スキー教室
忍足と滝、日吉はのんびりまったり滑っていたが、バランスを崩した一人の生徒が滝にぶつかり、滝は日吉にぶつかり、日吉は忍足にぶつかり…三人そろって転げ落ち、途中で上へと戻ろうとしていた跡部と美麗を巻き込み、皆揃ってだるま状態。


『〜っなんで皆転がってくるのよ!』
「ってーな!おい忍足どけ!」
「いや、日吉がどいてくれやんことにはどうにもならんわ。ていうか跡部、美麗ちゃんの上とか羨ましいんやけど。」
「知るか!」
『いいから早くどいて重い!』


ようやくもみくちゃ状態から解放され、はぁ、と息をついた跡部達。滝が誰がぶつかったんだろう、と見上げてみると、中級者コースにいた向日だった。向日は悪い足が滑って!と申し訳なさそうに謝りながらも、だるまになって転げ落ちた姿がおもしろかったのか今にも笑い出しそうな顔をしていた。


『どんな滑りしたらそうなるのよ!この下手くそ!』
「お前だって転げ落ちてたじゃん!人のこと言えねーだろ!?下手くそー!」
『なんですってー!?もういっぺん言ってみろ!』
「うわっうわ!ちょ、来るなぁああ!」



美麗の怒りを買ってしまった向日は慌てて逃げるが、すごいスピードで迫ってくる美麗になす術なくあっさり捕まり殴られていた。二時間の講習を終え、休憩を挟んだあとは、いよいよ自由時間。バラけていたメンバーが一ヶ所に集まると、始まったのは雪だるま作り。


『ねぇ見て、そっくりじゃない?』
「…それ、もしかして日吉ですか?」
『そう!そっくりでしょう?』
「…そっくりっていうか、ただのキノコ…」


鳳が苦笑いした瞬間、美麗が作ったキノコ、もとい日吉が無惨にも崩れ落ちた。


『ああああ!若が…!』
「ああ、すみません手が滑りました。」
『なんてことすんのよ!力作だったのに!』
「ただのキノコじゃないですか。」

『…まぁいいわ、写真は撮れたし。次は誰作ろうかなー。』
「なぁ美麗ちゃん次は俺作って。」
『いいわよ。ちょっと待って。………はいできた。』
「え、早くない?」
『簡単だったからね。』
「………これが俺?」
「…それ、ただの眼鏡じゃん。もう侑士でもなんでもねーよ。」

『作ってあげただけでもありがたく思いなさい。次岳人ね。』


にこにこと楽しそうに笑いながら、メンバーを型どった雪だるまを作りあげていく美麗。やがて全員分が完成したのか、満足気な表情で額に浮かんだ汗を拭った。


『完・成ー!』
「「「……」」」


右から順に、跡部、向日、忍足、宍戸、鳳、日吉、滝、樺地。なのだが、なぜか本人に似てもにつかない。跡部は丸い雪玉のみ、忍足は眼鏡、日吉はキノコ、滝と樺地、ジロー、宍戸、鳳、向日は普通の雪だるまに顔をつけただけでとても似ているとは言えない。


「おい、なんでこれだけなんだよ……まさかホクロのつもりじゃないだろうな。」
『よくわかったわね!大正解よ!他のはもうめんどくさくなっちゃって、適当。』
「作り直せー!」


憤慨した跡部が雪だるまをぶっ壊し、やり直しを要求。壊されたことに多少イラッとしながらも、もう一度全部作り直すことに。今度は全員で協力して作ったおかげでなかなか立派な雪だるまが並んだ。卒業アルバム製作のために同行しているカメラマンに記念写真を取ってもらったあと、ジローがタンデムスキーという、二人で息を合わせるスキーをしようと言いだし、誰が美麗とペアになるかで喧嘩になった。公平にじゃんけんで決めた結果、跡部と忍足ペア、ジローと日吉ペア、向日と樺地ペア、宍戸と滝ペア、鳳と美麗ペアにわかれ、競走をするため位置につく。開始の合図と同時にそれぞれ滑り出すが、一人でやる時より断然難しいタンデムスキーに悪戦苦闘。美麗と鳳も何度か転んだ。


「ざまぁねーな美麗!」
「…俺ら息合いすぎて怖いわ。」
「優勝はもらったぜ!」


なぜか息がピッタリな跡部と忍足が美麗の脇をすり抜け、斜面を滑っていく。悔しさに肩を震わせた美麗はすくっと立ち上がると、いくぞ長太郎!あんな奴らに負けるなぁあ!と無理矢理走り出した。


「うわあああ!せ、先輩ちょっまっ止まってくださ…っ!しっ宍戸さああああああん!!」


鳳を引きずり斜面を滑るその光景に、唖然とする宍戸達。雪の上だから怪我をすることはないが、すごいスピードで滑っていく鳳は恐怖のあまり泣きながら宍戸に助けを求める。が、雪煙のせいで鳳の姿はまったく見えず、かろうじて見える手がその凄まじさを物語っていた。


「長太郎…いと憐れなり。」


大切な後輩を憐れんだ目で見送り、合掌する宍戸だった。


その後は全員で大きめのソリに乗り、途中ひっくり返りながらも何度も斜面を滑った。
楽しそうに笑う彼らの声が、晴れ渡った冬空に響いた。


to be continued...


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