ある日の1日 2
三限目は社会。
美麗の得意な教科だ。

真面目に授業を受けていたのだが。コツンと、美麗の頭に何かが当たった。机に落ちたそれは消しカスを集めて丸めた塊。
飛んで来た方を見れば、ほくそ笑んでいる跡部。瞬時に投げたのは跡部だと悟る。ムカついた美麗は同じように消しカスを投げた。

美麗が投げたカスは跡部の顔面にぶつかる。


「テメッ!」


跡部がまた投げる。


『何すんのよ!!おらっ!』


カスではなく消しゴムそのものを投げ付ければベシッ!と、跡部の顔面に直撃した。額に青筋を浮かべた跡部が美麗を睨みつけ、美麗も負けじと睨み返す。

最初は高速で飛び交う消ゴム、ボールペンやシャーペン、筆記用具の投げ合いだった。しかし二人の喧嘩は徐々にヒートアップし、しまいには席を立ち、取っ組み合いが始まる始末。


『「うらァァァァァ!!!」』


子供のように喧嘩する二人は先生にも止められない。


「……頼むから授業させてくれ…」と、泣きながら懇願する先生に目もくれず、ますます激しくなる喧嘩という名の戦い。



四限目は理科。
先程まであんなに騒がしかったのに、やけに静かなクラス。


「………跡部。雪比奈…」
「『……ZZzz……』」
「…………」


三限目の戦いで疲れたのか爆睡する跡部と美麗。机に突っ伏し隠す気のない美麗に対し、跡部は一応隠しているらしい。腕組みをしあたかも授業聞いてますよアピールをしているが近づけば寝ているのは一目瞭然だった。

「……子供かお前らは。」と先生は呆れながらため息をついたのだった。


昼休み。いつも跡部と二人で食べているが、最近はテニス部メンバーとも食べるようになった。


今日は天気がいいので屋上でランチ。最初は楽しく食べていたのだが。


『これもーらい!』
「あ!?テメ!」



美麗が跡部の無駄に豪華なお弁当を横からとったのが始まりだった。


『フン、ボケっとしてるからよ。』


鼻で笑う美麗を睨むと、跡部はお返しとでもいうようにウインナーを奪う。


『ちょっと!それ私のタコさん!!』
「フン…ボケっとしてるからだバーカ。」
『この野郎…!!これもらった!!』
「やりやがったなこの…っ!とったァ!!」
『あ!チクショー!!』


二人は弁当のおかずの取り合いを始めてしまう。


「「「………」」」」
「…お子様。」


日吉がポツリと呟いた言葉に、みんなが深く頷いた。
最近ではすっかり二人の争いに慣れたのかレギュラー陣は気にすることなく各々の弁当を食べ進める。
そしてなんとなく見た二人はもう取り合いはしていないものの、口喧嘩をしていた。


「バカはテメーだ!」
『バカって言う方がバカなの!よってバカなのはアンタよ!』
「バカはお前だっつってんだろーが!!いい加減認めろバカ!!」
『お前が認めろバカ!!』
「お前ら二人ともバカだ!!」
『「何ィ!?」』



五限目は体育。
今日は男女混合の100m走。


『景吾!勝負よ!』
「望むところだ!」


睨み合う二人の間にはバチバチと火花が散る。
パン!とピストルが鳴り、二人は同時に走り出す。そしてほぼ同時にゴール。


『私の勝ちね!絶対私よ。』
「は…っ勝者は俺だ!」
『私だったら!』
「俺だ!!」
『私の方が先に着いた!絶対!』
「俺が先だ!」
『私!!』
「俺!!」
「お前らいい加減にしろよ。ついでに二人とも同着だから。」
『「………」』



先生のそっけない一言で言い争いはピタリと止み、しばらく互いを見、そしてふ、と笑う。


『ふふ…さすがね、景吾。』
「ふ……お前もな、美麗。」


二人は手を取り笑い合った。
さっきまでの争いが嘘のように仲良さげに。


「…なぁ、お前ら仲良いの?悪いの?どっち?」


六限目は家庭。
みんなでホットケーキを作るらしいが…


「なんか焦げ臭いな…」


辺りに立ち込める臭いに眉をしかめる跡部。


『景吾!景吾見て!!』

臭いの原因はなんだろう、と辺りを見渡す跡部の元に、違う班から美麗が何かを持ち、かけてきた。


「…おい美麗。なんだコレは。」
『何ってホットケーキに決まってるじゃない!』
「ホ、ホホホホットケーキィィィィ!!?」



真っ黒に焦げた塊はもはやホットケーキではない。黒い何かだ。


『けっこう上手く出来たと思わない?ね、食べてみてよ!』
「……食えるかァァァァ!!お前俺を殺す気か!?」
『いいから黙って食えや!!』



自称ホットケーキを跡部に無理矢理食べさせる美麗。

抵抗できず黒い塊を食べてしまった跡部は白目を向き、バタッと倒れた。


『…アレ?』
「きゃあああ!先生!跡部様が倒れました!!」
「早く!保健室へ!」

『…?おかしいな……あ!もしかして気絶する程美味しかったとか!?やだもー!』
「美麗様、正気ですか?」

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