ヘルプミー!
そして翌日。
美麗は電車に乗り神奈川県へやってきた。駅を降り、図書館を目指す。しかし、方向音痴が見ず知らずの場所で迷わないわけがない。すっかり迷子状態だ。


『おかしいわね。こっちだと思ったんだけど……弦に電話……いやダメだ!』


真田に電話をかけようとしたが、寸でのところで留まった。
昨日を思い出し、眉間にしわがよる。

昨日、真田に迷うなよと言われ、絶対迷わないと言い切った手前頼るわけにはいかない。
美麗の誇り高いプライドが許さないのだ。
どうしようと数秒悩み、やがてある人にメールをしてから電話をかけた。


《もしもし。》
『あ、蓮二?』


電話の相手は立海の参謀、柳蓮二。


《あぁ。どうした?》
『ちゃんと一人で来たんでしょうね。』
《もちろんだ。》



なんだか怪しい取引みたいだと思った柳だがそれは口にはしない。ただ黙って、美麗の話に耳を傾けた。


『実は…』


柳に道を間違えた事を説明。
あくまでも“間違えた”と言い張る美麗に苦笑する柳だった。

絶対に迷ったとは言いたくない。最後まで意地を張る美麗だが、一応迷ったという自覚はある。ただ認めないだけだ。

柳は丁寧に道を教え、やがて図書館が見えるところまでやってきた。ありがとうと素直に御礼を言い、電話を切る。
そしてあたかも迷っていない感じを演出する。柳も素知らぬ顔で立つ。という計画を考えたのは美麗本人。


「あ!先輩ー!こっちですよー!」


赤也がいち早く美麗に気がつき手を振った。


『…何あの目立つ集団。』


図書館の前に八人のイケメンが佇んでいる。しかも私服。
これがまたみんなのかっこよさをより引き立てていて、周りの視線を嫌という程浴びている。
けれど八人はそんな事気にする様子もなく、美麗が来るのを待っていた。


『ゴメン、待たせちゃった。』
「いや、そんなに待ってないから。大丈夫だよ。それより…わざわざありがとう。赤也のために来てくれて。」


幸村が申し訳なさそうに謝る。


『いいわよ。全然平気だから。』


そんな幸村に美麗が笑いかけて、ようやく幸村も笑顔になった。


「迷わずに来れたようだな、美麗。」
『この私が迷うわけないでしょ?何回言わせんのよ。』
(完全に迷っていたがな…意地でも認めないのか…)


二人の様子を見ていた柳は心中でそう思ったが、やはり口にはしない。


図書館へ入り、全員が座れるスペースを探しそこに座る。
机に勉強道具を並べ、開始数分。


「美麗せんぱぁい…全っ然わからないです。」


早々に赤也が隣にいる美麗に助けを求めた。


『早くない?アンタホントに英語ダメなのね。』


赤也の真っ白なノートを見て小さくため息をつく美麗はわかりやすく丁寧に英語を教えた。


『――だから、こうなるわけ。』
「あぁ!なるほど!」


スラスラ問題を解く赤也に、目を丸くさせる丸井、仁王、ジャッカル。関心したように見つめる幸村、柳。ヒソヒソと、小声で言葉を交わす。

(「すげー…あの赤也が問題解いてるぜぃ…」
「…夢でも見とるんじゃろか…」
「美麗は、一年の頃からずっと学年二位をキープしているという。」
「それは素晴らしいですね。」
「なんか本当、完璧って感じだよな。」
「あれが真田と血繋がっとるなんて、信じられんのぅ…」
「確かに。」)


「真田副部長なんかより全然わかりやすいっス!」
『いつも弦に教えてもらってるの?』
「はい。でも副部長すぐ殴るんスよ。」
『弦、ダメじゃない!可愛い後輩を殴るなんて!』
「……しかし」
『しかしじゃない!そりゃアンタの気持ちはよくわかるわ。赤也の英語、ありえない程ダメだもの。こんな簡単な問題も出来ないなんてバカ過ぎるわ。どうかしてる。だけどさ、もうちょっと優しくしてあげてもいいんじゃない?』

「………先輩」
「美麗の奴、さりげなく赤也をけなしちょる…」
「…フォローしているつもりなんでしょうね…全く出来てませんが。」
「むしろ美麗が赤也を傷つけているように見えるな。」
「まぁいいんじゃない?ホントの事だし。」

『アンタ何泣いてんの?』


ようやく赤也が泣いている事に気付いた美麗は不思議そうに覗き込む。


「な、…なんでもないです…」
『弦のせいね!?』
「なぜだ!?明らかにお前だろう!」
『はぁ?なんで私が赤也を泣かす必要があるの?私何もしてない!』
(いや明らかにお前のせいだろ)



全員の心が一致した瞬間だった。


その日は夕方まで図書館で勉強。
美麗は自分のを一切せず、丸井や赤也の勉強を見てあげていた。
そろそろお開きにしようか、と荷物をまとめ、図書館を出ると空はオレンジ色に染まっていた。


「美麗ちゃん、駅まで送るよ。」
『いい。大丈夫だから。』
「いや、わざわざ東京から来てくれたんだ。赤也達の勉強も見てくれたんだし…これくらいさせてくれ。」
『…いいの?』


コクリと頷くみんなの言葉に甘えて、駅まで送ってもらった。


『じゃあ、勉強頑張ってね。特に赤也とブン太。テスト結果必ず知らせなさいよ。』
「はい!頑張ります!」
「美麗が教えてくれたんだし、頑張らねーとな!」
『当然よ。これでもし赤点なんて取ってみろ。お前ら二人フルぼっこの刑だからな。


ニッコリ笑って固めた拳を見せる美麗の背後に黒いオーラを見た二人は青ざめて、すごい勢いで首を縦に振った。


「美麗、気をつけて帰れよ。」
『ありがとう蓮二。みんなも気をつけてね。バイバイ。』


テストまで、あと6日。


to be continued...


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