いざ大阪へ
『ここが大阪かぁー。』


夏休み真っ只中。
氷帝学園男子テニス部は大阪にやってきた。東京とは違う雰囲気に、興奮を隠しきれない向日、ジローは大はしゃぎ。


「なぁなぁ!あれテレビでやってたやつじゃね!?」
「あ!ホントだ俺も見た事あるC〜!すっげー!」
「…おい、静かにしろ。笑われてんぞ。」
「……激ダサだな。」


大きな声で騒ぎ立てる向日とジロー。道ゆく人々はクスクス笑いながら通り過ぎていく。
そんな二人と一緒にいる跡部、宍戸は呆れ顔。忍足はただ「懐かしいなぁ…」と思い出に浸っている。鳳はのほほんと笑うだけ。日吉は関わりたくないとでもいうように知らん顔。
二人を黙らせると、跡部が「そろそろ行くぞ!」と先を歩き出した。その後をぞろぞろと着いていく。

向かう先は四天宝寺中学校。
四天宝寺のテニス部と練習試合をしに大阪へやってきたのだ。
なぜいきなり四天宝寺と練習試合する事になったのか。
それは忍足が原因。この間、大阪にいる従兄弟と電話で世間話をしていたら、いつの間にか内容がテニスの試合の話になり、忍足がどうせなら練習試合をしないかと冗談で提案してみた所、従兄弟は本気にして、部長に話してしまったそうな。
そうして四天宝寺の部長自ら跡部に連絡をし、練習試合の日程が決まった。

決まったものは仕方ない。
そのまま今日を迎えた。
一日目は練習試合。
二日目は大阪観光の予定になっている。


『…ここが四天宝寺中学校?』
「………学校っつーより…寺?」
「鳥居がある…」


目の前にそびえ立つのは立派な鳥居。ここが四天宝寺中学校なのか?と、見上げる。


「おーい!おーい!」
『…あれ、金ちゃんじゃない?』


一際大きな声が響き、そちらに顔を向けると、ヒョウ柄のシャツを来た金ちゃんが手を振っていた。その隣には白石を含め、テニス部員が立っている。


「よぅ白石。」
「今日はよろしゅう。」


白石と跡部が握手を交わしている最中、ダブル忍足は言い争いをしていた。


「オイコラ謙也。何本気にしとんねん。冗談で言っただけやのに。」
「お前が似合わん冗談言うからやわ!自業自得やブァーカ!」
「な、なんやと!?謙也のアホ!」

『あーうるさいうるさい!』


いつまでも続きそうな言い争いを、美麗が止める。


「ほな部室行こ………あれ、小春とユウジは?」


部室に案内しようとした白石が、小春と一氏がいない事に気付く。辺りを見渡しても、姿は見当たらない。


「まだ来てへんみたいやな…」
「…しゃーない、すまんなぁ、もうちょい待ってや。」


申し訳なさそうに眉を下げる白石。そのまま待つ事5分。


「コラー待てー小春ぅー」
「ウフフー!あたしを捕まえてー」
「小春ぅ〜!」
「ユウくーん!」
『「「「……………」」」』



小春と一氏がやってきた。
ベタな展開を繰り広げながら。


「あ!美麗ちゃんやないのー!お久しぶりねー!」


小春は美麗を見つけるなり、飛び付いてきた。
がしっと抱きしめられ、美麗は固まる。


「相変わらず綺麗やね〜!抱き心地最高やわぁ。らぁーぶ!」


片目をつむり、さらに投げキッスを直に受けてしまった美麗は引き攣った笑みを浮かべた。


「オイこら雪比奈!何小春たぶらかしてんねん!死なすど!」
『…やれるもんならやってみろや。』
「…じょ、冗談ですぅー。すんませんでした。」



小春を引きはがし、一氏は美麗を睨みつけるが、それよりもさらにキツイ眼光で睨まれ、一氏は縮こまりペコペコ謝った。


「全員揃った事やし、部室行こか。ついて来てや。」


落ち着いたところで部室に案内され、それぞれジャージに着替えてテニスコートへ集まった。


「ほな始めよか。」
『ねぇ?』
「ん?」
『あの人誰?』


美麗が指さす先には帽子を被り、だらしない恰好をした男。
白石はあぁ…会うのは初めてやったかな。オサムちゃん!ちょっと!とあの男性を呼んだ。


『…オサムちゃん?蔵ノ介の友達?』
「…四天宝寺の顧問や。」
『顧問!?んなバカな!こんなチャラチャラした人が先生なわけ!?』

びっくりしたように男性を見る美麗。男性、オサムちゃんはハッハッハと豪快に笑った。


「ズバッと言うなぁ君!はじめまして、やな。四天宝寺テニス部顧問の渡邉オサム言います。よろしゅう。」
『…は、はぁ。よろしくお願いします。』


ニコニコ笑う先生と握手をかわす美麗。


「にしても氷帝はええなぁ。こんな美人なマネージャーがおるなんて。羨ましいわ。名前はなんて言うん?」
『雪比奈美麗です。』
「雪比奈さんかぁ!ええ名前やな!うん、気に入った。こけしやろう。おーやろう。いくつ欲しい?…そやな。雪比奈さん可愛ええから特別に10こけしやろ。」
『………ありがた迷惑だよコンチクショー。』



強引にこけしを手渡され、受け取るしかない美麗。
両手いっぱいにあるこけしを見て、小さく悪態をつく。


ようやく練習が開始され、美麗は作ったドリンクを持ち、テニスコートに入る。頑張ってテニスをしている、かと思いきや、テニスらしいテニスはしていなかった。

ダブル忍足は言い争い。
白石と跡部は好き勝手暴れる部員達の相手をしきれず現実逃避。「…いい天気だな。」「…そうやなぁ。」と遠い目。

金ちゃんと向日はテニスコートを駆け回る。(金ちゃんが向日を追いかけているだけ)
小春は宍戸、鳳に絡みつく。それを見た一氏は「宍戸ぉ!鳳ぃ!小春誘惑すな!」と睨む。
「…もうやだ。」「……ハハ…」睨まれた二人はげっそりと肩を落とす。
ジローは日影で昼寝。
日吉と財前は無言で睨み合っている。


『………』


美麗はただ呆然と立ち尽くすだけ。呆れてものも言えない状態だ。
結局、真面目にテニスをしたのは2時間くらい。跡部が予約したホテルで疲れを癒した。
明日は大阪観光。四天宝寺が案内してくれるそうだ。


『…ていうか今日はテニスしに来たんじゃないの?何であんな騒ぎになるかな。全く…』


今日の出来事を思い出しながら、眠りについた。


翌朝。
大阪観光がよほど楽しみなのか、朝からテンションが高い向日、ジロー。


「ほな、どっか行きたい場所あるか?」
「タコ焼き食いたい!」
「俺も俺もー!」
「タコ焼きか、ならめっちゃ美味いタコ焼き屋案内したるわ。謙也が。
「なんで俺なんや!!」
「俺場所知らんねん。」
「…はぁ…まぁええ。行くでー。はぐれんなよ。」


先頭を歩き出した謙也の後を、しっかりついていく。


『……ん?』


途中、ある店が美麗の目に止まった。立ち止まり、ガラスケースを覗き見る。


『…可愛い…』


可愛いものが好きな美麗は目を輝かせて食い入るように見つめる。


『ね、景吾、見てコレ……………あれ?』


隣にいるはずの跡部に声をかけ、振り向くがそこには誰もいなかった。


『……あら?皆どこ?』


まさかはぐれた?いや、いやいや、そんなまさか!え、嘘どうしよう。
軽くパニクる美麗は、電話をしようと携帯を開く。しかし、フッと画面が真っ暗になった。


『……え、まさか電池切れ?』


そういえば、昨日充電するの忘れてたかも。望みが絶たれ、ズガーン!とショックを受ける美麗がしばらくそこで立ち尽くし、どーしよー…と頭を悩ませている時。


「なぁなぁ君何しとるん?」
『……』


軽そうな男に声をかけられた。


「うおっ!めっちゃ可愛い!」
「一人なん?」
『…ほっといてよ。』


ナンパ野郎を心底嫌そうな顔であしらう。けど相手は引く気は一切なく、なおもしつこく迫ってくる。


「一人なんやったら俺らと遊ばん?」
『いい。』
「そう言わずにさ、ほら行こっ!」
「おい。」


連れて行こうと男が無理矢理美麗の手を引っ張る。
と、別の声がした。少し怒っているような、低めの声が。


『……亮?』


その声の主は宍戸だった。
宍戸は美麗を引き寄せると、男達を軽く睨み一言。


「お前ら…なにしてんだよ。」
「なんや…彼氏おったんか…」
「チェッ…」


男達はバツの悪そうな顔をしながら、去って行った。


『……』
「…このっバカ!跡部にあれほどはぐれるなって言われただろ!?」
『うぐ…っ…ご、ゴメン…なさい。つい。』
「携帯に連絡しても出ねーしよ…」
『あー…携帯、電池切れちゃって…』
「ったく…ま、無事でよかったぜ。お前は一人にさせられねーからなぁ。」
『なんでよ。私一人でも平気よ!』
「いやダメだ。お前方向音痴だろーが。絶っっ対迷う。迷われたらこっちが困るからな。」
『……(否定できないわ。)』

「お、電話………跡部か。美麗?あー見つけた。今一緒にいるけど。…は?マジかよ……あぁ、わかったよ。じゃあな。」


ピッと電話を切り、小さくため息をつく。


『景吾、なんだって?』
「…なんかアイツらここから随分遠くへ行っちまったらしい。どうせ今から合流するのは難しいだろうから時間まで二人でいろだと。」
『そっか。時間は?』
「確か5時にホテル前って言ってたな。」
『今1時だから…まだ時間はあるわね。ね、私お腹空いた。タコ焼き食べたい。』
「……そーだな。行くか。ほら、手。」
『手?』
「…またはぐれると俺が困るからな。」
『…ふふっ…ありがと。』


宍戸の優しさが伝わったのか、小さく笑い、手を握る。
顔はよく見えなかったが、宍戸の耳が赤いのに気付く。


『…アンタ手おっきいのね。』
「そりゃ男だしな。お前は小せーな。」
『女の子だからね。』


そんな会話をしながら、タコ焼き屋に到着。タコ焼き二つ購入し、近くのベンチに腰かける。


『いただきまーす!』


パクリとあつあつのタコ焼きを頬張る美麗は一口食べた瞬間、目を輝かせる。


『美味しい!すっごい美味しい!』
「さすが本場。味が違うな。美味い!」
『んー…幸せ。…亮のそれ何?チーズ?』
「おぅ、チーズ入りタコ焼き!意外と美味いぜ。」
『へー…ちょっとちょーだい。』
「は?……まぁいいけど、お前のもよこせよ。」
『じゃあ交換こしよ。はい。』
「………え?」
『ん?何?いらないの?』


差し出されたタコ焼きを見て、固まる宍戸。美麗は首を傾げ、何かおかしい?みたいな顔で宍戸を見る。


「え、いや…」
『ほら。冷めちゃうわよ?』
「………お前わざと?」
『何が?』
「………」


いつまでたっても食べようとしない宍戸。見兼ねた美麗はタコ焼きを口に突っ込んだ。


「んごっ!?」
『早く食べてよ。冷めるでしょ。』
「だ、たからって突っ込むなよ!あっつっ!」
『これ貰うねー。』


美麗は宍戸の手もとにあるチーズ入りタコ焼きを食べる。
ん、これも美味しい!と嬉しそうに笑う美麗と、舌をやけどしたのか涙目になる宍戸を周りの人はなんてかわいらしいカップル。と温かい目で見ていた。
それからも宍戸は美麗に振り回され、ホテルに戻った時にはぐったりしていた。


「美麗!お前はまた迷子になりやがって…!」
『迷子になってないし!ちょっと目反らしたら皆がいなかっただけだから!』
「迷子は迷子だろーが!宍戸に礼はいったのか!?」
『言ったわよ!』
「てゆーか宍戸くん、死んでない?」
「……お前宍戸に何した?」
『何もしてないわ。ただちょっと付き合ってもらっただけよ。』
「…………宍戸、ご苦労だったな。」
「……あぁ。」


to be continued...


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