聖夜のイベント【4】
《ルールは至ってシンプル!ここに並べられた豊富な食材の中から、指定された料理を作って下さい。完成した料理はこちらにいらっしゃる食のスペシャリストの方が食べてどちらが美味しいかを判定していただきます!》

「…料理か…あんまり難しいのは嫌だな…」
『たとえばどんな?』
「グラタンとか酢豚とか。」
『ふーん。』
「美麗ちゃんはなんでも作れそうだよね。難しいの当たったら任せちゃおうかなぁ。」
『……』


幸村は知らなかった。美麗がどれほど料理下手か。のんびりと笑いながらそんなことを言っている幸村を横目に、美麗はただ無言を貫く。つい最近まで料理は完璧だと思い込んでいた美麗だが最近になってようやく、料理は壊滅的にダメだと気づき始めていたからである。もちろんそんなこと絶対に自分から言わないが。料理ができないことを自ら言うほど、美麗は素直ではない。


《この箱の中に料理名が書かれた紙がありますので、それをそれぞれ一枚引いて下さい。手に取った紙に書かれている料理を作っていただきます!料理は超簡単なのから超難関まで様々!これはもう一種の運試しですね、健闘を祈ります!》


そうして始まった料理対決。
次々に勝敗が決まる中、ついに美麗達の番がやってきた。対戦相手は栗田&笹山ペア。立海の生徒会役員の二人組だ。


《それでは両者紙を引いて下さい!》
『(超簡単なやつ来い…!)』


そう念じながら勢いよく引いた紙を開く。
美麗、幸村ペアはカレーライス。栗田、笹山ペアはコロッケと味噌汁。


「カレーか…まぁこれなら。」
『…そうね。』


比較的簡単な料理でよかった、と息をつく幸村達とは反対に、栗田、笹山ペアはヒソヒソと何かを話していた。


「ちょっと、私コロッケとか作ったことないんだけど!」
「はぁ!?じゃあ味噌汁は?」
「ない!私を誰だと思ってるの!?料理は今まで一度もしたことないんだから!」
「威張るな!…マジかよ…俺だって料理したことねーっつーの。どうすんだよこれ完全に負けだろ。」
「諦めんじゃないわよ!アンタなら出来る!頑張って栗田!」
「お前もな。」
「私は応援する係、アンタは作る係。」
「ふざけんなー!」


筒抜けの会話に、美麗と幸村は顔を見合わせる。どうやら対戦相手はどちらも料理をしたことがないらしい。これならいけるんじゃない?と美麗も思えるようになった。


《それでは、料理開始です!》


ピー!と笛の音を合図に、対決は始まった。


『えーと、カレーって材料なんだったかしら。ニンジンに、ジャガイモでしょ…』
「あと玉ねぎだね。」
『それとにんにく。』
「いやカレーににんにくはいらないんじゃ…。」
『納豆。』
「納豆もいらない。」
『あ、これもこれも!ほうれん草!』
「…カレーにほうれん草なんて聞いたことないんだけど。」
『あと卵。』
「…美麗ちゃん、それわざとだよね?わざとでしょ?そうだと言ってくれ頼むから。」
『あとはー……はっ!大事なものを忘れてたわ!』
「……ダメだ聞いてないよこの子。オール無視だよ。」

『キノコキノコ。カレーにキノコはつきものでしょ。しめじはどこ!?椎茸でも可!』
「…え…キノコ入れるの?」
『当然!』


豊富な材料の中からカレーに必要なものを物色していた美麗と幸村。手当たり次第に材料を入手していく中、美麗はキノコを探しだししめじ、椎茸を大量に抱え戻ってきた。


「…これ全部使うのかい?」
『もちろん!』
「……ちょっと入れすぎなんじゃ…せめて半分にしない?」
『やだ。』
「……」



ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ、椎茸、他おおよそカレーの具材に似つかわしくないものを適当な大きさに切り全部鍋へ放り込む。キノコが多すぎて他の野菜が見えず、鍋の中はキノコ一色である。


『…これ炒めればいいの?確か水入れてたわよね。』
「……」
『あれ、炒めてから水?それとも炒める前に水?どっちだろう…あ、お肉も固まってるからほぐさなきゃいけないわよね。どうやるの?……まぁいっか適当で!えい!』
「!?ちょっと待ったー!」



先ほどから美麗の傍若無人な態度を幸村は黙って見ていたが、ついに我慢できず割り込んだ。水を鍋に入れるのではなく、なぜか肉を水の中に浸してしまった美麗の手元から慌ててびちゃびちゃになった肉を取り上げる。


『なに?』
「…美麗ちゃん、もしかして料理出来ないの?」
『…出来ないけど何か文句ある?』
「…そうだろうと思ってたよ。さすがにこれは酷い。」
『じゃあ最初から精市が作ればよかったじゃない!私に任せたからこうなるのよ!』
「うん、そうだね美麗ちゃんに任せた俺が愚かだったよ。」
『ちょっとぉぉ!そこは優しく宥めるところでしょ!?なんでそんなバッサリ!?』
「嘘はつきたくないからね。」



幸村はふぅ、と息をつくと、美麗に下がっているよう告げた。


「あとは俺がやるから。カレーなら作れるし。」
『あ、ならお手伝い「いらない。美麗ちゃんは黙っててお願いだから何もしないで。」…何よもう!バカ!』
《おおっとここに来て初めての痴話喧嘩です!幸村さんが冷たい!まさか美麗様が料理できないだなんてびっくりです!ああでもそんなところも可愛らしいと思います!》


舞台の下で幸村達のやり取りを見ていた立海メンバーはなるほど確かに美麗は料理下手だ。と理解することができ、ひきつった笑みを浮かべた。

その後、幸村は美麗が適当に入れた野菜、キノコを上手く使い、手際よくカレーを作っていく。カレーのいい匂いが体育館に立ち込め、丸井はうまそー…と涎が垂れそうになるのを我慢していた。やがてカレーが出来上がると、対戦相手も無事コロッケと味噌汁を作り終わり、審査に移る。審査員はカレーを食べ、コロッケを食べ、数秒瞑目した。


《さあ、それではカレーかコロッケ、どっちが美味しかったかお答え下さい!》


審査員は閉じていた目を開けると、口を開いた。


「カレー。」
《勝者は幸村、美麗様ペア!まさかあのへんてこ野菜で勝利してしまうなんて…!恐るべし神の子!》
「ふふ、よかった。」
『…アンタ実は女の子でしょ。いい加減男装やめなさいよ。』
「いや正真正銘男だから。」



審査員が言うには、カレーには基本なんでも入れてもいいらしく、具沢山でヘルシーでよかったらしい。美麗のおかげでもある今回の勝利に、二人は優勝まであと一歩というところまで来ていた。


《さぁいよいよ最終対決です!勝ち残っているのはこの二組!エントリーナンバー1、山下、花岡ペアと、エントリーナンバー20、幸村、美麗様ペア!》


果たして美麗達は優勝出来るのか…勝負は大詰めだ。


to be continued...


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