真田vs氷帝R
そろそろ夏休みも終わりに近付いて来た、8月25日。毎日練習が続く中、久しぶりの休日。三日間ある休みのうちの、今日は二日目。
美麗は、真田家に遊びに来ていた。家族みんなで来たわけではなく、今回は美麗だけの単独行動。現在美麗の家族は留守。母親は真田の母親とお出かけ。弟は昨日から友達の家にお泊り。父親はもちろん、仕事。
必然的に一人になる美麗は、寂しさを紛らわすためわざわざ神奈川にやってきた。

真田の家に来たものの、家にはおじいさんと真田だけしかいなかった。そのおじいさんも、途中で用事があるからと家を出て行ってしまい、美麗と真田の二人だけになってしまった。
だが、そんな事は微塵も気にならない二人。会話したり、冗談を言い合ったり…。


『ねぇ?お腹空かない?』
「ん?……もう昼時か…」


時計に目をやると、針は12時をさしていた。もうお昼の時間だ。


『弦、素麺と冷や麦、どっちがいい?』
「そうだな……素麺がいい。」
『素麺ね、了解!』
「!?ま、待て待て待て待て待て!!」

立ち上がり、台所に向かおうとする美麗を真田は慌てて引き止めた。グイッと服の裾を引っ張る。


『何よ。』
「ま、まさか作るつもりか!?」
『それ以外に何があるってのよ。』
「わ、わざわざお前が作る必要はない!腹が減ったなら出前を取ろう!それかどこか行くか!そうしよう!」
『お金がもったいないじゃない。』


必死に引き止める真田は、たまらず美麗の腰にしがみつく。
美麗は『なんなのよもう!』と眉をしかめる。


『離してよ。』
「行ってはいかァァァァん!!」


ぶわっと目に涙をためて、台所にいかせまいと必死になる真田。美麗はそんな真田を見ると、口元をひくつかせた。


「お、俺はまだ死にたくなどない!頼む!殺さないでくれェェェ!!」
『そんな事しないわよ!だいたい私毒なんて持ってないし!失礼ね!』
「いやそんな意味じゃなくてだな!(お前の料理なんか食ったら確実に死ぬだろう!なんて言えるわけがない!)」

『…わかった、じゃあ一緒に作ろう。』
「は?」
『だから、一緒に素麺作ろう?これなら安心でしょ。』
「………まぁ、それならいいか。」
『よし!行くぞ弦!』


真田の背中を押して、台所へ。
腕まくりをし、いざ料理!
といっても、素麺はただお湯に麺を入れて茹でるだけの超簡単料理。


『えーっと、素麺ってどうやるのかしら…お湯沸かして…入れるだけ?なんかつまらなくない?塩こしょう入れちゃお!』
「うわァァァ!何をするんだ美麗!そんなものは入れなくてもいい!塩こしょう味の素麺なんて聞いた事ないぞ!」



塩こしょうをパッパと振りかけようとする美麗。


『そう?あ、じゃあ納豆入れる?美味しいよー納豆そーめん!』
「入れるなァァァァ!!納豆は後だ後!

はたまた納豆を茹でている最中に入れようとしたり。


『わさびなんてどうかしら!いい感じになると思うのよね。』
「確かにわさびはいい!だけどなんでまるごと入れるんだ!せめて擦りおろしてくれ!」
『めんどい。』



さらにはわさびを擦りおろす前の状態のまま、沸騰するお湯の中に入れようとする。もうわざとやっているとしか思えない。…いや、実際わざとである。
真田の焦る顔を見て、少し笑っている。


『冗談よ、弦。私そこまでバカじゃないわ。』
「……よかった…お前ならやりかねんからな。」


冗談だと聞き、心の底から安心した真田はホッと息をつく。
その後は何事もなく進み、普通なら10分足らずで完成するはずの素麺を、およそ30分で完成させた。
二人で風鈴の音を聞きながら、素麺をすすっている時、ガチャ、とドアが開く音がした。
おじいちゃんかな、と勝手に解釈し、気にする様子は見せない真田と美麗。
そのまま素麺を食べるのに没頭した。


「よう美麗、真田。」
「『!?ぶふぉ…っ!』」



突然の跡部の訪問に、美麗と真田は揃って吹き出した。
ゲホゲホと咳込み、美麗は汚れた口元をタオルで拭いながら、わなわなと震えて跡部を指さした。


『な、な、なんでアンタここにいるの!?』
「俺だけじゃねェよ。」
『……ま、まさか…』



跡部は襖を全開にする。
イェーイ!と元気よく現れた向日、ジローの姿に続き、忍足や宍戸といった氷帝レギュラー陣全員がそこにいた。


『なんでいるのよ!』


不思議でたまらない美麗。
だが、まったり穏やかな時間を潰され少しイラッとした。それは真田も同じらしく、拳を震わせながら尋ねる。


「…どうして美麗がここにいるとわかった?」
「ハッ…俺様をなめるなよ。探偵でもなんでも使って調べさせたに決まってんだろが。」
『探偵…バカかァァ!』
「お前の行動範囲なんざ、わざわざ探偵使うまでもないがな、今日はいまいちわからなかった。」
『…え、なに、もしかして今までずっと私のプライベートそうやって探ってたの?』
「ずっとじゃねェ。たまにだ。」
『………す、ストーカー!お巡りさーん!ここにストーカーがいまァァァす!!』
「跡部…お前という奴は…!美麗!110番だ!電話電話!」
「ちょ、待て待て!!違う、嘘嘘!うそ!んな本気になるなよ!」



二人は警察に連絡しようと電話を探した。跡部はさすがにまずいと思い、慌ててさっきのは冗談だと言い訳をする。


『…景吾ならやりかねないわよ。ねぇ弦?』
「あぁ。やりかねんな。」
「……」
『で、アンタ達は何しに来たの?休みの日までアンタ達の顔なんて見たくないんだけど。』
「冷たい事言うなよ美麗!ただ暇だったから遊びに来ただけだって!」
『だからってわざわざ神奈川まで来る?』
「いや、あんな美麗ちゃん。俺ら『あー、なるほどね。うん、わかった。』…まだなんも言うてないけど。」
『長くなりそうだったから。』
「…つまり、聞きたくないと?」
『当たり。』
「……あ、そう。」



少し落ち込む忍足なんてそっちのけで、キョロキョロと真田の家を見渡す向日達。


「…真田の家って和風だな…純和風?」
「なんか…日本って感じだC〜」
「確かに。落ち着きますよね。…あ、そういえば日吉の家も和風じゃなかったっけ?」
「そうだな。俺の家もだいたいこんな感じだ。」
『へぇー、若も和風の家なんだ!和風ってなんか落ち着くから、私好きなのよね。』
「でも美麗の家は洋風じゃなかったか?」
『まぁね……でも洋風も好きだし、別に不満はないわ。』
「…チッ…ソファーもないのかこの家は……犬小屋みてーに狭い家だな。俺様には向いてねェ。」
『文句言うなら出てけば!?』



和風の家には、当然ソファーなんてない。造りがまったく異なる家に、跡部は不満があるようで。さっきから文句ばかり呟いている。


「にしても…暑い。冷房すらねェのかよ…貧乏だなオイ。」
「……悪かったな、貧乏で。」



真田の家も、そこまで安っぽくはない。床も壁も、綺麗で汚れなんてないし、部屋だってけっこう大きい、外観も、きらびやかとまではいかないが、立派な感じで。少なくとも、貧乏な家には見えない。
だが、跡部の家に比べるとこんな家、貧乏くさくて狭いと言われても仕方がない。というか、跡部の家がデカすぎるだけだが。


「そりゃ跡部の家に比べりゃ、…なぁ?」
『…そうね。』


宍戸の呟きに全員が頷き、小さくため息を漏らした。


「あー…暑い!オイ美麗、アイス買ってこい。」
「あ、俺も食いたい!」
「俺も俺もー!」
『忍足にでも頼めば?』
「なんで俺?」
『いいから買ってきなさいよ。』
「いやいやいや!頼まれたんは美麗ちゃんやろ?行ってらっしゃい。」
『なんでこんなクソ暑い中外に出なきゃなんないのよ!』


とにかく!私は行かない!誰が行くか!腕を組み、そっぽを向く美麗。こうなった美麗は、てこでも動かない。
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