秋の遠足
『よっしゃ遊ぶぞー!!』
「…遊園地はガキが行く場所なんじゃなかったのかよ。言ってる事と矛盾してんぞ。」

「美麗ちゃんテンション一気に上がったな。」
「可愛いじゃん。ね、宍戸。」
「お、俺にふるなっつーの!」


バスから降り、注意事項を確認して、自由行動に移る。
皆楽しそうに遊具に駆けていく中、美麗はテンション高く手を掲げた。
バスの中で、あんなに遊園地をバカにしていたのにこの変わり様。相変わらずのマイペースさに、やれやれと肩を落とす跡部だった。


「何からいくー!?」
『んー…まずはド派手にジェ「ド派手にバンジーな!」ジェットコースターだったら!バンジー行きたきゃ一人で行け!って前にも言った気がする!』
「絶対バンジー!」


バンジー!バンジーがいいー!と大きな声で喚く向日に、美麗は何を思ったのか奥さん口調で忍足に声をかけた。


『……忍足の奥さん?息子さんが駄々をこねてますわよ。なんとかしなさい。』
「あらあら大変。こら岳人、駄々をこねるんじゃありません!お母さん怒るわよ。」



さすが関西人。ノリがいい。


「……こんなお母さんやだ。」
「反抗期!?」
『あらー、しつけがなってないわね。ねー滝さん?』
「ホントねー。やだわぁあーいう子。ねぇ跡部さん?」
「………」
『…ちょっと景吾、ノリが悪いわよ。ここは奥さん風に言わなきゃ!ねぇ萩?』
「ねー。」
「くっ……わかったもう一回最初からだ!」
「やらなくていいわ!!お前らのテンションについて行けねーよ!」



宍戸が我慢できずに突っ込んだ。どうやら皆テンションがかなり上がっている様子だ。
結局、一番最初に向日の希望通り、バンジーをする事に。だがバンジーをするのは向日と忍足、ジローの三人だけ。後は近くのベンチで帰りを待つ。


『バンジーの次ジェットコースター行こうね。私あれ乗りたい。サイクロン。』
「お!いいな。俺もそれ乗りてェ。」
「うん、賛成。跡部、いい?」
「……好きにしな。」


次行く場所が決まった時、向日のイヤッホーイ!続いて忍足のうおぉああ!!最後にジローのおー!きっもちE〜!!という声が聞こえてきた。
しばらくすると、戻って来たジローと忍足。あれ、向日は?滝が尋ねると、二人揃って「「あっち。」」とバンジーコーナーを指さした。まだ満足しておらず、一人でやるらしい。


『どんだけバンジー好きなのアイツ。』
「そーいやさ岳人の奴、幼稚舎にいる時将来の夢が“鳥になりたい!”だったぜ。」
「へぇ…岳人らしいなぁ。」


と、昔話で盛り上がっていた美麗達の後ろから満足した顔で向日が戻ってきた。


『もういいの?』
「おう!超楽しかった!」
「んじゃ、サイクロン行こうぜ。」
『おー!』


そうして美麗達はサイクロンを始め、あらゆる絶叫系を乗り尽くした。絶叫系アトラクションを完全制覇した後は、昼休憩。お弁当のおかずを交換しあったり、跡部と美麗のおかずの取り合い合戦が始まったりと、彼らの笑い声は絶えなかった。

絶叫系アトラクションの次は、ゆるやか系アトラクションの制覇にかかる。メリーゴーランド、空中ブランコ、フライングシップ、気球、スコーピオン、ミラーハウス、お化け屋敷、ゴーカートと、次々に制覇していく。
お化け屋敷では、美麗と向日の悲鳴が絶えず響き、出てきた跡部達の顔はあちこちに傷やコブがあった。


「…美麗を連れて行ったのは間違いだったな。」
「迂闊やったな…」
「…脅かし役の人より美麗のが怖かったんだけど。」
「向日なんて怖すぎて白目剥いてるし。」
「……漏らすかと思ったC…」


ゴーカートでは、跡部と美麗の壮絶なる戦いが繰り広げられた。たかが遊びで、本気になる二人はほぼ同着でゴール。だが同着というのが納得いかず、「俺が先にゴールした!」『私が一番だったら!』と言い争いに発展。二人の言い争いを止めるのに一苦労だ。

少しだけ休憩してから、ラストスパート。


「次コーヒーカップ乗ろう!」


三、四で別れる事にし、グッパーで決める。
その結果、跡部、向日、滝、ジローの四人。美麗、忍足、宍戸の三人、という形で別れることに。
最初は優雅に回っていたのに、どうしてか途中で跡部と美麗がどちらが速く回せるかで勝負し出した。


『うらぁぁあああ!!』
「まだまだぁぁあああ!!」
『小癪な!これでどうだ!』
「やるじゃねーか!だがこっちだって負けてねーぜ!おらあああ!」

「「ぎゃああああ!!」」
「ちょ、や、やめ、うおっ!」
「お前ら俺達を巻き込むなァァァァ!!」
「は、吐きそう……!」


巻き込まれた五人は、涙目になり、叫んだ。
上から向日&ジロー、忍足、宍戸、滝だ。係員がオロオロと戸惑い、「ま、回しすぎは危ないですよ!」と注意したが二人は無視。

その結果。


『「お゙ぇっ……」』


気持ち悪くなって二人揃って青ざめるのだった。


「…自分らアホやろ。」


忍足のツッコミに、跡部と美麗は「『う……』」と言葉を詰まらせた。


『……ひ、引き分けね。』
「……そうだな。」


楽しい楽しい遠足は終わりを告げ、帰宅時間になった。最初の場所に全員が集まり点呼をする。全員いることを確認したら、バスに乗り帰路につく。
帰りのバスの中は、とても静かだった。皆遊び疲れたのか爆睡である。

こうして、中学生活最後の遠足は幕を下ろした。



翌日。


『二年生諸君!お土産は!?』
「「………あ」」
『ん?なぁにその反応。まさか……忘れてた、なんて言わないわよね?』


ニッコリ笑う美麗だが、目は笑っていない。日吉と鳳は青ざめながら顔を見合わせた。


「…美麗先輩…」
『何、樺地。』
「これ………どうぞ。」


そう言って樺地が差し出した袋。そっと受け取り、中身を見ると美麗が望んだキノコが二つ。それを見た瞬間、美麗の目がキラッキラに輝く。


『ありがとう樺地!で?二人は?』
「「……いや、あの……」」


どう言い訳をしようか…冷や汗を垂れ流す二人。


「このキノコ……三人で、採りました…」
「「か、樺地…!」」
『そうなの?』
「……なかなか、見当たらなくて……皆で……探しました……」
『なーんだ!そうならそうと早く言ってよね。ありがとう三人とも!』


ニッコリと笑う美麗はルンルン気分で去っていった。


「樺地…!」
「……?」
「「……ありがとう!」」
「…ウス。」


to be continued...


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