モテる女の苦悩
『景吾の使用人にまた運んでもらうようお願いしたの。すぐ来てくれるって。』
「…そ、そうですか。」
「お前さん使用人使いこなすとか何者じゃ。本当はどっかのお嬢様なんじゃ…」
『私は普通に庶民です。』
「普通の庶民は使用人なんか寄越さないっス。」
『いや普通でしょ?』
「どこが?」
『全部。』
「先輩のは普通とは言いません。絶対特別扱いっスよ。」
『普通だったら。』

「赤也、美麗は庶民のくせして変なところで感覚が鈍っているのだ。何を言っても無駄だぞ。」
「跡部くんの影響ですか?」
「ああ。…くそっ跡部め。俺の美麗を洗脳しおって…!」
『洗脳なんかされてねーっつーの。
あ、来た。』


五人の前に到着した一台のトラックから降りてきた身なりのいい男性は美麗の前で片膝をつき恭しく礼をする。


「お待たせいたしました、美麗様。」
『わざわざありがとう。じゃ、これお願い。』
「はい。承知しました。」


荷物を全てトラックに積み込むと、男性は綺麗にお辞儀したあと去っていった。一部始終見ていた街の人がざわざわと、あの子どこかの令嬢?絶対そうだよ!だってあの気品溢れる姿見て。令嬢じゃなかったらなんなの?庶民?庶民なわけないって!あんな綺麗な子をあたしらと同じにしちゃ失礼よ!などと囁き交わされる中、噂の中心である美麗はあれが当たり前とでも言うように満足気な笑みを浮かべていた。


『用ってそれだけ?』
「ああ。」
『わざわざご苦労さま。ああそうだ。弦、これあげる。』
「む、いつもすまないな。」
『いいのいいの。今年は郵送する手間が省けたから。』
「そうか…ちなみにこれは……」
『手作りだけど何?』
(…死んだな。)…いや何も…ありがとう。」
「副部長だけズルいっスよ!先輩先輩!俺には!?」
『ない。』
「ええー!!」
『嘘よ。ちゃんと立海の皆に用意してあるから。』


はい、と手渡された少し大きめの包みに、赤也は嬉しそうに笑った。


『皆でわけて食べてね。』
「はーい!ありがとうございまっす!」
「これも手作りか?」
『そうよ。』
「…(大丈夫なんでしょうか?)」
「(大丈夫じゃろ…あの時のカレーは好評じゃったし…)」
「(ですよね。)」
『何話してんの?』
「「何も。」」
『?ふーん。まぁいいや。私帰るから。』


仁王と柳生の内緒話が気になりつつも適当に流した美麗は気を付けて帰ってね、と四人に声をかけた。


「先輩も気を付けて下さいね。なんなら送っていきましょーか!」
『心配いらないわ。リムジンが来るから。』
「…そうっスか。」
『それと、チョコくれた子達にありがとう伝えといてほしいんだけど。』
「ああわかった。」
『あと、お返しは出来ないからそこんところよろしく。』
「わかった、伝えておこう。」
『じゃあね。』
「さよーならー!」


翌日真田が立海の美麗様ファンクラブの人に昨日の伝言を伝えると、耳をつんざくほどの奇声をあげ喜んでいた。お返しなんてなくてもありがとうの言葉だけで十分だ、と幸せそうにはしゃぐファンクラブ達だった。


「真田くん真田くん!」
「…篠田か…なんだ。」
「美麗様、あたしのチョコ食べてくれたかな!メッセージ入りなんだけど読んでくれたかな!?何か言ってなかった!?」
「いや何も。」
「ていうか携帯かして!美麗様と話したい!」
「ダメだ。」
「いいじゃん貸してよ!」
「嫌だ!」
「じゃあ直接会いに行っちゃおーっと。」
「やめんか迷惑だろう!」
「なら携帯かせ。」
「なぜ命令されねばならんのだ!借りたいのなら低姿勢で貸してくださいお願いしますくらい言え!」
「貸してくださいお願いします美麗様!」
「俺は美麗じゃない!」
「はっ!しまった真田くんがあまりにも美麗様と似てたからつい…」



相変わらず篠田の我が儘っぷりに振り回される真田はただひたすら彼女に携帯をとられまいと逃げ回る姿を幸村は苦笑しながらポツリと呟いた。


「モテる女の子って、大変だなぁ。」


to be continued...


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