1日先生
「みんな、今日一日、お姉さんとお兄さんの言う事しっかり聞こうねー?」
「「「はい!!」」」


仕切り直し、と。
もう一度最初からやり直した時の園児達の変わり様に先生はびっくり。そして感動のあまり、おいおいと泣き出してしまった。
美麗のあの一喝で、園児達はすっかり元の素直な子供に戻り、ちょっとビクビクしながら背筋を伸ばした。

美麗は満足気に頷くと、腕を組んだまま前に立つ。


『さて、皆いつも何して過ごしてるの?』


ニコリと、優しい笑顔を浮かべながら問いかける。あんまりにも優しいから、身構えていた園児達は拍子抜け。それから、やがて一人の男の子が手を上げて「い、いつもみんなでおにごっこしてる…」と言った。


『鬼ごっこかぁ…懐かしいわね……じゃあみんなで鬼ごっこしよう!さ、外に行くわよ!景吾達も、ほら!』
「あぁ。」
「おう!」
「鬼ごっことか久しぶりだC!」
「おーいチビっ子、早く外行くぞ。」


宍戸が呆然としている園児達に声をかける。ハッとして、園児達はバタバタと走って我先にと外へ向かった。


『じゃあ鬼は景吾ね!』
「はぁ!?なんで俺なんだよ!つーか一人じゃ無理だ!」
「なら俺も鬼やったるわ。」
『仕方ないわね……皆、この眼鏡かけた人は変態だから、絶っ対捕まっちゃダメよ!わかった?』
「「「はーい!」」」
「ちょ、何教えとんねん!違うから!変態ちゃうから……ってもうおらんし!!」
「きゃーへんたいがきたー!」
「にげろー!」
「あはははは!」


一斉に外を駆け回る園児達。
楽しそうに笑う子供を見て、忍足は観念したのか。「待てー。」と早歩きで追いかけた。


鬼ごっこで、すっかり仲良くなった美麗達は園児達に懐かれてちょっと困り気味だった。

宍戸、鳳は「かたぐるましてー!」「おれもー!」と主に男子に囲まれている。「わかった、わかったから!」「いたたた!ちょ、髪は引っ張らないで…!」と、困り果てた顔だが、なんだか楽しそうでもあった。

樺地は両腕に、両足に園児をぶら下げてただ突っ立っている。
どうやら頑丈な腕や足が気に入ったらしい。

向日とジローは園児達と一緒になって走り回り、時折子供に高い高いをして遊んでいる。
「きゃははは!高ーい!」「ずるいずるい!あたしもー!」園児の甲高い笑い声がこだました。

忍足は子供達に砂場で埋められ、好き勝手に遊ばれていた。
「あ、ちょお眼鏡はやめて。あかんってコラ!」「へんなめがねー。」「へんたいはみんなこんなめがねなの?」「誰が変態や!」

日吉は「へんなあたまー!」「キノコみたい!」「だっせー!」「……ぶっ殺す!!」「わー!キノコがおこった!」「にげろー!」「待てクソガキ!」と、髪型をバカにされ、プッチンとキレる。すごい形相で園児達を追いかけていた。

跡部の周りには、女の子が群がる。
「けいごにいちゃんかっこいい!」「あたしとけっこんしてー!」「だめ、けいごくんはわたしとけっこんするの!」「ちがうあたしと!」と、取り合いに発展。小さな女の子に囲まれ、どうしたらいいかわからない跡部はげんなりとした様子で立ち尽くす。

美麗の周りには大半が男の子。
「なー美麗ねえちゃん!おれおっきくなったら美麗ねえちゃんのおよめさんになりたい!」『え、嫁?』「ばか!美麗ちゃんのよめになるのはおれだし!」「ちがうし!」「いやおれがなる!よめになりたい!」『嫁じゃなくてお婿さんね。婿。アンタら男だろ。』「「……そうともいう。」」跡部みたいに、求婚されていた。

お昼ご飯を食べ、一時間の昼寝を終えた後。一休みして体力回復した園児達の元気さは、凄まじかった。


「ねー!みんなでおままごとしよー!」


一人の女の子の提案で、おままごとをやることに。おままごととなると女の子の目が光る。


「わたしおかあさんやる。」
「じゃああたしはおねえちゃん!」
「いもうとやる!」
「おれおにいちゃんな!」
「おとうとがいい!」
「けいごくんは、わたしのだんなさんね。」
「なんで俺が…」
「で、へんたいはかびん。」
「花瓶!?おる意味ないやんか!」
『あらお似合いじゃない。』
「あははは!どんまい侑士!」

「がくとはうさぎ。」
「うさぎー!?」
「じろーはひつじ。」
「やった、羊大好き。」
「んで、美麗ちゃんはけいごくんのあいじんね!」
『「愛人!?」』


びっくりして目を見開く二人。


「これだいほんだから、ちゃんとよんでね。」
『………』
「………」


渡された台本に目を通した後、美麗と跡部は同時に叫ぶ。


『「昼ドラじゃねーか!!」』


台本には、昼ドラ要素がありまくりだった。
一家の大黒柱である夫(跡部)の浮気が発覚し、家庭が崩壊。夫(跡部)は妻か愛人(美麗)か、どちらかを選択しろと迫られて…

かなりのドロドロに仕上がっていた。横から台本を読んだ忍足達も、「めっちゃドロドロやん。」と苦笑い。


「ていうか俺達の役は?」


まだ配役が決まっていない宍戸が問いかける。


「他は…………たいぼく。」
「え、大木!?」
「投げやりだな、おい!」
「いる意味ないんじゃ…」



それぞれ不満がある中、おままごとは開始した。
最初は嫌々やっていた跡部と美麗だったが、だんだんと燃えてきて。最後の方はかなり真剣だった。


楽しい時間はあっという間に過ぎ、もう職業体験も終わりだ。


「みんな、今日一日相手をしてくれたお姉さんとお兄さんにお礼言いましょうね。」
「「「ありがとーございました!」」」


手を大きく振る園児達に見送られ、美麗達は中等部へと帰っていった。


『…あー疲れたー!』
「子供って、なんであんなに元気なんだろう…」
「俺らもまだ子供だけどな。」
「…疲れたけど……まぁ楽しかったよな。」
「たまには、こんなんも悪ないなぁ。」


なんだかんだ言いながら、けっこう楽しんだ跡部達だった。


to be continued...


あとがき→
prev * 127/208 * next