体育祭【2】
体育祭当日。天気は快晴。どこまでも真っ青な空は、まさに体育祭日和。広いグラウンドを、赤、黒、白の三つに分けそれぞれの組の場所に座り額に同じ色のハチマキを巻き準備完了。
開会式を終え、各チーム向かい合わせになる。毎年白熱する体育祭。どのチームもメラメラと燃えている。
「跡部。今年は別々やなぁ。」
「そうだな。」
「去年は仲間やったけど、今年はライバルや。負けへんで。」
「ハッ!それはこっちの台詞だ。」
忍足と跡部が互いに火花を散らす。
ちなみにこの体育祭で優勝したチームには食堂一ヶ月無料パスが貰える。さらに購買の割引券付きだ。
まず最初の種目は、個人種目。
男子高跳びから始まる。
「こんなの楽勝だぜ!」と、得意気に言い、向日は軽々と跳んだ。断トツ一位である。その後も個人種目が続けて行われ、男子高跳び一位、女子幅跳び二位という成績を残した。
個人種目が終わると、次は団体種目。まずは女子400mリレーから。
スタートの合図が鳴り、一斉に走り出す。現在トップを走るのは白組。赤組はビリだ。
最下位のまま、第2走者、第3走者へバトンが回る。
《さぁ!現在トップは変わらず白組です!赤組ファイト!》
スピーカーから放送委員の声が反響する。
「……美麗様!」
《今赤組アンカーにバトンが回りました!!赤組アンカーはー…》
『任せて。』
《来ました我らが女帝!!美麗様だァァァ!!》
放送委員のテンション高い声に、周りは黄色い悲鳴で溢れかえる。
バトンを受け取った美麗はなんとも美しい走りで黒、白組を一瞬で追い抜いた。
《速い速い!美麗様速いです!なんてかっこいいっ!きゃー!まるで馬のよう!》
『誰が馬だ!!放送委員シバくぞ!!』
放送委員に向かって美麗は怒鳴る。美麗はそのままぶっちぎりで一位。逆転勝利に、赤組は大盛り上がり。
「よっしゃあ!ナイス美麗!」
「さすが美麗ちゃん。やるねー。」
「相変わらず足速ェな。」
飄々とした顔で戻って来た美麗に、向日、滝、跡部が声をかける。
「お疲れ様です美麗先輩。」
『ありがと。』
日吉から飲み物が入ったボトルを受け取り、ゴクリと一口。
用意された美麗専用の椅子に腰を下ろす。
「ていうか、なんですかこの椅子。王様か。」
『違うわ。女王様よ。』
「……はいはい。」
日吉は呆れたようにため息をついた。
『次、若達出るんでしょう?』
「はい。」
『何がなんでも勝ちなさいよ。』
「……言われなくても。」
フッと口元に笑みを浮かべ、日吉は出場ゲートへ足を向けた。
次は男子800m。
この競技に、黒組から忍足、宍戸、ジロー、鳳が参加。
テニス部対決に全員が注目だ。
第1走者
黒:宍戸亮
赤:滝萩之介
白:名もなき男子
スタートの合図と同時に、走り出す。トップは宍戸だ。
「長太郎!頼んだぜ!」
「はい!」
あっという間に200m走りきり、第2走者の鳳にバトンタッチ。
少し遅れて、赤組も第2走者日吉に交代した。日吉と鳳は互いに譲らない状態のまま走る。
「…っ(クソ…追い越せない…!)」
ほぼ横一列だが、若干鳳の方が前を走っている。追い抜きたいのに、抜けない。悔しさから、日吉は眉をひそめる。
「(…仕方ない。)」
と、ここである作戦に出た。
日吉は少し前を走る鳳に声をかける。
「おい鳳。」
「なに?」
「……あんなところにししゃもが。しかも本物の。」
こんなありえない嘘。
信じるわけがない。言ってから後悔した日吉だが、次の瞬間。
「ししゃも!?どこに!?」
意外にも食い付いてきたバカな鳳に、日吉は思わず転けそうになった。
「(…本物のバカだコイツ!)」
だが、鳳のペースが落ちたのを見計らい、日吉はダッと一気に走る。
「え、え?日吉、もしかして騙した!?」
騙されたとようやく気づいた鳳は慌ててスピードを上げた。
遠くで、「長太郎ー!お前って奴はァァァ!!バカァァァ!」と宍戸が叫んでいる。赤組はトップのまま、向日にタッチ。
「向日さんっ!」
「よっしゃ!任せとけ!」
バトンを受け取り、意気揚々と走る向日。向日の後ろでは、黒組がジローにバトンを回したところだった。
「優勝はもらったぜ!」
自信満々に言い放ち、後少しでアンカーにタッチ、という時、小石につまづき、向日はこけた。
「おっふ!!」
「「「「「………」」」」」
ベシャ!と派手に転んだ向日は、後ろから走ってきたジローに追い越された。
「む、向日テメェー!!」
これには日吉も激怒である。
敬語なんてどこへやら。思いっきり呼び捨てで叫んだ。
向日は慌てて起き上がったが、黒組はもう既にアンカー忍足に回っていた。
「わ、悪い跡部!」
「チッ……!」
バトンを受け取った跡部は全速力で忍足を追いかける。
だがなかなかその差は縮まらない。
「悪いなぁ跡部。先にゴールさせてもらうわ。」
「クソッ…!」
余裕そうに笑う忍足だが、ゴール直前…何かに滑ってこけた。
「あぶっ!!」
突然こけた忍足に、びっくりする跡部。だがこれはチャンス!と言わんばかりにスピードを上げ、一位でゴールした。
「……っな、なんや!?なんか踏ん……だ……」
起き上がり、何を踏んだのか確認した忍足はたまらず叫ぶ。
「なんでバナナの皮!!?」
そう、忍足が踏んだのはバナナの皮。なぜここにバナナの皮があるのかは、誰にもわからない。
『あっはっはっはっは!!』
赤組観覧席から、美麗の笑い声が響いた。爆笑である。