学園祭【3】
《それでは!美麗様のおなーりー!!》
司会者が引っ込んだすぐ後。
ゆっくりとステージに現れた、美麗と仁王の姿に…全員がしばらく、息をするのも忘れて見とれた。
真っ白なドレスに包まれた美麗。その横に並ぶは、真っ白なタキシードを着こなした口元のホクロが色っぽい、イケメンな少年。氷帝内で見たこともないイケメンは、美麗の隣にいても違和感なく、むしろすごくお似合いだと感じた。
静かになったのはたった一瞬。
体育館内に、ビリビリと響く女子の黄色い悲鳴に、男子の暑苦しい叫びに、跡部達は思わず耳を塞いだ。
「きゃー!美麗様素敵ー!!」
「美しすぎるわ!」
「今年は跡部様じゃないのね。」
「ちょっと残念な気もするけど……あの銀髪の人もすっごくかっこいい!」
「あの人誰?」
「知らないけど……」
「「超かっこいい!!」」
「うおー!雪比奈さんマジ綺麗!」
「あれは反則だろ!」
「今年のミスコンも、雪比奈さんが優勝に決まりだな!」
「美麗様ギザ可愛ゆす!」
「萌え〜」
そんな声が、あちこちから聞こえてくる。
《美麗様ぁぁあ!!ブーケ!ブーケ私に下さーい!》
「部長!マイク使うなんてずるい!没収!」
「あ!ちょ、何す……《司会者変わりまーす!》テメー!覚えてろよチクショー!」
マイクを奪われ、司会者を無理矢理変更させられた彼女は悔しさのあまり、地団駄を踏んだ。
「美麗先輩ー!ブーケ!ブーケ俺に下さーい!」
その場でジャンプして、アピールする赤也。これには幸村も柳もびっくりだ。
「赤也!お前何恥ずかしいマネしてんだよ!つーかそんな言い方してもらえるわけねーだろぃ!」
「……あ、そうか。」
丸井に言われ、何を思いついたのか…赤也はさらに飛びはね、こう言った。
「ヘイパス!ブーケパス!ヘイ!」
「バカか!パスってバスケじゃないんだからそれはないだろ!なぁ柳生!」
「…そうですね。切原くん、君はとんでもないバカです。今すぐに病院に行きたまえ。」
「さりげなく酷いな、柳生。」
苦笑いを溢す宍戸だが、赤也はさして気にした風もなく。ただきょとんとした顔でいた。
「えー?幸村部長ー、俺なんか変でした?」
「……」
「あれ、幸村部長?」
「……」
「…真田副部長ー」
「……」
「や、柳せんぱーい」
「……」
「…うわぁああん!ジャッカル先輩ー!皆が無視するぅぅ!!」
「……わかった、わかったからちょっと離れろって。」
三強の徹底的な無視に、赤也はジャッカルに泣きついた。
「他人のフリをしよう。あんなバカが後輩だなんて知られたくないよ。」「同感だ。」「…赤也がジャッカルに泣きつく確率、100%」幸村達はそんな会話をこっそり交わしていたのだった。
『…赤也ってば…恥ずかしいわね…』
「……」
舞台上から見える赤也達の姿は、あまりにも滑稽で。
美麗と仁王は苦笑を浮かべた。
《それでは最後にブーケトスをお願いします!》
司会者がそう言った途端、皆の目がギラついた。
誰もが皆、美麗の投げるブーケを取ろうと必死な様子。
ぽい、と。めんどくさげに投げたブーケは綺麗な弧を描き、飛んでいき、誰かの手中におさまったらしく、もらった本人の嬉しそうな声、周りの残念そうな、羨ましそうな声が聞こえてきた。
「テキトーじゃな…」
『いいのよテキトーで。さ、そろそろ次の人の番だから行くわよ。』
仁王の腕を引き、きた道を引き返そうとした。
瞬間。
「よいしょ。」
『きゃあっ!!』
ふわりと宙に浮く、美麗の体。
『……っ!?』
言葉を失った美麗の代わりに、周りからは今日一番の悲鳴が上がる。中には鼻血を出して倒れる者もいた。
『な、な…っ!ちょっと雅治!?降ろしなさいよ!何考えてんの!』
「言ったじゃろ?俺の好きにやらせてもらう、って。」
『だ、だからってこれはないでしょうが!』
「顔真っ赤ぜよ。」
『うるせーよバカ!恥ずかしいんだから仕方ないでしょ!』
滅多に見ることのない、美麗の照れた顔を間近で見た仁王は可笑しそうに、小さく笑った。
「テメ、銀髪ぅぅ!お前何美麗様をお姫様抱っこしてんだコラァァ!羨ましいんだよコノヤロー!!」
美麗の大ファンである彼女の場違いな発言を聞きながら、仁王は美麗を抱き上げたままで舞台裏に消えていった。
最終審査も無事終わり、今は集計中。結果は学園祭最終日に行われるため、まだわからない。
控え室から出てきた美麗は、まだ少し赤い顔で隣の仁王を睨んだ。
『アンタなんか選ぶんじゃなかった!』
「今さら言っても遅いぜよ。」
『あぁああ恥ずかしい!雅治のバーカ!』
「はいはい。」
可笑しそうに、クツクツと笑う仁王の頭をどついてやる。
「いった!!」
『ふん!』
「…お前さん、意外と照れ屋じゃな。」
『うるさいわね!』
「あんな反応するなんて…可愛かったぜよ。」
『うるさいったら!』
「写真撮ればよかったのぅ…残念じゃ。」
『黙れ小僧!口縫い付けるぞ!』
「……プリッ」
戻ってきた仁王が、跡部達に激しく責め立てられたのは言うまでもない。
to be continued...
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