ストーカーを撃退せよ!
『……はぁ…』
「「「………」」」


まだまだ続く暑い夏。
氷帝学園男子テニス部は休みはあまりなく、今日も練習に勤しんでいた。だが、さっきから集中出来ずにいる。

原因である美麗はいつも通りの仕事をしているだけだが、その顔は不機嫌そうで…ため息ばかりしている。もうここ最近ずっとこんな感じ。
最初は暑さとめんどくささからだと思っていたメンバーも、こう毎日続くと不安な気持ちになりたびたび美麗をチラ見してしまう。

お昼休憩になり、涼しい部室で昼食を食べている時…向日が思い切って尋ねた。


「なぁ美麗、お前なんか変じゃねェ?」
『…そう?』
「ここ最近ずっとため息ついてるし、不機嫌そうだしよー。なぁ皆?」
「確かに。」
「先輩、何か嫌な事でもあったんですか?」
「それとも、悩み事か?…いや、お前に悩みなんてねェか。」
『失礼な!私にだって悩みくらいあるわよ!』
「何に悩んでんだよ。言ってみな。相談相手くらいならなってやる。」


あのね、と、美麗は遠慮がちに口を開いた。


『……最近…誰かにつけられてるみたいなの。』
「……マジで?」
『うん。多分ストーカー。』
「「「「「……ストーカー?」」」」」
「………ちょい待ち。なんで皆俺を見るんや!違うで、俺やない!」



ストーカーと聞いた瞬間、部室にいたレギュラー全員が疑い深い目で忍足を見た。
忍足は違う!と全力で否定。


「だよな。あーびっくりした。」
「でも忍足先輩ならやりかねませんよね。」
「十分にありえるな。」
「お前ら俺をなんやと思ってんのや。」
「「「『変態。』」」」
「………とにかく、俺はストーカーはせん。ストーカーせんでも毎日美麗ちゃんに会えるし。会えるだけで満足やわ。」
「…侑士じゃねーなら…………榊監督?」
「「「「…」」」」

「ありえるな。アイツもやりかねない。」
『…違うと思う。』


皆が思い当たる人物を上げるが、美麗の表情は浮かないまま。


「なんでだよ?」
『だって、忍足や榊は白昼堂々とやってくるでしょう?』
「…確かに。」
『でもね、今回のストーカーは暗くなってからしか来ないのよ。しかも私の後をつけてくるだけで、飛び掛かってこないし。』
「……」
『それに、忍足や榊なら私気配ですぐにわかるもの。』
「気配で?…お前忍者みたいだな。」
「…それがここのところ毎日?」
『うん。毎日。決まって一日練習がある日よ。』
「「「………」」」
「でもよー、美麗ならストーカーなんて一発で撃退できるだろ?剣道も空手も柔道もやってんだし。」
『…それが出来てたらこんなに悩まないわよ。』
「出来ないんですか?」


日吉が首を傾げながら問い掛ける。武術は一通りこなせる美麗がてこずるなんて…相手はいったいどんな人物なのか…


『昨日もね、後つけられたんだけど…振り向いたら……』
「振り向いたら?」
『…ストーカーが電柱に隠れてこっち見てたのよ!息が荒かったし…太ってたし……あぁあ気持ち悪い!あんな奴に近づきたくもないわ!』
「で、先輩はどうしたんですか?」
『怖くなったから走って逃げたわ。最初は追いかけてきたけど…すぐ諦めたみたい。』


青ざめながら話す美麗。
話を聞いた跡部達は静かに立ち上がった。


『え、何?』
「安心しろ美麗。俺達がストーカー取っ捕まえてやる。」
「許せんよなぁ…俺らの美麗ちゃん怖がらせるなんて…」
「美麗が怖がってんのに、黙って見過ごせねェよな。」
「先輩、絶対捕まえてみせますからね!安心してください!」
『皆……』
「そういう事だ。俺達が守ってやる。」


跡部の言葉に、宍戸達は力強く頷いた。


『ありが「よし、お前らさっさと練習終わらせて、ストーカー撃退準備だ!」…』
「「「「おぉー!」」」」



意気揚々と部室を出て行く跡部達。残された美麗は皆が出て行った方向を見てポツリと一言。


『…なんか楽しんでない?』



夕方になり、一日の練習が終わった。ストーカーを撃退するための準備があるからと言われ、部室の外で待たされる事15分。


「美麗、待たせたな。」


ようやく部室から出て来た。
一言文句を言ってやろうと思い、振り向く。


『遅い!何やって………た、の…………』


美麗は目を丸くさせ、彼らを凝視した。


「準備バッチリだぜ!」
「完璧な武装だな。さすが跡部。」
「フッ…こんなのは朝メシ前だ。」
『………何その恰好。』


美麗が呆れたような顔で問う。跡部達は胸を張って「ストーカー撃退するためには必須だろうが」と答える。
彼らの恰好……それは軍隊が着るような迷彩柄の服。全員がサングラスをかけ、手にはライフル銃をしっかりと構えている。
これから戦争にでも行きそうな勢いだ。


『アンタらどこ行くの?』
「ストーカー撃退しにだ。」
『おかしいわよ!なんでストーカー捕まえるのに銃がいるわけ?戦争行くんじゃないんだから!』
「だって何があるかわかんねーじゃん。念には念を入れとかねーと!」
『念入れすぎ。』
「ストーカーにバレないようにしないといけませんからね。これなら目立たないですし。大丈夫ですよ!」
『いや目立つよ。怪しいもの。ストーカーよりアンタ達のが怪しいわ!』
「安心しろって。な。」
『安心出来ないわ!』

「つべこべ言わずに、さっさと行くぞ!」
「「「ラジャー!!」」」
「なんかワクワクして来たC〜!」
「俺も俺も!」
「確かに、楽しいですね!ねぇ宍戸さん!」
「まぁな。」
『お前らストーカー捕まえる気ないだろ。ふざけてんのかコラァ!』
「落ち着いて下さい美麗先輩。」
『……若、アンタもその恰好なんだ……』
「先輩も着ますか?一緒に日本を守りましょう!」
『着ねーよ!日本を守るって何!?なんでそんなにノリノリなのよ!』



軍服を着て、テンションが上がっている日吉。日吉だけでなく、皆同じだ。


「いいかお前ら!何がなんでも日本の平和を守れ!」
「「「はい!」」」
『……おい!私を守るんじゃなかったの?戻ってこい!!』



美麗の願い虚しく、跡部達はスキップする勢いでそれぞれの位置につく。
暗い夜道を美麗は一人で街灯のない道を歩く。美麗の少し後ろには、跡部、日吉、向日。美麗の少し前には宍戸、忍足、鳳、ジローが張り込み、不審な人がいないか、辺りを注意深く見渡している。


「忍足、聞こえるか?」
《聞こえるで。》
「不審な奴はいたか?どーぞ。」
《いや、今のところそれらしき人物は見当たらんなぁ。そっちは?どーぞ。》
「あぁ、こっちも大丈夫だ。……あ…オイ忍足!」
《どうしたん?》
「向日がトイレに行きたいらしいが…どっかにトイレねェか?どーぞ。」
《…いや知らんわ。》
「侑士ィィィ!!トイレ、トイレェェェ!!どーぞ。」
《だから知らんて。どーぞ。》
「忍足さん、この辺りに美味しいぬれせんべいがあるらしいんですが、どこか知ってますか?どーぞ。」
《知らん!!つーかイチイチ無線使って聞いてくんなや!どうでもええわそんな事!どーぞ!》



早くも戦線離脱し始め、無線ごしに言い争っている時、美麗の背後に太った怪しい奴がついている事に宍戸が気付く。


《だから知らん……ってうわ、ちょ、宍戸何すん――――貸せ!おい跡部!美麗の後ろ!不審人物現れたぜ!》
「何!?急げお前ら!銃用意!」


ジャキッと皆がいっせいに銃を構える。狙いを定めて一気に発砲!


ズバババババ!

『!?』
「っいだだだだだ!!」
『ちょ、ぇええ!?何発砲しちゃってんのォォォ!!』


ストーカーらしき人物は、突然の出来事に腰を抜かし地面に座り込んでいた。
物影から出てきた跡部達はすぐさまストーカーを縛り上げる。


「…よし、捕獲完了!美麗、大丈夫か。」
『…大丈夫だけど……ていうかなんで発砲するの!危ないじゃない!怪我してない?』
「大丈夫だ。あれはただのビービー弾だからな。」
『…あ、そ。そこは子供らしいんだ。』



そして、ストーカーは無事警察に捕まり、また平穏が訪れた。


to be continued...


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