体育祭【3】
玉入れの結果、一位は白組、二位は赤組、三位は黒組。
総合で一位なのは、白組である。ただし、赤、黒と一点差。
これから逆転も十分ありえる。
続いての競技は、障害物競争。
美麗はたくさんの障害物を、いとも簡単にくぐり抜けて、余裕で一位。
ここで一端お昼休憩に入る。
一時間の昼休みだ。
『あー…疲れた。』
「まだ後半も残ってんのにもう疲れたのかよ。」
『うっさいわね。私はアンタ達と違って体力ないんだから仕方ないでしょ。』
「え、ないの?俺てっきり美麗の体力は化け物並だと思っ……『なんですって?』てません!全然そんな事思ってません!すいませんでした!」
ギロ、と睨まれ、即座に土下座して謝る向日だった。
『フン、競技中に転けたくせに。』
「うっ…」
『だっさいよねー、超ダサい。激ダサよ。』
「うぅ……!」
『なんであそこで転けるかな?バカとしか言いようがないわよね。バーカ。』
「う……っそんなにボロくそ言わなくてもいいだろー!?うわぁああぁ!侑士ィィィ!」
心をズタボロにされ、泣き出した向日は隣にいた忍足に泣きつく。
「……容赦ないなぁ美麗ちゃん…」
向日の背中をポンポン叩き、宥める忍足は苦笑した。
『そういえばアンタも転けてたわよね。しかもバナナの皮で。』
「……」
『あーダサい。二人揃って転けるなんて……マヌケめ。』
「…………」
「うっうっ……侑士…!」
「岳人……俺のガラスのハートは粉々や。」
忍足まで泣き出してしまった。
「…ま、まぁまぁ。誰だって転けることはありますから。ね?」
見兼ねた鳳がすかさずフォロー。しかし……
『アンタはありえない嘘に引っ掛かった大バカよ。』
「ええ!?」
『ししゃもがこんな場所にいるわけねーだろ。常識を考えろバカ。』
「う……っし、宍戸さぁあん!!」
「俺もそう思う。」
「え゙!?宍戸さん、パ、パートナーを見捨てるんですか!?」
「お前は明らかにバカだ。」
「ひ、酷い…!」
頼りだった宍戸にまで美麗と同じように言われ、鳳もすすり泣く。
「…ったく…騒がしい奴らだぜ……なぁ樺地。」
「ウス。」
呆れたようにため息をつきながら、跡部は美麗達を見つめていた。昼休みが終わり、午後の部が開始した。まず始めは応援合戦。毎年一番盛り上がるのが、この応援合戦。どの組が派手な応援だったかを競うのだ。
各組それぞれが案を出し、頑張って練習した応援合戦。
白、黒、と続き、ラストは赤。
跡部率いる赤組は、それはそれはすごい派手な応援を見せた。(応援、というかただの跡部コールなのだが、盛り上がり様が半端なかった。)当然、ぶっちぎりの一位である。
続いて借り物競争。
赤組からは滝。
黒組からは忍足が参加する。
「なんや、赤組からは滝か。」
「お手柔らかに、忍足。」
「嫌や。全力でいかせてもらうで。もう赤には負けへん!」
パン!と、スタートの合図が響くと、選手達は一斉に紙が置いてある場所まで走る。一番最初に到着したのは忍足。適当に紙を取り、内容を確認する。だが内容を見た瞬間、ピシッと固まった。
「……な、なんやと!?」
忍足の借りるもの、それは“跡部様のチャームポイント、泣きボクロ”
「こんなん持ってこれるかァァァ!!」
怒りのあまり、持っていた紙を地面に叩き付ける忍足。
そうこうしているうちに、滝や他の選手達も紙を拾い、探し始めていた。
「……なるほど。」
「…な、なぁ滝?自分どんな内容やった?」
「えーとね“学園一の美女、てか女帝”」
「なんやてー!?ず、ずるい!」
「女帝って指定しちゃってるよこれ。まぁいいけど。じゃ、頑張ってね忍足。」
滝はにこやかに笑い、さっさと目的の人物のいる場所に向かう。
「……ずるい……俺なんて、俺なんて……はぁ…ダメ元で行ってみるか…もしかしたら貸してくれるかもしれへんし…」
忍足はとぼとぼ跡部の元へ向かった。
「美麗ちゃん。」
『なぁに萩。』
「一緒に来てくれない?」
『私が?なんで。』
「理由は後で教えるから。お願い!」
赤組勝利のためだからと、言われれば断るわけにはいかない。
差し出された滝の手を取り、立ち上がる。
「……なぁ跡部。」
「アーン?なんだ忍足。」
美麗と滝がゴールに向かった時、跡部の元には忍足が来ていた。
「…あんな、ちょお貸してほしいもんがあんのやけど……」
「なんで俺なんだよ。」
「跡部やないとあかんのや!」
「……何を貸してほしいんだ?」
「………な、泣きボクロ。」
「は?」
跡部の目が点になる。
「せやから、跡部の泣きボクロ貸してほしいんやって!」
「……っ」
「跡部?」
プルプル震える跡部を、忍足は不思議そうに見た。
「ふっざけんなァァァァァ!!」
「がふっ!」
怒りに任せてアッパーを食らわせ、忍足はぶっ飛ぶ。
「俺様の泣きボクロを貸せだぁ!?貸せねーよ!つーかどうやって貸すんだよ!!ちぎれってか!?」
「…イケると思ったんやけど…!アカンだか…!」
「当たり前だろが!失せろタコ!」
次は綱引き。
赤、黒、白どのチームもなかなかいい勝負。引き分けが多くて、結局順位は決まらなかった。