聖夜のイベント【3】
《第2回戦はこちら!》


スクリーンに映し出された文字には、“叩いてかぶってジャンケンポン!"と書かれていた。
ルールは変わらず、ジャンケンをして勝った方がハンマーを、負けた方はヘルメットを使用する。勝った方は負けた方がヘルメット被る前に頭を叩けばいい。負けた方は叩かれる前に防げばセーフ。男女別でそれぞれ行い、先に勝ったペアが次へ進める。

《それから!これから先の対戦はこのスクリーンによってランダムに表示されます!いつ自分達が呼ばれるかはわかりません!》


最初の対戦者が発表されると、いよいよバトルの始まりだ。
中々に白熱した戦いが続き、次に呼ばれたのが美麗幸村ペア。
名前を呼ばれた瞬間、沸き上がる歓声の中には美麗を愛してやまない篠田の声も混ざる。その声に応えることなく、颯爽と舞台に上がる美麗と幸村は対戦相手と対峙した。
相手は立海生の男女。至って平凡なカップルである。


《それでは位置についてください!》


美麗は対戦相手の女子と、幸村は男子とそれぞれ向き合う。
対戦相手の男女は共にひきつった笑みを浮かべた。なにせ相手は美男美女。しかも先程から威圧感たっぷりな目で睨まれている。ビビるのは当然の反応だった。


《それでは、バトルスタート!》


ポン、の合図に合わせ、両者手を出す。幸村はパー、相手はグー。美麗はチョキ、相手はパー。勝ちを確信した二人はカッと目を見開き、目にも止まらぬ早さでハンマーを手にとった。


『「うらぁああああ!!」』
「「ひぃいい!!」」



青ざめ怯えた彼らなど気にもせず、ありったけの力を込め相手の無防備な頭を殴った。
見事な動きであった。


《……し、勝負あり!ちょっと酷い気もしますが。まぁいいや。鮮やかな動きです幸村、美麗様ペア!息のあった動き、天晴れです!》


司会者の興奮した声につられ、静まり返っていた周りも盛り上がる。幸村に対する声もすごいが、美麗様かっこいー!大好きー!結婚してー!とどさくさに紛れプロポーズまでするほど、美麗ファンはもっとすごかった。


「…なんかさらに増えてね?」
「さすが美麗先輩っスね!立海生まで虜にさせちゃうんスから!」
「フン、当然だろ。」
「ああ、当然だな。」


勝ち気に笑う真田と跡部だったが、その頬は若干ひきつっている。
大方、美麗と幸村がお似合いだという声を耳にしたからだろう。幸村ごときに美麗を取られるなんて、という焦りや嫉妬心をなんとか押さえているに過ぎない。それに気付いたのは仁王、柳、忍足、日吉くらい。

その後もバトルは続き、二回戦は全て終了。勝ち残ったのは僅か30人。休む間もなく三回戦の内容が発表された。


《三回戦はこちら!》


スクリーンに映し出された文字には“ドキドキ密着!何があっても離れちゃダメよ"と書かれている。司会者がテンション高くルールを説明する。

名前の通り、彼氏と彼女はピッタリ密着しどんなことがあっても離れてはならない。ただし、手さえ離れなければセーフ。完全に互いの手と体が離れてしまえば即アウト。ちなみに、相手を引き離すためならば何をしてもいいとのこと。
対戦相手は前回と同じくランダムに発表され、司会者は声高らかにバトル開始を告げた。
次々と勝敗が決まる中、ついにスクリーンには幸村&美麗ペアの名前が表示される。


《さぁ!お次はこの方々!最早最強カップルと言っても過言ではありません!幸村&美麗様ペア!対するお相手は、この立海で知らぬ者はいない!あのバカップルで有名な二人!》
『…バカップル?』
「……あぁ、あの二人か。」
『?知ってるの?』


美麗は首を傾げながら、舞台に登ってきた対戦相手であるカップルを見た。


「僕達の仲は誰にもさけない。そうだろ、ハニー。」
「ああん、ダーリン素敵っ」
『……うわぁ…』
《とってもイラつきます!佐藤&西山ペア!》


ピッタリ密着し、人目もはばからずイチャイチャするこの二人は立海一のバカップルとして有名だった。二人の周りには常にハートが飛び、語尾にだってハートがついているくらい甘ったるい雰囲気。幸村が相変わらず気持ち悪いな、と小さく呟いたのに、美麗も同意した。
佐藤&西山ペアは対戦相手である美麗と幸村を見て、ふん、と鼻で笑った。


「みんなあの男がかっこいいって騒ぐけど、たいしたことないじゃない。ダーリンのがよっぽどかっこいいわ!あんな男、ゴキブリ並みよ。
「ふっ…あんな女、そこら辺に浮いてる塵みたいなものさ。ハニーに敵うはずがない。世界一可愛いのは僕のハニーだ!」
「ダーリン大好きっ!」
『「………」』
《これは酷い!美麗様と幸村さんをこれみよがしに侮辱しております!ファンクラブが殺気だっていますかくいう私も殺意が湧きました!》


バカップルである二人は共に互いが一番かっこいい、可愛いと思い込んでいる。世間一般から見ればこの二人はそこまで容姿はよくない。美麗や幸村を貶すなど、バカップルにしかできない荒業である。大好きな美麗と、大切な仲間の幸村を貶され、一番怒り狂ったのは真田と跡部だ。額に青筋を浮かべ、「てめーら顔面並以下のくせに何美麗にケチつけてんだあんコラァ!」「許せん!美麗と幸村を貶すなど…!己の顔を鏡で見てから言え!」と普段もう少しオブラートに包み物言う二人が包みもせず暴言を吐く始末。

そして目の前で侮辱された美麗と幸村はと言うと、とんでもない形相でバカップルを睨んでいた。幸村は冷静さを保とうと普段のあの穏やかな笑みを浮かべようとしているつもりだが全くできておらず、ひきつった頬に青筋がいくつも浮かんでいるし、美麗は青筋をいくつも浮かべ、まるで鬼のような形相。殺人でも犯すんじゃないかと思うくらい、酷い殺気を放ち、怒りから震える肩と拳をなんとか押さえている。


『「血祭りにしてやる…!」』


ギラリ。
幸村と美麗の目が、妖しく光った。


to be continued...


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