夏風邪パニック
最近、全国で夏風邪が流行っている。今年の夏風邪はしぶといらしく、こじらせるとなかなか面倒らしい。東京でも夏風邪でダウンする者が多数。美麗も風邪を引いているうちの一人だ。だが、症状はそこまで酷くはない。熱もないし、だるさはあるものの部活には影響ないだろうと、普通に過ごして来た。
しかし、風邪は治るどころかどんどん酷くなってきて、夏風邪を引いてから五日が経った。


『……あー…だるい。』


洗濯物を干しながら、唸るように呟く。いつもの元気はなく、声に覇気がない。ふらふらと危なげなく歩く美麗。


「…なぁ、アイツ大丈夫なのか?」
「ふらふらじゃん。」
「……酔っ払ってんのか?」
「跡部、美麗ちゃんはまだ未成年だC。お酒なんて飲まないよ。」
「冗談だ。」



跡部達も、美麗の様子がおかしいのに気付き、心配そうに見ていた。


『…ケホッ……完璧拗らせたな……だるい…』


額に手を当ててみるが、自分ではよくわからない。ふらふらになりながらも、ドリンクを運ぶ。


「美麗。」
『…あー…亮か…何?』
「お前大丈夫か?顔色悪いぜ。」
『平気よ。』
「いや、でもふらふらしてるし。」
『…これはあの、あれ。ふらふらダンスの真っ最中だから。』
「じゃあ後でやれよ。何部活中に遊んでんだ。」
『なんか急にやりたくなったのよね、ふらふらダンス。亮もやる?楽しいわよ。』
「やらねーよ!」



いつも通りの美麗。
杞憂だったかと、安堵した宍戸。だが……それは杞憂なんかじゃなかった。


「っ!?」


突然、グラリと美麗の体が傾いた。宍戸が間一髪、美麗を抱き留める。


「おい!美麗?美麗っ!!」


宍戸の叫びに気付いた跡部達が、慌てて駆け寄ってきた。


「どうした宍戸……っ美麗!?」


跡部は宍戸の腕にいる美麗を見て、目を見開いた。


「ど、どうしたんだよ!」
「わ、わかんねェ!突然倒れたんだよ!」
「あわわわ!ちょ、ひ、日吉!救急車、救急車呼んで!」
「え!?あ、あぁ…き、救急車ァァァァ!!」
「誰がそんな画期的なやり方で呼べ言うた!つーかそんなんで救急車はこーへん…「日吉!もっと大きな声で呼ばないと!」……あの、もしもーし、聞いてる?」
「鳳、お前も手伝え!」
「わ、わかった!」
「「せーの…救急車ァァァァァァ!!!」」
「アカン、めっちゃパニクっとる。修正不可能や。」



突然の出来事に、パニクる日吉、鳳。その場で救急車ァァァ!と叫び、わたわたと大慌て。
1番取り乱しそうな忍足は、意外にも冷静でパニクる二人を、なんとか落ち着かせる。


「……熱いな…」


そっと美麗の額に手をやると、焼けるように熱い。
跡部は眉を潜め、宍戸に部室へ運ぶよう指示した。
ソファーにそっと横たわらせると、毛布をかける。向日が、濡れたタオルを手に戻って来た。
ゆっくりと額に乗せ、ようやく落ち着いた。


「……やっぱり風邪?」
「…多分な。今俺専用の医者を呼んだ。後は医者に任せる。」


医者が到着すると、早速検診。
やはり夏風邪が原因だそう。


「今年の夏風邪は拗らせると大変しぶといですから、こまめにタオルを取り替えてあげて下さい。水分補給も忘れずに。」
「あぁ、わかった。ご苦労だったな。」
「一応、薬も用意しておきましたので、辛そうならば飲ませてあげて下さいね。では。」


医者は、そう言い部室を後にした。残された跡部達は、静かに美麗の周りに集まった。
ゼィゼィと苦しそうに呼吸する美麗を見て、自分達まで苦しくなった。


「…跡部、練習どうするん?」
「……お前ら、やりたかったらやってこい。俺はここにいる。」
「…俺も。ここにいる。」
「俺もいるC。」


結局、レギュラー全員が部室に残った。皆、美麗が心配なのだ。
濡れたタオルはすぐに乾いてしまい、何度も水に浸す。


「…頑張りすぎだよな…美麗って。」


ポツリと、向日が呟いた。


「いっつも面倒くさい面倒くさいって言いながら…結局1番頑張ってんのは美麗だよな。俺達のためにさ。」
「多分、そのせいで風邪引いたんやろな。」


しんみりとした空気の中、美麗が咳き込んだ。


『ケホ…ッ…っ』
「美麗、大丈夫か…?」


声をかけるが、美麗はただ苦しそうに息をするだけ。


「先輩!死なないで下さい!先輩が死んだら、俺……っ」
「鳳…泣くなよ。」
「だって、だって…」
「……美麗ちゃん…死んじゃ嫌だC…。」
「………」
「ちょ、重い。なんやこの空気!」

『………勝手、に…殺さないでよね……』
「「「「!!」」」」


目を覚ました美麗が、跡部達の話を聞いていたのか小さく笑った。


『…ここ、部室…?』
「あぁ…」
『…もしかして、私倒れた?』
「あぁ。」
『………ゴメン。』
「全くだ。体調悪いんなら、無理に動こうとするな。」
『……はーい。』
「ゆっくり休め。後で家まで送るから。」
『……うん…』
「早く元気になって下さいね。先輩がいないと、つまらないし…」
「風邪なんかに負けてんじゃねーよ。女帝さん。」
「そーそー!案外美麗も弱っちぃんだな。びっくりだぜ。」
『…』
「美麗ちゃん、風邪治ったらまたひざ枕してねー。」
『……うん。』
「美麗ちゃん、薬ちゃんと飲むんやで。なんなら俺が口移しで飲ませたろか?」
『いらねーよ。死ね忍足。』
「…冗談や。そんな嫌そうな顔せんでも…悲しいわ…」
『………皆…ありがとう…』


か細く、小さな声で言って、そのまま意識を手放した。


翌日。


『おっはよー!』


元気に部活に顔を出した美麗。医者は三日は寝込むだろうと言っていたのに、たった一日で回復。


「…おま、もう熱下がったのか!?」
『バッチリ!元気バリバリよ!』
「…信じらんねェ…」
「なんつー回復力……」


美麗の回復力に、驚かされた跡部達だった。


to be continued...


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