合同合宿【3】
「たまには山登りもいいよな。」
「そうですね!……あ、キノコ発見。」
「おーい美麗先輩ー!キノコ見つけましたー!」
「こっちもありましたっスよー!」
「結構見つかるもんなんやな。」
「なかなか楽しいわ。キノコ狩りって。」


山に入って30分歩き、よくキノコが採れる場所へ到着。
限られた範囲でキノコを探すと、結構たくさん見つかった。
きっと場所がいいからだろう。
キノコを手際よく見つけるにはコツがある。キノコは森の中の様々な木々と共生しているため、木の種類を覚えるのだ。覚えるのは難しいようで意外と簡単。
それから、木の種類だけじゃなく斜面の向きが南か北か、西か東か。日陰か日向か。湿った土か渇いた土か等によって生えるキノコが変わる。選ぶ場所も大切なのだ。


「美麗、こんなの見つけたぜ!早く早く!」
『どれ?……んー…これは…食べられないわね。』
「マジで?」
『ネズミシメジって言ってね、あ、ほら。こっちが食べられるやつ。シモフリシメジよ。』
「…見分けつかねー。」
『シモフリシメジとネズミシメジは形がよく似てるから、間違えやすいの。見分け方はね、ネズミシメジは傘に粘性がない。触ってみな。』
「…あ、ホントだ。」
『傘に粘性がある方がシモフリシメジ。わかった?』
「おう!サンキュー!」


向日はニカッと笑い、キノコ探しを再開した。


「ねェ。」
『ん?何チビ助。見つけた?』
「…あれ。」


越前が指さす先にはバカでかいキノコ。美麗は目を見開き、すっ飛んで行く。


『これ!すごい!』
「食べられるんスか?」
『もちろん!ミヤマカヤタケって言って、鍋や煮物にすると美味しいの。でかしたわリョーマ!』


美麗は笑顔で越前の頭を撫でる。越前は顔を赤く染めながら子供扱いするなと抵抗。
それでもやめようとしない美麗に、越前はされるがまま。
ひとしきり撫でた後、頑張ってキノコ探してね。と言い置き他のところへ歩いて行った。


「ねーちゃんねーちゃん!!」
『なーに金ちゃん。』


金太郎は美麗を手招き。


「こんなん見つけたで!」
『ん?………あぁ、これ。』
「これは食べられるのん?」
『ううん。これは食用じゃないの。毒はないけどね。食べられないわよ。』
「そうなんー?」


金太郎が見つけたキノコは小型で赤っぽい色をした可愛らしいキノコ。名前をハナオチバタケ。だが、このキノコは毒こそないが食べる事は出来ない。
がっかりと肩を落とす金太郎。
どうしたものかと少し困惑。
すると、足元に何かを発見した。
美麗は、金ちゃんちょっと。と名前を呼び招き寄せる。


『このキノコは食べられるわよ。』
「ホンマに!?」
『えぇ。クリタケって言ってね、美味しいわよ。』
「やったー!白石ィー!見てみぃキノコ採ったでー!」
「おー。よかったなぁ金ちゃん。」


嬉しそうに走り回る金太郎を見て、美麗はクスリと笑った。
白石は美麗に目でありがとうと訴える。
金太郎はなかなか食べられるキノコが見つけられず、落ち込んでいたのだ。視線に気付いた美麗は白石にニコリと微笑み返し、その場を後にした。
ひとしきり見て回っていると、指定した範囲じゃない場所に行こうとしている人物を発見した。


『…あのジャージ……山吹?』


その人物は、山吹のテニス部ジャージを着ていて、髪は白。つんつんに逆立っている。


『……アイツはまったく…!』


美麗はずんずんとその人物に歩み寄る。そして、ジャージの裾を思いっきり引っ張る。


「!?」
『ちょっと!どこ行く気!?』


振り向いた人物…亜久津はチッと舌打ち。


「んだお前…あっち行ってろ!」
『勝手な行動はしちゃダメって、言ったわよね?人の話聞いてた?』
「うるせぇ!!何がキノコ狩りだ!そんなくだらねェ事やってられるかよ!」
『くだらないィ!?もう一辺言ってみなさいよ!』
「何度でも言ってやる。くだらねェ。」
『……っこの…白髪野郎!』
「あぁ!?んだとテメー…喧嘩売ってんのか!」
『うるさい!単独行動は禁止!戻りなさい!』
「指図すんじゃねェ!」


亜久津は乱暴に美麗の腕を振りほどく。


『きゃっ!?』


あまりの強さにバランスが崩れ、その場にしりもちをついた。


「!先輩…っ」


二人の様子をハラハラと見守っていたメンバー達は、心配そう。


『…ったぁ…』
「ふん。」
『…………あったまきた。』


プツン、と堪忍袋の緒が切れた美麗はすくっと立ち上がり、『どりゃあ!』と亜久津に向かって飛び蹴りをお見舞い。それは「ぐぉっ!」と見事背中にヒットした。
ドシャッと倒れる亜久津はすぐさま置き上がり美麗を睨みつける。


「テメェ…!死にてーのか!!」
『仁くん?』
「…あ?」


美麗はすっごく甘い声で亜久津の名前を呼んだ。
今まで聞いた事のないその声に亜久津はもちろん、跡部達まで固まった。


『ダメでしょう?ちゃんと言う事聞かなきゃ。ね?』


ニッコリと今までにないくらいの笑顔。綺麗なのに、綺麗に笑っているのに目が笑っていない。美麗の背後にはどす黒いオーラが溢れ出ている。


「……」
『仁くん、山はね、あなたが思っている以上に怖い場所なのよ?山にはちゃんと神様がいるんだから、見てるの。言う事聞かない悪い子は…死ぬよ?(殺すよ)』
「(今殺すって聞こえたんだけど!!)」



全員、冷や汗が止まらない。
怒鳴られるよりもこっちの方がよっぽど怖いと感じた。
どんな風に言えばいいのかわからないが、とんでもなく怖い。
とにかく怖い。丸井や跡部達は、怒鳴られるだけでよかったと心から思った。


『仁くん、さ、戻りましょうねー?』
「…は、はい。」


有無を言わさない圧力。
さすがの亜久津も、逆らえず、すんなりと戻ってきた。


「…あんなに小さくなった亜久津、初めて見たよ。」


千石は一人、そう呟いた。


『さー皆も気を取り直して頑張りましょうね?(見てねーでさっさと働けボケ!!)』


ニッコリ黒い笑顔のままこちらを振り向き言った。


「「「イ、イエス、ボス!!」」」


全員がビシッと背筋を伸ばし、敬礼。そして慌ててキノコ狩りを再開した。
12時になると、美麗達は昼休憩。日当たりがいい場所でシェフ達が作ってくれたサンドイッチが入ったお弁当箱を広げる。思っていた以上に疲れ、お腹もペコペコ。育ち盛りな男達は、すごい早さでサンドイッチを完食。食後は30分くらいの休憩を取る事に。

山には楽しそうな笑い声が響く。つかの間の休憩。皆やる事はバラバラだ。
あちこち走り回る者、山から見える景色を堪能する者、木陰で昼寝をする者、たくさんのはしゃぐ声が辺りにこだまする。
美麗は木陰でのんびりしながら、皆の様子を眺めていた。
時折吹く夏の風が気持ちいいのか、やがてゆっくり瞳を閉じた。暗闇だけの世界、笑い声がやけに大きく聞こえる。
ふと、前に人の気配と、カシャッという音がして、誰だろう、と美麗はゆっくり目を開けた。
prev * 45/208 * next