学園祭【5】
「やったー!美麗先輩ゲットー!!」
『ゲット!?何よそのポケ◯ン風な言い方!』



喜びの雄叫びが響く美麗の部屋は明るいが、それ以外の部屋はどんよりと暗かった。



「おい、いつまで突っ立ってんだよ。」
「…あーぁ…美麗ちゃんがよかったのに。最悪や。」
「おかしいぞ…まさか美麗センサーが壊れたか!?」
「…なんやねん美麗センサーって。アホか!」
「おいコラ白石!センサーバカにすんじゃねーよ!」

「美麗センサーとは、今美麗がどこにいるのかがわかることだ。いとこである俺にはバッチリセンサーがついている。」
「フン!美麗センサーなら俺様の方が優れてるぜ。」
「…ほぅ?」
「俺様のセンサーはな、美麗の居場所はもちろん、今何をしているのかも正確にわかる。」
「…俺は美麗の行動パターンもわかるし、性格だって熟知している!貴様よりも長い間一緒にいたんだ、美麗の事ならなんでも知っている!」
「俺の方が完璧だ!」
「いや俺が……」
「………センサー関係あらへんやん。なんやこれ。どうしたらええのこれ。」


跡部と真田の下らない言い争いに戸惑う白石は、しばらく二人の傍らで喧嘩を傍観。



「……なんで謙也やねん。お前どんだけ俺の事好きなん。」
「好きなわけあるか!!俺やって侑士と二人きりとか耐えられへんっちゅーねん!なんでお前なんや!このハゲ!出てけ!」
「うるさいわヘタレ。」
「なんやと!?」


ダブル忍足は、ぐちぐちと小さな口喧嘩真っ最中。


宍戸の部屋に辿り着いた金太郎と千歳は、一番厄介な相手。
金太郎は広い部屋の中で「ごっつ広いやん!鬼ごっこしたくなるわぁ!」元気いっぱいに走り回る。千歳は千歳で、のほほんとしているし突然宍戸にジブリは好きかと質問したり。自由すぎる二人についていけず、困り果てる宍戸。「……なんだよこの自由人コンビは…!ついていけねー。」

向日の部屋にいるはホモ二人。
「跡部くんか宍戸くんがよかったけど……アンタもなかなか可愛いやーん!ロックオン!」ウインク付きでロックオンされ、向日は「ひぃっ!」と小さな悲鳴をあげ、青ざめながら後ずさる。「な…っう、浮気か小春!」「向日くん小さくて可愛いんやもん!素敵やん!」「…おい向日!お前何小春誘惑してんねん!あんコラ!死なすど!?」しまいには一氏にギラッと睨まれる始末だ。「…なんでこの二人なんだよ…!誰か助けて!」向日は涙目になりながら、必死に耐える。耐えるしかない。

ジローは丸井に会えた喜びから、テンションはかなり高い。
先程まで眠っていた奴とは思えないほどのテンションの高さ。高すぎるテンションに、丸井やジャッカルの方が困っていた。

日吉と財前は、立ち尽くしたまま。ただ静かに睨み合っている。同じ学年、似たような性格。言い争いこそしないが、無言の睨み合いは半端なく怖い。二人の周りの空気だけ、おどろおどろしい。色で例えるならば、黒紫だ。

鳳と幸村は、優男同士なだけあって会話は弾む。花の話をしたり、音楽の話をしたり。ここが一番、穏やかだ。



「美麗先輩ー。」
『……』


願い通り、美麗に巡り会えた赤也は嬉しさのあまり、腕にしがみついたまま。あれから全然、いっこうに離れてくれない。
まるで飼い主に甘える、犬のように擦り寄ってくる。


『…暑苦しいんだけど。』
「えー?俺は平気っス!」
『アンタは平気でも私は平気じゃないの。離れて。』
「いやっスよ!いっつも真田副部長達に邪魔されるけど、ここなら誰も邪魔しないし…思う存分引っ付かせてもらいます!」
『……もう…』


腕にしがみつく赤也がなんだか可愛くて。叱るに叱れない状況。美麗は小さくため息をつき、仕方ないなぁと言うように笑った。天然パーマの黒髪をワシャワシャと撫でると赤也は気持ち良さそうに目を細めて、美麗と目が合うとふにゃり。照れたようにはにかんだ。


数分間、至福、または地獄の時間を過ごした彼らは迷路を出た。その後は広い学園内を歩き回り、お祭りを満喫。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、もうすぐ学園祭の終わり。結果発表のあとに控える後夜祭。グラウンドでは、ダンスを踊ったりといった小さな祭りの準備が開始されている。

全校生徒を広いグラウンドに集め、一般客も揃う中。結果発表が行われた。一般客の場所から、結果発表を見守る立海、四天のメンバー。一般の人も後夜祭に参加できるらしいので、彼らはそれに参加するため残っている。

様々な分野の結果が発表され、次はいよいよミスコン優勝者。
司会者は待ってましたと言わんばかりのテンションで、声を張り上げる。


「さぁ続いてミスコン優勝者の発表です!氷帝学園第◯◯回ミスコンテスト栄えある優勝者は……!もちろんあの方!この学園内に彼女に勝てる女子はいない!氷帝が誇る女帝、雪比奈美麗だぁぁー!!」


パッと美麗にスポットライトが当たる。その瞬間、拍手と悲鳴が同時に湧いた。やはり美麗に叶う女子はいないようだ。当たり前のように優勝した美麗は、嬉しそうにするでもなく、驚いた風もなく。当然でしょ、と言うように颯爽と壇上へ向かう。


「めっちゃ人気やな美麗ちゃん…」
「すご……」
「…あの司会者、やっぱり美麗の時だけテンションが半端ないな。」
「どんだけアイツの事好きなんだよぃ…変な奴。」


囁き合いながらも、視線は壇上に向けられている。
司会者は隣に立つ美麗を見て嬉しそうに頬を赤らめ、興奮しているのか鼻の穴が少し膨らんでいた。
優勝者の証である王冠を乗せられた美麗は、ちょっとめんどくさそうな顔になっていた。


「美麗様!優勝した気持ちはいかがですか!?」
『…別にフツー。』
「…そっけないところも素敵ですっ!ところで、美麗様は後夜祭のダンスのお相手は決めましたか?」
『まだ。』
「マジっすか!そ、それなら是非私と…「はいはい部長はもう引っ込んでて下さいねー。」ちょっと!まだ終わってな……っ「それでは、皆さん優勝者に今一度大きな拍手を!」


司会者の台詞を遮った放送部部員は、部長を舞台から引きずりおろしさっさと先へ進めた。
放送部部長は美麗が大好きすぎるため、度々暴走をする。それを止めるのは部員の務め。引きずり下ろされた部長は、ムキー!と猿の如く怒っていた。

部活部門ではテニス部がぶっちぎりの一位。クラス部門では惜しくも二位だったA組。
結果発表も終わり、いよいよラスト。


後夜祭の時間が近付いてきた。


to be continued...


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