竹刀だそう。野球部は女装やら着ぐるみやらスケバンやら不良やら…バトンが何かはわからないが、インパクト大である。
テニス部は、普通のジャージ姿。だが、第1走者の隣にはマネージャーである美麗が同じくジャージ姿で立っている。
しかもなんだか不愉快そうな表情。どうやらテニス部、バトンは美麗で行く様子。


『なんで私がバトン役なわけ!?最っ悪!』
「まぁまぁ。仕方ねーじゃん跡部が決めたんだし。」


イライラをぶつける美麗に、第1走者である向日が苦笑した。


『だいたいなんでパフォーマンス部門なの?前と同じ真剣部門でいいじゃない!』
「いやそれも跡部が…」
『…アイツあとでしばく!』


スタート地点で会話する二人の間に、他の部活の選手達が遠慮がちに声をかける。


「あ、あの…」
『「?」』
「…もう始まってます。」
『「なにぃ!?」』


びっくりして、前を見れば、もう皆スタートしていた。
まだ動いていないのは美麗と向日だけ。


「スタート合図は!?」
「しましたけど。」
『嘘だぁ!』
「と、とにかく行くぜ!はい。」
『……なによその手は。』


ずい、と差し出された手を訝しげに見る美麗。


「だから!バトン!美麗は今バトンだろ?持たなきゃ走れねーじゃん!」
『はぁ?』


向日の発言が気に入らなかったのか、美麗の眉がピクッと動く。
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