幸村の策略
ジリリリリリ…と薄暗い部屋に、目覚まし時計の音が鳴り響く。
『もーうっさい!』
乱暴に目覚まし時計を止め、眠たい目を擦る美麗。現在朝の6時。
『…眠い……』
ふわぁ、とあくびをしながら、カーテンを開ける。
眩しい朝陽が差し込み、思わず目を細める。もそもそと制服に袖を通し、部活に行く準備をする。
その時、携帯が鳴った。
『誰よ、こんな朝っぱらから………精市?』
電話の相手は幸村。
不思議に思いながら、通話ボタンを押す。
『はい?』
《おはよう美麗ちゃん。》
『おはよう……どうかしたの?』
《うん、ちょっとね。》
『何?』
《美麗ちゃんにね、お願いがあるんだけど…》
『お願い?』
《今日一日、立海でマネージャー業やってくれないかな。》
『は?立海で?』
《そう。》
『無理よ。私だって今日部活あるし、神奈川でしょ?遠いから嫌よ。』
《え、やってくれるの?ありがとう!》
『話聞いてた!?嫌だって言ったんだけど!どんな耳してんだ!』
怒鳴りながら、階段を下りる。
『だいたい急すぎるわよ。事前に知らせてくれればよかったのに…』
話しながらリビングに続くドアを開けた。
「おはよう。」
『おは……って………えええええ!!?』
リビングに入ったすぐ近くのソファーには、携帯片手に幸村が平然と座っていた。びっくりしすぎて、固まる美麗。
『な、なんでいるの!?お母さん!なんで!?』
「美麗のお迎えですって。」
『お、お迎え?』
「言っただろ?立海に来て欲しいって。」
『断ったじゃない!』
「返事はイエスorはいだよ。」
『結局どっちも同じ意味じゃない!!無理無理無理!!絶対行かないから!』
「ちなみに美麗ちゃんには拒否権はありません。」
『横暴だぁぁぁ!!』
「さぁ行こう。立海まで俺が案内するよ。」
ニコリと笑い、幸村は美麗の腕をガシッと掴む。
いやいやいや!ちょっと!と抵抗虚しく、そのまま連れ去られてしまった。
「いってらっしゃいー!」
『お母さんー!何で手ェ振ってんの!助けてよ!』
美麗の叫びは、母には伝わらず。
1時間くらいで神奈川県へ到着。立海大附属中学校と書かれたプレートの前で、美麗は呆然と立ち尽くす。
『ほ、本気?本気なの?』
「もちろん、本気だよ。」
『………』
またまた腕を掴まれ、テニスコートへ連れられた。
美麗はもう抵抗しない。
ここに来る間、抵抗しても無駄だと散々思い知らされたから。
「皆、今日一日だけ美麗ちゃんがウチのマネージャー業やってくれる事になったから。」
「マ、マジッスか!!?」
『………あー、うん。もういいよ。どうにでもなれ。』
レギュラー陣、赤也以外は「また横暴な事したな」と苦笑。
美麗が来てくれる事は嬉しいが、無理矢理連れてこられたと知っては素直に喜べない。
笑顔の幸村の隣で、死んだ目をして乾いた笑みを零す美麗を見て、心の中で謝った。
「じゃあ、よろしくね。」
『……はーい。』
グダグダ言っても仕方がない。
美麗は気を取り直し、マネージャー業をする準備をする。
「美麗。」
『…あ、弦!おはよう。』
「あぁ、おはよう。……その、幸村が無理矢理連れて来たらしいな。」
『あー……まぁ。』
「…すまない。」
『…全くね。なんて横暴なの。ジャイアンかアイツは。それより、ジャージかなんかない?』
「ジャージ?」
『マネ業やるのに、制服でやれって言うの?汚れるじゃない。』
「あぁ……なら俺のジャージを貸そう。長袖だが、構わんか?」
『うん、ありがと。』
真田から長袖ジャージを借り、早速着替える。着替え終わると、さて、やるか!と腕捲くりした時。
「美麗先輩ー!!」
『ぐぇっ!!』
突然、赤也がタックルをかましてきてカエルが潰れたような声が出てしまった。
『あ、赤也…』
「先輩!俺ちょー嬉しいっス!」
スリスリとほお擦りする赤也。
美麗は苦笑しながら、赤也の頭を撫でる。
『赤也、練習に戻らなきゃ、精市に怒られるわよ。』
「ウッス!」
『頑張って。』
「はーい!」
赤也はスキップしながら練習に戻っていく。心の底から嬉しそうな赤也を見て、美麗はやれやれと呆れたように笑った。
そして、いつも氷帝でやっている要領でやり始めたのだった。
まずはドリンク作り。ドリンクを作るため、レギュラー専用部室に足を向けた時、美麗の携帯が震えた。