エクスタシー侍、参上!
まさか白石が氷帝に来るなど、微塵も思っていない跡部達は今日も部活に勤しんでいた。
といっても、今日はミーティングだけだから制服姿のまま。
部室で、今後の練習についてや、その他諸々の事を話していた時だ。跡部の携帯が鳴ったのは。


『電話?』
「あぁ………ん?手塚?」


意外な人物に、跡部は目を丸くさせながら通話ボタンを押す。
手塚と言葉を交わす跡部の表情が、みるみるうちに呆れ顔に変わっていく。


『何話してんのかしら。』
「さぁ…?」


美麗と鳳が首を傾げた時、忍足がまさか、と口を開いた。


「なんだよ侑士。なんか知ってんのか?」
「……いや、今日の昼くらいに謙也からメールがあってな。なんでも白石が……」


そこまで言った時、ちょうど跡部が電話を切った。
忍足の話に耳を傾けていた美麗達は一瞬にして跡部に鞍替え。

『景吾、なんだったの?』
「……どうやら白石がこっちへ向かっているらしい。」
「白石が?なんでまた…」


宍戸が眉をしかめた。


「なんか無駄がどうとか言いながら青学の部室に来たそうだ。で、部室の無駄をなくして満足した白石は今度は氷帝へ行くと言い残し去っていった。らしいぜ。」
「意味わかんねー。バカなのかアイツは。」
「……ハハ…」


宍戸の呟きに、鳳は苦笑いを返す。


『無駄探しねェ……いいんじゃない?この部室、無駄だらけだし。蔵ノ介喜ぶんじゃないかな、無駄がいっぱいやー、とか言って。』


クスリと笑う美麗に、跡部がムッとした表情になる。


「この部室のどこが無駄だらけなんだよ。」
『全て。』
「全てェ?」



んなバカな、とでも言いたげな跡部は抗議しようと口を開きかけた。が、バン!という扉の開く音でそれは遮られた。


「たのもー!!」
「道場破りか!」



一斉に扉の方を向けば、確かにそこには白石がいた。
登場の仕方が、竹刀片手に道場破りに来た若造みたいで、忍足はついついツッコミを入れた。


「無駄探しに来た「帰れ。」……無駄探しに「帰れ。」……無駄「帰れ。」…む「帰れ。」…」
「帰れって言ってんだよコノヤロー!!」
「まだなんも言うてへんやん!!」



白石の台詞をすべて帰れ、で遮った跡部は、白石が何か言おうとする前に怒鳴った。


「無駄探しに来たで!」
「ウチに無駄なもんなんかねェよ。」
『ていうかアンタ学校は?』
「先生には人生を見つめ直すために修業に出るって言ってきたから。ノープレブレム。」
「いや問題ありまくりだろ!」
「よくそんなんで先生騙せたな!」



跡部と宍戸がすかさずツッコんだが、白石は笑顔で言い切った。


「日頃の行いがいいからや。」


そう言ってから、白石は部室をグルリと見渡し興奮気味に話し出す。


「さすが氷帝やな!無駄が多い!」
「これのどこが無駄なんだ!言ってみろ白石!」
「まず部室が無駄にでかい。ていうかこれホンマに部室か?家ちゃうん。」
「普通だろ。」
「あと無駄に広い。」
「普通だろ。」
「それからお風呂あるとか無駄や。シャワーだけでええやろ。しかもなんか浴槽に薔薇が浮いとるし…無駄や。」
「普通だろ。」
「最後に跡部くんの技名、冷たいのばっかりでなんか嫌やわ。」
「普通だろ。」
『技名関係ないでしょ。』



黙って聞いていた美麗は思わずそうツッコんでいた。


「結論を言うと、氷帝の部室は全てが無駄や。早急に工事する事をきぼんぬ。」
「きぼんぬ?」



突然出てきたわけのわからない単語に、跡部は聞き返した。


「跡部くん知らんの?きぼんぬっていうのは希望するって意味で、今めっちゃ流行ってんねん。」
「マジか。知らなかったぜ。」


感心したように呟く跡部。
少し離れた場所で、美麗達はヒソヒソと囁き合った。


『…あれ流行ってんの?』
「マジで?」
「…んなわけないでしょう。」


日吉は盛大にため息をついた。


『ねェ蔵ノ介。』
「ん?」
『一つ言っていい?』
「ええよ。」
『こんな事してる方がよっぽど無駄だと思うんだけど。』
「……」


あまりにも正論すぎて返す言葉が見つからない白石は、ハッと我に返ったように立ち上がった。


「せや!美麗ちゃんの言う通りや!これにて無駄探し終了!お疲れっしたー!


白石はやり遂げたぞ、万歳!みたいな顔をし、爽やかな笑顔を残して大阪へ帰っていった。


『…蔵ノ介って、意外とバカよね。』
「だな。」


美麗の呟きに、宍戸が同意。


結局氷帝の部室はあのまま。
白石の希望は、叶わなかったのだった。跡部曰く「いくらきぼんぬされてもそれだけは出来ねェな。」らしい。よほどこの部室の広さが快適なのか…金持ちの感覚にはついていけない、と改めて痛感した。


その後、跡部は白石から教わった「きぼんぬ」という単語をやたらと使うようになった。
美麗達はいつ、「ダサいからやめろ」と言えばいいのか。

今だに迷っている。


to be continued...


あとがき→
prev * 130/208 * next