合同合宿【2】
全員のストレッチが終わると、打ち合いが始まった。マネージャー達はボール拾いに大忙し。
拾っても拾ってもボールはなくならない。
イラついた美麗はボールをついついブン投げてしまった。


「っだ!?」
『……あ。』


投げたボールは跡部の後頭部にクリティカルヒット。


『……。』
「…テメェ…何しやがる!」


振り向いた跡部の顔は般若の如く。
美麗は笑ってごまかそうとしたが、それで許されるはずもなく。
テニスコート内で追いかけっこが始まった。氷帝では見慣れた光景だが、初めて見る者が大半。ポカーンと眺める。


「テメッ、待てコラァ!」「何よ!わざとじゃないって言ってるじゃない!それくらい許してよ!心の狭い男ね!」と、ぎゃーぎゃー喚きながら走る二人。


「……あっちで練習しようか。」


幸村の提案でもう一つのコートで練習する事にした。
練習が終わった後も、二人の争いは続いていた。チラリと様子を窺ってみたら追いかけっこから殴り合いに変わっていた。
それを見た者は全員「!!?」と驚愕。慌てふためく彼らを、氷帝レギュラー陣が落ち着かせる。結局、二人が戻ってきたのはそれから一時間後だった。


午後6時。
夕飯の時間になった食堂は人で溢れ返っている。
座る場所は学年事に分けられた。同じ歳同士、仲良くしてもらおうという仕組みだ。
ただ、一年生は人数が少ないため二年生と一緒。三年、二年と分けられたテーブルにそれぞれ座り、全員が席についたところで「いただきまーす!」と一斉に食べ始める。

ワイワイと盛り上がる食堂。
と、三年生の席から美麗が立ち上がり、二年生側へやってきた。


「美麗先輩?どうしたんですか?」


鳳が問いかけると、美麗は眉をひそめたまま答える。


『あそこ、うるさい。』


美麗が座っていた席は、右に跡部、左に向日、前には忍足にジロー、丸井や菊丸と、うるさいメンバーに取り囲まれていたのだ。
食べ物の取り合いが美麗の眼前で行われ、汁やらかすからが散らかる。耐え切れなくなった美麗は、比較的大人しい二年生達の所へ避難してきたのだ。


「…なるほど。」
『ここで食べてもいい?』


もちろんいいですよ!と鳳は快諾。先輩も入るけど、いいかな。と周りに問いかけると、みんな笑顔で頷いた。ありがとう。と言い、どこに座ろうか考えていると、日吉と財前の間が空いているのに気付く。


『…なんでそこ空いてるの?誰か座る予定?』
「いえ別に。」
『ふーん……じゃあそこ座ってもいいかしら。』
「どうぞ。」


美麗は日吉と財前の間に座った。
ご飯を食べようとした時、向こう側から忍足が叫ぶ。
どうやら美麗がいなくなったのに気付いたようだ。


「美麗ちゃあああん!!なんでそんな所におるん!?戻ってきて一緒に食べよ!今なら特別に“あーん”したる、うおっ!!?


突然、忍足めがけてひゅん!と何かが高速で飛んできた。
間一髪避けた忍足。飛んできたそれはガスッと壁に突き刺さる。よく見ればフォークだった。


「「「………」」」


フォークを投げただけで壁にヒビが入る。どれだけ力込めたらああなるんだろう、と。もしあれが自分に刺さったら…と想像してしまい、全員がさーっと青ざめる。


美麗は何も言わず、静かに座ったと同時に隣にいる日吉がすかさず新しいフォークを渡した。
何事もなかったかのように食べ始めた美麗を数秒見つめたまま固まっていたみんなはようやく動き出した。

二年生側は美麗が加わり楽しそうに会話をしている。斜め前にいる赤也は元から仲良いが、前にいる桃城、他の二年生、リョーマや金太郎とは話しているうちにすっかり仲良くなれた。
美麗はふと、右隣にいる財前を見る。じーっと見つめていると、視線に気付いた財前がこちらを向いた。


「…何スか?」
『……ピアス、いくつ開いてるの?』


財前の耳につけられたピアスに興味があったらしい。


「さぁ。」
『ピアスって、耳に穴開けるのよね…痛くなかった?』
「別に。」
『アンタ冷たいわね』
「……」
『…もしかして、人見知り?』
「ちゃいます。」
『人見知りなんでしょ。見栄はらなくてもいいのよ?』
「だからちゃいますって!」
『名前なんて言うの?』
「…人の話聞いてます?」


財前の言い分にはまったく聞く耳持たず。自分のペースで話す美麗に、財前ははぁ、とため息をつく。


「財前光です。」
『光…へー…綺麗な名前ね。』
「…どーも。」


名前を褒められたのは初めてだったため、少し照れる財前。
チラリと美麗に視線を向けると、美麗は『?』となりながらもニコリと笑いかけてくれた。
笑顔を直視してしまった財前の顔はほんのり赤くなる。赤い顔を隠すようにフイッと顔を背ける。


『ねぇ、光って呼んでいい?』
「……先輩がどうしてもっていうなら、別にええですよ。」
『…素直じゃないなぁ。』
「あ、先輩!今日の夜、イベントありますよね。何やるんスか?」


赤也がガタリと立ち上がり美麗に聞くが、美麗は知らないと首を横に振る。その時。


「はーい!注もーく!」


なんの前ぶれもなく聞こえた声に、みんな何事かと視線を向ける。
マイクを持って立っていたのはオレンジ頭の千石清純と眼鏡の忍足侑士。


「イベント進行係の千石と」
「忍足や。」
「今日の夜のイベントを発表するよ〜。えっとね、今日のイベントは……王様ゲーム!」


じゃーん!と取り出したのは人数分の割り箸。
はぁ?王様ゲームぅ?マジかよ。等と周りからは不満の声。


「ルール説明とかは後でするから、9時にまた食堂に集合って事で。じゃ、解散ー。」


現在、時刻は7時半過ぎ。
2時間の間に、お風呂に入らなければならないため、一同は各々部屋へ戻る。
午後9時。全員がまた食堂へ集まり、学校別に固まっている。眠そうにしている人や、ワクワクしてる人、もうすでに半分寝ている人等様々だ。


「全員集まったね!よし、それじゃあ王様ゲームのルール説明するよ〜。」


人数は多い方が楽しいだろうからという事で、分ける事はせず全員でやるとのこと。全員一斉に割り箸を引き、その先に赤で“キング”と書かれたものが一つだけある。それを引いたものが王様。
王様は好きな命令を一つだけできる。王様の命令は絶対なため、拒否はできない。
指名する際には、名指しではなく番号を言う事。※番号は1〜52まで。


「それじゃあ早速始めるよ〜!みんな割り箸引いた?」


せーので番号を確認すると、美麗は隣にいた柳に問いかける。

『蓮二、王様になれる確率ってどのくらい?』
「ふむ……大人数だからな…10%といったところか。」
『低っ…不公平だと思わない?』
「こればっかりは、運だな。」
「王様誰ー?」
「はーい!!」


手を挙げたのは朋香だ。


「じゃあー…5番と3番、にらめっこして、笑った方が負けで!」


5番は桃城。3番は神尾。
負けず嫌いな二人はあれこれ変顔して笑わせようとするが、結局勝敗がつかず、引き分け。
次の王様は丸井だった。


「んじゃー17番の奴、ジュース買ってきてくれィ。喉渇いた。」


17番は幸村。
幸村はニコリと笑い、「丸井、後で覚えとけよ」と言った。丸井は顔面蒼白で、17番を指名した事を後悔した。

次の王様は金太郎。
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