学園祭【4】
いっこうに決まらないやりとりにしびれを切らした幸村は、小さくため息をつくと手をパン!と叩いた。静かになった二人に歩み寄ると、「決まらないんなら俺が決めてあげるよ。」ニコリと笑い二人を交互に見る。
じーっと互いに見て、「よし、決めた!」にこやかに言う。


「跡部、これ着てね。」
「のぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



告げられた瞬間、奇声を発しくずおれる跡部。難を逃れた真田はその横で小さく「…やった!」ガッツポーズ。


「なんで俺がっ…!!俺は今猛烈に貝になりたい!」
「貝になってどうすんだよ…」



ジャッカルの素朴な問いには答えずに、跡部はただただ沈む。


「真田にしようかなって思ってたんだけどね、真田のドレス姿想像したらなんかものすごく気持ち悪くてさ…まだ跡部ならイケるかな。って思った。」
「イケるわけねーだろ!お前の目は節穴か!この腐った目ん玉野郎!」
「……腐った目ん玉野郎なんて生まれて初めて言われたよ。」
「…俺も初めて聞いたぜよ、そんな悪口。」



仁王が幸村の言葉に小さく頷く。


『…ねぇ、なんかあったの?』


突然、試着室のカーテンが開き、着物に着替えた美麗が出てきた。
そういえば今までいなかったな、とジャッカルは気づく。もしも美麗がいたら、幸村が手にした衣装を見て大爆笑しているはず。腹を抱えて、涙が出るほど笑い転げるだろう。

美麗の笑い声が聞こえなかったのは、衣装に着替えていたから。仁王、丸井のリクエスト服を着て、別室で写真を撮っていたのだ。柳のリクエストである着物を着る準備をしていた時に、跡部の悲鳴が聞こえようやく何かが起こっているのに気付いたようだ。
柳から説明を受けた美麗は、やはり爆笑。想像していた通りの反応に、ジャッカルは柳生と顔を見合わせ、苦笑い。


『あははははは!け、景吾がシンデレラ…!最高じゃないの!写真撮らなきゃ!カメラ用意ー!』
「もう用意してあるっス!」



赤也がカメラを持ち上げアピール。


『景吾、着替えるの手伝ってあげるわ。弦は一人で大丈夫よね?』
「あぁ。」
『よし、ほら景吾、お着替えしましょうねー。』
「子供扱いするな!」



美麗は跡部の制服の後ろをひっつかみ、ずるずる引っ張りながら試着室へと消えていく。
嫌がる跡部に無理矢理ドレスを着せ、綺麗にメイクもしたら仕上げに金髪ウィッグを被せ、準備は完了。先に出てきた美麗は満足げな笑顔だった。

二人同時に登場してもらおう、と声を揃えて「シンデレラと王子ー!」テンション高く呼ぶ。
数秒間があいたあと、しぶしぶ現れた跡部と真田に、一同は大爆笑。


「だはははは!」
「…っ跡部よく似合ってるね、うん、可愛い可愛い…っあはは!」
「「……っ」」


(く、屈辱的…!)



跡部は羞恥のあまり、ほんのり赤くなる。真田は跡部の姿を見て小さく笑い「跡部、よく似合っているではないか。」「嬉しくねーよ。つーか俺はそっちがいい。今すぐ代われ!その服よこせ!」「無茶を言うな馬鹿者!」とちょっぴり喧嘩。


「さて次は、これやってもらおうかな。」
「……?」
「今度は何させるつもりだ?いい加減解放してくれ。」
「いいからいいから。はい二人とも向かい合わせになって。」


渋る二人を半ば無理矢理向かい合わせにさせる。
真田の左手は跡部の腰に、跡部の右手は真田の左腕に。そして真田の右手と跡部の左手を重ね合わせれば、完成だ。


「「……」」


ダンスをする時のポーズのまま静止を要求され、二人はひきつりながらも大人しく従う。
もうすっかり、二人の目は死んでいた。どうにでもなれ、とでも言いたげな顔だ。


思う存分堪能した幸村達の笑いがおさまった頃、もうこの体勢をやめてもいいか聞こうとした時、閉めていたはずの扉がガラッと勢いよく開き、「美麗ちゃーん遊びに来たでー!」明るい明るい、関西弁がこだまする。


「「……」」
「「「………」」」



グッドタイミングなのか、バッドタイミングなのか…
跡部と真田のコスプレ姿、しかも手を取り合い、密着している時にやってきたのは、昨日も来ていた四天メンバー。
盛り上がっていた教室が、しんと静まり返る。

四天の反応は様々。
口をあんぐり開け、目をかっ開く白石と謙也。
無表情で跡部と真田に携帯を向けパシャッと写メる財前。
ただ純粋に感心する千歳と金太郎。
あれめっちゃええやん!是非とも小春とやりたい!目を輝かせる一氏と小春。


「…ま、まさか跡部くんと真田くんがそんな関係やったなんて…!俺知らんだわ!」
「いっつも美麗ちゃん取り合っとったんは芝居やったわけやな!?周りにそういう関係やって悟らせやんためのカモフラージュやったんか!」
「マジすか。」
「「違うわ!!」」



なんだか変な方向へいってしまった白石と謙也。誤解されては後で困るため、二人は慌てて否定する。それはもう、全力で。


「「俺達はホモじゃない!!」」
「照れやんくてもええって。」
「「照れてない!」」
「ま、お似合いなんとちゃいます?」
「…仲間が増えたな小春。」
「ホンマやねぇ。」
「人の話を聞け!!」
「お前らと一緒にするんじゃねェよ!ホモとか気持ち悪い!」



大激怒する跡部と真田。
さすがにちょっとかわいそうになってきた。仕方ないな、と。幸村が二人に着替えてきていいよ、と言い渡した。
真田と跡部が制服に着替えている間に、先ほどのあれはただの暇潰しだと、単に二人で遊んでいただけだと1から説明した。
「なんや…遊びやったんか…あぁよかった。」「ホンマやで…」ガチで信じていた白石と謙也に、「見たらわかるやろ…アホな先輩ら。」と嘲笑う財前。


そんな感じに時間は過ぎて行き、午後からはいよいよ部活の出し物の番。


to be continued...


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