合同合宿【4】
「やっぱり大きいですねー!さすが跡部さん!」
「朋ちゃん!走っちゃダメだよっ、危ないよ!」


朋香は桜乃や杏の言葉も聞かずに一直線にお風呂へダイブ!
楽しそうな笑い声は、隣の男風呂にまで響いていた。ちょうど同じ時間帯に入っていた男子は、元気だなーとのんきに聞いていた。


「美麗先輩、元気出して下さい!」
『…はぁああ……死にたい。』


美麗の大きなため息も男子側には筒抜けで、最後にポツリと呟いた言葉もはっきり聞き取れた。


「まだ落ち込んでんのかよ!!」
「死にたいって…かなりの重症ですね。」


あまりのネガティブさに苦笑を漏らした。


「お姉様!大丈夫ですよ!ただの噂だから。デマかもしれませんよ?それに、いざとなったら男の子が守ってくれますよ!」
『……あの人達が?…ハッ。』


美麗は一瞬の間の後、何を思ったのか鼻で笑った。


「鼻で笑いやがったぞアイツ!」


当然それも聞こえていて、そんなに頼りないか!とちょっと悔しく思った。


「ま、まぁ頑張って下さい。」
『はぁあ…このまま溺死しちゃおうかな…』
「「きゃー!先輩っ!」」
「お姉様早まっちゃダメェェェ!!」


「…オイ、美麗と同じグループになった奴は気をつけろよ。」


跡部の言葉に、全員が無言で頷いた。そして、無言のまま風呂場を後にしたのだった。
その頃の女子も、美麗をなんとか宥め、風呂から上がっていた。

全員が楽な恰好でテニスコート前に集まった。
肝試しをするコースを、急遽跡部が用意(正確に言えば跡部の家の使用人達)してくれたらしく、一行は早速その場所へ向かった。辺りはもう真っ暗で、山はよりいっそう暗く感じた。
用意されたコースを見た美麗はあまりの不気味さに鳥肌が立ち、無意識のうちに隣にいる手塚の服の裾を掴んでいた。


「…美麗?」
『…な、何。』
「怖いのか?」
『べ、べつに!全然平気よ!』


あからさまな態度。
誰もが怖いんだとわかっているのに、本人は決して素直に頷かない。どうしても意地を張ってしまう。
服の裾を掴む美麗の手が少し震えていたのに手塚は気付いていた。怖くない、と言い張る美麗に思わず苦笑する。


「じゃールールを説明するよ!よく聞いておいてね。」


この用意されたコースを真っすぐ歩く。分かれ道も何もないから迷う事はない。突き当たりに曲がる場所があるので、そこから元の場所へ出てこられるようになっている。少し長めのコースだ。


「ただし、道中に何が起こるからわからないから気をつけてねー。」


にこやかに意味深な事を言う千石に、美麗の頬は引きつる。
参加者を何グループかに分ける事になり、参加者は前に集められた。待機組は少し離れた場所で成り行きを見守っている。
参加者は各学校以下の通りだ。

青学:手塚、菊丸、桃城、越前
立海:丸井、仁王、ジャッカル、赤也
氷帝:宍戸、向日、美麗、日吉
四天宝寺:白石、謙也
山吹:檀
六角:佐伯、葵
不動峰:橘(兄)
ルドルフ:観月、裕太

合計20名が参加。残りは待機。
1〜3までの番号が書かれた紙を引き、その順で森へ入ってもらう形になっている。
美麗は3番だった。


「美麗先輩何番っスか?」
『3。』
「マジっスか!?やった!一緒っスよ!」
『……はぁ…』


ガクリとうなだれる美麗を赤也は引っ張り、同じグループの元へ歩いていった。
美麗のグループには赤也の他に日吉、手塚、白石、謙也がいた。


「美麗先輩、また前みたいに気絶し『黙れバカ!』…」


気絶しないで下さいね。そう言おうとした日吉の口をすばやく塞いだ。


「それじゃあ1番のグループ、行ってらっしゃーい!待機組はこっちに来てねー。」


肝試しのスタートだ。
一組目は入ってから数分後に絶叫がこだました。それは菊丸と葵の悲鳴で、続けざまに佐伯や橘(兄)の落ち着け二人とも!という声も聞こえてきた。
モニターで一部終始を見ていた待機組は、肩を震わせ笑っていた。
30分くらいして、一組目が青い顔して戻ってきた。

続いて二組目。これもまた数分後に悲鳴が反響。声の主は丸井と向日。
宍戸やジャッカルのうおっ!?なんじゃこりゃ!という声や仁王の面白い仕掛けしよるなぁ。という感心した声も聞こえてきた。
その後も二組目の悲鳴は続く。
向日と丸井のぎゃああああ!という叫びには待機組もびくりと肩が強張った。宍戸のお前らの悲鳴のがよっぽど怖ェよ!という怒鳴り声も聞こえた。
そして戻ってきた時には向日と丸井は顔面蒼白。宍戸達も青い顔をしていた。
美麗はそんなに怖いの!?と冷や汗ダラダラ。


「じゃあラストだね!はい行ってらっしゃい!」
「ほな行こか。」
「なんかめっちゃ怖そうやな…」
「美麗先輩?行きますよ。」
『……や、やだ。』


立ち止まったままの美麗に声をかける日吉だが、美麗は嫌だと首を横にふる。


「大丈夫っスよ先輩!」
『ヤダ行キタクナイ死ニタクナイヨ』
「なんで片言やねん。つーか死なへんて。」



恐怖のあまり片言になる美麗に謙也は思わずツッコんだ。
日吉はやれやれとため息を付き、美麗の腕を掴み引きずりながら進んでいく。


『いーやァァだァァァ!!助けてー!ヘルプミー!殺されるゥゥゥ!!』
「誰も助けになんてこないんですから、無駄な抵抗はやめて下さい。」
「めっちゃ悪役やん。怖いわ。」



美麗の嫌だァァァ!と言う声は奥へ進むに連れて小さくなっていった。


『真っ暗だよー…』
「夜だから当たり前だろう。」
『うー……』


落ち着きなく辺りを見渡し、小さな物音でさえビビる。
もう強がってはいられない。怖いよーと呻き、前にいる日吉の服をキュッと掴み離さない。


「…先輩、服がのびます。」
『ゴメン。でも許して!』
「…はぁ。」
「先輩!俺が手ェ繋いであげますよ!はい!」


赤也が手を差し出すと、美麗はいいの?と遠慮がちに聞いてくる。大きく頷くと、日吉の服から手を離し、そっと赤也の手を握るとちょっとだけ安心したように息をつく。
美麗と手を繋げて内心舞い上がる赤也が、手を繋いだ事後悔するまで後数秒。


入ってから10分が経過。
今のところ何も起こらない。美麗も安心していて、リラックスしていた時。突然茂みから何かが飛び出してきた!完全に油断していた彼らはうおぁ!と飛びのく。


『っぎゃああああああ!!』


美麗は叫び、手を繋いでいた赤也の腕をガシッとわしづかみにし、ブォンブォン振り回した。


「ちょっ…美麗先ぱっ…んが!いだっ!のァァァ!!」


パニック状態の美麗に振り回され目を回わしている赤也。脅かし役の人とゴッツンとぶつかり、額に大きなこぶを作っている。


「おっ落ち着け美麗!止まるんだ!」


白石、手塚、日吉、謙也は必死に暴れる美麗を食い止めた。
正気に戻った美麗は赤也の状態をみてゴメン!と謝った。
赤也はだ、大丈夫っス。と力なく笑う。
モニターで見ていた待機組や終わった人達は、赤也に同情したと同時に美麗の暴れっぷりに冷や汗が流れた。
その後も、あちこちから現れる幽霊達にビビる美麗。
完璧に暴走してしまい、日吉の首を絞めたり、手塚を殴り飛ばしたり、謙也に頭突きしたり、白石や赤也を投げ飛ばしたり…違う意味での悲鳴が響き渡った。

モニターで全部見ていた待機組は実際彼らの有様を見て、顔を引き攣らせた。
美麗は青い顔をしていて半泣き。
日吉はげっそりやつれているし白石と赤也はあちこちにこぶがあったり頭に葉っぱをつけていたり、ボロボロ。
手塚は顔面を大木に打ち付けたらしく、眼鏡が割れ、顔にぶつけた後が。謙也はただ青い顔をして突っ立っていた。


「……肝試しは失敗だったかな…アハハ…五人とも、よく耐えたね。」


千石のその台詞に、見ていた全員か力強く頷いた。
そして、美麗と同じグループじゃなくてよかった。と心から思った。


肝試しが終わった後。
部屋に戻った美麗は怖くてしばらく眠れなかったらしく、翌朝、見事に寝坊した。
案の定跡部に怒られた美麗は大人しく謝るわけもなく、二人の喧嘩が勃発。その喧嘩はやはり1時間は続いたという。


こうして、合同合宿は終了した。


to be continued...


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