学園祭【6】
「…あの、美麗ちゃん…?」
『勘違いしないでよ。たまたま目が合っただけだから。たまたまだから!』
「……」


たまたまでも仕方なくでも、なんでもええ。こうして美麗ちゃんが俺の背中を頼ってくれるなんて…!あぁ、なんて幸せな!まだ神は俺を見放してなかったんやな!ありがとう!ありがとうー!

あまりの嬉しさに、感極まって涙する忍足。その脳内では、暴走が始まっていた。



『…侑士、あなたって本当はすごく頼もしい人だったのね。それなのに私、あなたに酷いことばっかり…』
「美麗……そんなん気にせんでええ。わかってくれたらそれでええんや。」
『侑士……なんて優しい人なの。あのね…あなたのこと嫌いなんて、嘘なのよ。本当は大好き。でも…照れくさくてついあんな暴言を…』
「わかっとる。美麗は照れ屋さんやでな…照れ隠しなことくらいわかっとるで。ホンマ、可愛いなぁ。」
『侑士……愛してるわ。』
「俺もやで。」
『抱いて!』
「美麗…っ!」




ドスドスドス!

「ぎゃーー!!」



突然頭、お腹、目に激痛が走り、叫びながら悶える忍足。
妄想は強制的に終了された。


「ちょ…っな、何してんねん三人とも!侑士になんの罪があるんや!」

何もしていない忍足に制裁を下した美麗、真田、幸村の三人に、何も知らない謙也は従兄弟を庇う。


『…ものすごく不愉快な妄想をされていた気がして、つい。』
「「同じく。」」



三人には忍足が何を妄想していたかをなんとなくわかってしまったらしい。
涼しい顔で、それぞれ技を決めた。美麗は目潰し、幸村はボディーブロー、真田は拳骨。
完全に伸びた忍足をつつく金太郎と千歳を横目に、白石は後夜祭が始まってから姿を見せていない人物が気になる様子で、しきりに辺りを見渡す。


『どうかしたの?』
「…なぁ、跡部くんは?さっきから姿見てへんのやけど。」
『あぁ…景吾ならあそこよ。』


美麗が顎で示した先を見ると、そこには女子の大群に追いかけられている跡部の姿があった。まるでさっきの美麗状態。


「…モテる男は大変じゃのぅ……」
「…仁王くん、あなたも狙われてますよ。」


柳生はチラリと仁王を見て、静かに告げた。
ミスコンに美麗と登場したせいか、仁王の人気が氷帝女子の間で急速に高まっていったのだ。今も、仁王にチラチラと視線を寄越す女子が多数。


「……柳生。」
「嫌です。」
「…薄情者。まーくん泣いちゃうゾ。」
「仁王くん、とてつもなく気持ち悪いですからやめたまえ。」
「……柳生先輩って最近毒舌になりましたよね。怖いんスけど。」



眼鏡を押し上げながら、静かに毒を吐く柳生に隣にいた赤也は引きつった笑いを浮かべて言った。


『景吾が女子に追われるのはいつものことよ。気にする必要なんかないわ。』
「そうそう!」
「まぁ、そうやな。」

「おいぃぃぃ!気づいてんなら助けやがれ!!見て見ぬふりをするなぁあああ!!」


遠くで跡部が叫んでいるが、無視。


「…で、結局美麗ちゃんは誰と踊るの?」


幸村の問いに、美麗はどうしようと曖昧に笑う。


「俺と踊る?」
『え?』
「幸村部長ずるいッスよ!美麗先輩、俺と俺と!」
「いや、ここはやはりいとこの俺だろう。俺しかいない!」
「いとこ関係ねーだろ。しゃしゃり出てくんじゃねーよオッサンが。」
「……幸村も相当な毒舌だよな…。」



真田に容赦ない罵倒を浴びせた幸村に、丸井がガムを噛むのも忘れて呟いた。その顔は引きつっている。


「美麗ちゃん、俺と踊ろか。さ、行こ行こ。」
「白石部長ー、抜け駆けは卑怯ちゃいますか。」
「そうやそうや!ズルいで白石ィー!ワイかて姉ちゃんと踊りたいわ!」
「ミスターパーフェクトなこの俺しか美麗ちゃんの相方は務まらへんやろ。おチビちゃんは家に帰って寝ときなさい。
「ラチが明かないな……どうだろう、ここは全員でじゃんけんをして決めては。」


柳の提案に、皆が乗り気になる。瞳をギラつかせ、「さいしょはグー!!」とじゃんけんを開始した。「あいこでしょ!」「あいこでしょ!」あいこばかり続いて、なかなか決まらない。

美麗はしばらくじゃんけんする様子を見ていたが、やがてしびれを切らし付き合ってられるか!と言い捨てその場を離れた。



『咲希。』
「ん?…あ、美麗。」
『一人なの?』
「うん。」


唯一の親友である栗原咲希の元にやってきた美麗は、座っている咲の隣に静かに腰を下ろした。
しばらく無言で揺れる炎を見つめていたが、おもむろに立ち上がると、咲希に手を差し伸べた。


『咲希、踊らない?』
「…あっちはいいの?」


チラ、と視線を後ろに向ける咲希に、美麗はどうでもいいように笑う。じゃんけんはまだ、続いていた。


『どうせまだ決まらないし、もういい加減ウザいから。』


ほら、踊ろう。


優しく笑う美麗に、咲希も笑顔で頷き差し出された手を握った。



「あぁああー!美麗先輩もう誰かと踊ってるッス!」
「「何ぃ!?」」
「相手は誰や!」
「男か、男なのか!?もし男なら許さぬぞ…!」


こうして、楽しかった学園祭は幕を下ろした。


to be continued...


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