合同合宿【3】
『…赤也?』


目の前にいたのは赤也。
美麗は何?という顔で赤也を見上げた。赤也はニッと笑い、携帯を見せた。


『?………!ちょっと!』


画面には目を閉じていた時の自分が写っていたのだ。


「やっりィ!美麗先輩の寝顔ゲット!」
『赤也!消しなさい!今すぐに!』
「絶対嫌っス!」


笑いながら駆けていく赤也を、美麗は意地になって追いかけた。


『人の寝顔撮るなんて失礼よ!携帯貸せ!捻り潰してやる!!』
「げ!?それだけは勘弁して下さいよ!!」
『大人しく渡しなさい!!』


必死に逃げる赤也と、必死に追いかける美麗。
二人を見て、クスクスと笑う声が聞こえてきた。


「ふふ…あの二人、元気だね。」
「…そうだな」


木陰で寛ぐ跡部と幸村。
赤也と美麗を眺め、幸村は優しく微笑む。まるで子供を見守る母親のような眼差しだった。
一方で跡部は呆れたよう、でも楽しそうに見ていた。まるで父親のように。
遠くでは、美麗と赤也の言い争う声が聞こえる。
『捕まえた!さぁ携帯よこしなさい!』「嫌だ!絶対嫌だぁぁ!!部長ォォ幸村部長ォ助けてェェェ!!」『精市が来るわけないでしょ!いい加減諦めなさい!アンタに逃げ場はないの!』「うわわわ!」『…あ、あんなところにUFOが!』
「えっ!?どこっスか!?」『よっしゃ、隙ありィっ!』「あっ!?しまったぁ!!ちょっ、先輩、折るのだけは勘弁してくださ…ってあ゙あ゙あ゙ああ!!!けーたいィィィィ!!」


「……折られたのかな。」


響く赤也の悲鳴を聞き、なんとなく理解した幸村。その時の情景が目に見えるようで、ふふっと小さく笑った。


「…今時あんな嘘に騙される奴いるんだな。」
「ふふっ…可愛いだろ?」
「フッ…」


すると、二人が戻って来た。
赤也はぐずぐずと泣いていて、その手には無惨にも真っ二つに折られた携帯が。
美麗はいつもと変わらず。跡部と幸村を見つけると一直線にやってきた。


「部長ォォォォ!!」


赤也は幸村を見るなり大泣き。
幸村はただ笑っているだけだった。


「美麗、もうとっくに30分過ぎてるぜ。」
『あー…あと10分。』


跡部の隣に腰を降ろし、ふぅ。と一息つく。それから数分後に、キノコ狩りを再開した。


「美麗ちゃん、ちょっと。」
『あ、見つけた?』


キノコ狩りを再開してから30分くらいして、幸村が美麗を呼んだ。


「これなんだけど…」
『お。これチャナムツタケだわ。』
「チャナムツタケ?」
『うん。歯触りがすっごくいいの。美味しいわよ。』
「へぇ…じゃあこれも?」
『あ、それはよく似てるけど、残念ながら毒キノコ。カキシメジって言って、すごく臭いの。』
「……ホントだ。」
『ね。間違えないように、気をつけてね。』
「あぁ、ありがとう。それにしても、キノコ狩りってけっこう楽しいね。」
『でしょ?ふふっ』


嬉しそうに笑う美麗を、幸村は笑顔で見つめていた。


「…あ、あのー…美麗先輩。」
『ん?』


遠慮がちに声をかけたのはルドルフの不二裕太。


『…周助の弟、だっけ。』
「…そうですけど。」
『裕太って言うんだよね?』
「え、あ、はい。」
『ちゃんと話すのは初めてよね。よろしくね。で、キノコ見つけた?』
「これなんですけど…」


裕太が指さすのはとても綺麗なキノコ。ばら色やピンク、淡い紫色をしたキノコだった。


『これ…綺麗よねー。でもダメ。食べられないの。毒キノコ。』
「え!こんな綺麗なキノコが?」
『サクラタケって言うんだけどね。綺麗だからってなめてると痛い目みるわよ?』
「へぇ〜。」
『裕太。あれ。』
「え?あ、これ?」
『そ。それはカヤタケ。美味しいわよ。』


美麗は裕太に笑いかけ、また見つけたら声かけてね。と言い去っていく。

それから数時間が過ぎ、そろそろ帰るわよと号令がかかった。
山をおりる途中、美麗は採れたキノコを見つめ、ニヘラと笑う。


『帰ってキノコパーティーよ!景吾、これ持って。』
「自分で持て。」
『いじわる!忍足、お願い。』
「ほい。」
『ありがと。よーし、さっさと帰ろう!家まで競争ね!』


ダッと走り出した美麗のあとをまだまだ元気な向日、赤也、金太郎、丸井、ジロー、菊丸が続いた。


「…家じゃなくて合宿所だろ。」


宍戸の小さなツッコミは、誰にも聞かれる事はなかった。



合宿所に着くと、女子三人が出迎えてくれた。美麗だけを。


「お帰りなさい先輩!」
「お姉様ぁ!お帰りなさい!」
『ただいま。準備出来てる?』
「「「はいっ!」」」


食堂に行くと、キノコパーティーの準備は万端だった。
あとは料理だけらしく、美麗は皆で採ってきたキノコをシェフに渡した。


『じゃあ、とびっきり美味しいのよろしく!』
「はい、お任せ下さい美麗様。」


シェフ達は全員美麗に一礼。
その光景を目を丸くして見つめる部員。


「…跡部。美麗はどこかの令嬢か?」


手塚が隣にいた跡部に尋ねる。


「アーン?アイツが令嬢?んなわけねーだろ。立派な庶民だ。」
「じゃあなんでシェフが頭下げてんスか?」
「気にしたら負けだ。」


適当にはぐらかす跡部。
まだ何か言いたそうな彼らを一方的に遮断。各自部屋に戻り着替えて、手を洗ってから食堂にくるように指示をした。

午後6時30分。


『さぁ!料理もできた事だし、早速始めるわよー!』


テーブルにはキノコ、キノコ、キノコ。
どこを見てもキノコしかない。
すべてがキノコ料理。美麗は早く食べたくて仕方ない様子。


『それでは、レッツキノコパーティーィィィ!!』


美麗が大きな声で言うと同時に、辺りは一気に騒がしくなる。キノコパーティーの始まりだ。



to be continued...


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