体育祭【4】
『何その言い方。持ちたいんならそれなりの頼み方しなさいよ。』
「た、頼み方?」
『“バトン役になって下さいお願いします美麗様”だろが。』
「えええぇー!?」
『土下座して言えよ。』
「おっ前バトンのくせに生意気だぞ!」
『あ゙?』
「すいませんっした!バトン役になって下さいお願いします美麗様!!」



美麗の鋭い眼光にあっさり敗北した向日は、しゅばっと土下座。


『仕方ないわね。』


満更でもない表情をした美麗はやっと向日の手を取りようやく走り出したテニス部だった。
ただバトンが変わっているだけだから、すんなり走れるテニス部は、ビリからトップへと躍り出た。

バトン(美麗)は第2走者である鳳に渡った。
だがこのバトン(美麗)、そう簡単に走ってはくれない。


「あ、あの…先輩?」
『なに?』
「手…」
『手が何。』
「いやあの、先輩ってバトンですよね?」
『みたいね。私は認めてないけど。』
「え゙…」


その場から動いてくれないバトン(美麗)に、鳳は困惑した。美麗曰く、バトン役をやるなんて言っていないし、認めてもいない。よって私はバトン役なんかじゃない。らしい。


『どうしてもバトン役になって欲しいんなら、土下座して懇願しな。そうしたら考えてあげてもいいわよ。』
「…わかりました!」



突然、鳳は笑顔で頷いた。
普通あんな事を言われたら戸惑うか嫌な顔をするはずなのに、なぜ笑顔?もしかして長太郎ってM!?そんな考えが美麗の頭をよぎった瞬間、ふわりと宙に浮いた感じがした。


『………え?』


状況がつかめず、目をぱちくりさせる美麗はやがて、自分が鳳にお姫様抱っこされていることに気付く。


『え、ちょ、ええええ!?な、何すんのバカ!下ろしなさい!』
「下ろしません!」
『…待って。ねぇ長太郎?まさかこのまま次に渡したりしないわよね?』
「え?そのつもりですが。」
『いやああああ!!ごめんなさいごめんなさい!ちゃんと走るから、だからそれだけは勘弁してー!』



突然涙目になり暴れだす美麗。
どうしてそんなに嫌なのか…理由は簡単。次の走者が忍足だから。忍足にこんな風にされるくらいなら死んだ方がマシだぁぁ!そう喚く美麗に、鳳は苦笑。そっと地面に下ろす。
そうこうしているうちに、第3走者忍足にバトン(美麗)が回ってきた。


「よっしゃ、行くで美麗ちゃん!俺らの愛のパワーを見せつけたろ!!」
『………オッケー忍足。』
「え!?」


意外な返答に、忍足は目を見開いた。いつもなら罵声が飛ぶのに…どういう風の吹き回しかと、首を傾げた。忍足が差し出した手に、美麗の手が乗る。
「美麗ちゃんの手が…!なんたる幸せ!」と、密かに感動した次の瞬間。


『美麗ちゃんパワーはつどぉぉぉぉぉぉ!!』
「うぉあぁぁぁああああ!!」



渾身の力を込めて、まるで砲丸投げをするかのように忍足を放り投げた美麗。プロの砲丸投げ選手もびっくりするくらい、忍足はびゅぉん!と勢いよく飛んでいく。
そして忍足が飛んでいる間、美麗は普通にコースを走る。


『景吾ー!バトン交代!それ受け取ってー!』
「ふざけんなよテメェ!!いらねーよこんなキショいバトン!!」
『私だっていらないわよ!』
「バトンはお前だろが!今さら交代なんて認めるか!!」



しかし、いくら嫌がっても忍足は跡部の元へ飛んでくる。


「チッ!美麗、後で覚えとけよ!」


忍足は受け止められる事なくベシャッと地面に墜落する。
跡部はピクリとも動かない忍足の服の後ろをつかみ、引きずってゴールへ向かった。
なんとも酷い扱いである。

グラブ対抗リレーが終わり、いよいよ次がラスト。この体育祭の目玉ともいえる騎馬戦である。
第1グループから始まり、白熱した闘いになった。中でもやはり目立ったのは美麗チーム。
華麗な動きで、敵チームのハチマキを奪い取っていく。
ときたま騎馬の跡部と喧嘩しながらも、抜群のチームプレイを発揮する。


「なんで俺様が馬なんだよ!納得いかねー!」
『うるっさいわね!馬は黙って前だけ見てな!喋るんじゃねーよ!』
「んだと!?」
『はいはい前見てー、走ってー。』
「くっ…!」

「「……」」


揉めているから今のうちに、と後ろから、横から敵が攻めてくるが。


『「邪魔すんな雑魚が!!」』


二人揃って敵チームを撃退した。さすが帝王と女帝。息ピッタリである。後ろの騎馬であった日吉と生徒Aは、小さくため息をついた。そんな感じで、騎馬戦は終わった。

閉会式が始まり、結果発表。
校長先生が優勝チームは赤組だと告げると、っしゃあああ!!イェーーイ!!など、赤組から歓喜の声が響いた。

跡部と美麗は顔を見合わせると、フッと笑い、ハイタッチを交わした。



こうして、熱い闘い(体育祭)は幕を下ろした。


to be continued...


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