焼き肉大食いバトル!
全国大会が終了し、ようやく落ち着きだした9月上旬。
氷帝男子テニス部レギュラーとマネージャーである美麗は焼肉屋“肉々苑”に来ていた。
全国大会打ち上げという事で、跡部が奢ってくれるらしい。
しかも部屋は貸し切り。
ただっ広い空間に、肉のいい香りが漂う。


「肉うめェー!」
「岳人、ちゃんと噛んでから飲み込むんやで。」
「わかってるし!お前は俺のお母さんかよ!」
「ちゃうわアホ。俺は美麗ちゃんの旦那……あづぁ!!


熱々に焼けた肉を顔面に投げられ、忍足は悲鳴をあげる。


『ありえねー事言ってんじゃねーよ。焼かれたいの?』
「す、すんませんでした。」

『フン。』


美麗は忍足を鼻であしらうと、美味しく焼けた肉を口に運んだ。と、突然太鼓のような音が鳴り出した。
だがそんな事気にする様子もなく、肉を食べ続ける美麗達。
その間にも、太鼓の音はだんだんと速度を早くしていく。
それはまるで、殿様が皆の前に登場する時のようだった。
やがてスッ、とふすまが開き、辺りが賑やかな声に包まれる。


「……氷帝!?」


誰かが驚いたように呟いた。


「…オイオイなんのパーティーだ?これは。」


跡部がフッと笑いながら、言った。


「…――てことで!学校対抗、焼肉大食いバトル始まるよーん!」


どういういきさつでこうなったのかは謎だが、焼肉大食いバトルが開始した。


「司会は俺、菊丸と」
「氷帝の忍足でお送りします……ってなんでやねん!」
「おー!ナイスノリツッコミ〜!」


忍足のノリツッコミに菊丸は楽しげに笑うだけ。忍足はやれやれとため息をつくも、やる気満々らしい。


「さー!ここで焼肉大食いバトルに参加する選手を紹介するよー!まずは青学。」


桃城武。
越前リョーマ。
不二周助。
手塚国光。
乾貞治。
河村隆
大石秀一郎。


「続いて比嘉中!」


木手永四郎。
平子場凛。
田仁志慧。
甲斐裕次郎。
知念寛。


「…うわー、田仁志には勝てなそうー…」


菊丸が苦笑しながら呟いた。


「お次は六角中!」


佐伯虎次郎。
葵剣太郎。
黒羽春風。
天根光。


「続いて四天宝寺。」


ここで司会を忍足にチェンジ。


白石蔵ノ介。
忍足謙也。
千歳千里。
一氏ユウジ。
遠山金太郎。
石田銀。
財前光。


「侑士!負けへんでぇ!」
「望むところや。次は俺ら氷帝。」


跡部景吾。
樺地宗弘。
宍戸亮。
向日岳人。
芥川慈郎。
鳳長太郎。
日吉若。


「そして我が氷帝自慢の美女!我らが女帝、雪比奈美麗ちゃん!!以上の八人や!」
「…つーかなんで美麗の時だけ気合い入ってんだよ。」
「差別反対!」
『……なんで私まで…』


勝手にメンバーに入れられてしまい、美麗はため息をついた。


「……そういや跡部。自分髪の毛どないしたん?」


全国大会が終わってからまだ日は経っていない。一ヶ月も経っていないのに、髪が伸びるはずがない。疑問に思った忍足は聞いてみた。跡部は、フッと笑う。


「フン……王者の秘密、と言ったところか。」
「……あ、そ。」
『なーにが王者の秘密よ。ただのカツ…んぐっ!!』



カツラ。
そう言いたかったのに、言いきる前に跡部に口を塞がれた。


「余計な事言うんじゃねーよ!」
『〜〜っ!』
「……(なるほど。あれカツラなんか。)」


思わずニヤ、と笑う忍足だった。


「跡部!貴様俺の美麗に何をするか!その手を離せ!」
「うるせーよ!!美麗はお前のじゃねーだろ!俺のだ!」
『どっちも違うわよバカ!!』



開放されたと同時に怒鳴る美麗は相変わらずの跡部と真田に、深くため息をついた。


「いい加減俺らのこと紹介しろよぃ。」
「…せや。まだ参加校残っとったわ。ラストは立海。」


幸村精市。
真田弦一郎。
柳蓮二。
仁王雅治。
丸井ブン太。
ジャッカル桑原。
切原赤也。


合計で、六校。


「それじゃ、まずは簡単にルールを説明するよー!」


焼肉大食いバトル、ルール説明。
・一番多くお肉を食べた学校が優勝。
・十皿食べ終わる毎に乾特製、乾汁(ペナルティ)を飲まなければならない。
・すべて飲み干すまで、次の皿にはいけない。
・一番ビリな学校には罰ゲーム有り。優勝チームが内容を決めれる。


「そんなら、行くで。レディ……ファイトっ!」


こうして、焼肉大食いバトルはスタートした。


「まず一皿目…の前に!乾汁の登場でーす!」


じゃーん!と菊丸が見せた飲み物は、健康に良さそうな緑色をした、一見青汁のようなもの。
各テーブルに置かれた青汁を見つめ、青い顔をする六角メンバー。


「……た、ただの青汁だよね……ただの……」


そう言いながら、葵が一気に飲み干した。


「ぎゃぼぁああああああ!!」


途端、奇声を発しながらその場に倒れた。


「剣太郎ー!!」


六角、葵剣太郎。脱落。
それを見た氷帝、向日は「オーバーな奴だぜ。こんなの、ただの青汁だろ。」と鼻で笑った。


『ならアンタが飲みなさいよ。』
「やだ。」
『ただの青汁なんでしょ?だったら飲めよ。』
「青汁嫌い。」


ピキッと美麗の頬が引きつる。


『いいからちゃっちゃと飲まんかいィィィィィ!!』


額に青筋を浮かべた美麗は、無理矢理青汁もどきを向日の口に流し込んだ。
ゴクリと飲み込んだ瞬間、


「ぎゃああああああ!!」


悲鳴を上げて、倒れた。


『……よし、肉焼こう。』
「……ひでェなお前。」
「さようなら、向日さん。」



何事もなかったかのように、肉を焼き始める非情な美麗に苦笑する宍戸と、倒れて動かなくなった向日に手を合わせる鳳。
青学チームでは味覚のおかしい不二が一気飲み。「あーおいしい。」なんて言いながら笑っていた。比嘉中は田仁志が平然と飲み干し。


四天宝寺は誰が飲むかで揉めていた。


「謙也飲みや!ワイ嫌や!」
「いやいや、金ちゃんに譲ったるわ。」


先程の光景を見て、相当ヤバイものだと悟った金太郎と謙也は、青汁もどきが並々と注がれたコップを押し付け合っていた。


「財前ー!財前飲みーや!な?」
「いらんわ。あんなん見せられて“じゃあ飲みます”言うアホがどこにおんねん。」


財前は冷たく言い放つ。


「そうや!白石、自分健康に気使っとったよな?」


そう言い、謙也は青汁もどきを白石に渡した。だが白石は、頬杖をつきながら冷静に一言。


「……めっちゃ腹痛いねん。」
「なら肉食おうとすな!!」



一氏のツッコミが炸裂する。


「……七分。」
「え?」
「俺らが言い争ってる時間たい。」
「才気喚発の極みや!」


千歳が才気喚発の極みを発動。
あのまま黙っていればよかったのに……それがいけなかった。


「なら千歳飲みーや!」
「え?いやそれは……っ!!!」


金太郎に半ば無理矢理飲まされた千歳は、言葉もなく倒れた。
一方、立海では青汁もどきを見つめたまま、誰も動かなかった。だが、いつまでもこうしていては負けてしまう。


「…仕方ないな……俺が行こうかな。」
「幸村…いや、俺がいく。」
「いやここは俺が行こう。」
「…仕方ないのぅ。俺がいってやるき。」
「いやいや俺がいくって!」
「はいはい!俺がいきまーす!」


上から幸村、真田、柳、仁王、丸井、赤也。ジャッカル以外の皆が手を上げた。ジャッカルは嫌な予感がしつつも、手を上げる。


「…じゃあ俺がいく。」
「「「どーぞどーぞどーぞ。」」」


途端に皆がジャッカルに譲った。どこかで見た事のあるやりとりである。


「やっぱりな!そうくると思ったぜチクショー!」


ジャッカルは悔しげに叫び、青汁もどきを一気飲みした。
現在のトップは、氷帝。
素早く、でも優雅に肉を食いつくしていく。


「おーっと!氷帝10皿目突入ー!これは早い!」
「お待ちかねの乾汁やで。」


忍足が持ってきた二つ目の乾汁。それは先程とは違い、色は真っ赤。グツグツと、まるで地獄の世界のように煮えたぎっている。
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