焼き肉大食いバトル!
「…なんだよこの体に悪そうな飲み物は!」
「うわぁ……マズそう…」
「…誰が行くんですか?」
「「「「『………』」」」」


しばらく沈黙が続く。


「おっと!青学、立海、四天宝寺も10皿目突入だー!」


真っ赤な飲み物に、立海、四天宝寺もまた固まる。
青学の不二は、これまた平然と飲み干した。「うん、これもおいしい。」と爽やか笑顔。
それを見た四天宝寺、一氏。
得意の物まねでドリンクに挑む。


「…このドリンク、消えるよ。」


完璧な物まねでドリンクを飲む一氏。だがあえなく撃沈。


「…自分が消えてどないすんねん。」
「ていうかさすがに味覚までは真似できやんやろ。」
「アホや。一氏先輩アホやわ。」



呆れた顔をする白石、謙也、財前。とにもかくにも難関はクリアした。また肉を焼きにかかる。


「さぁ、立海と氷帝はどないするんや?」


固まる中、先に動いたのは立海。


「……俺が行こう。」
「!蓮二……いいのか?」
「あぁ。このままこうしていても、我が立海が勝てる確率はほぼ0だからな。」
「柳先輩…っ俺、俺先輩の事忘れないっス!絶対!」
「蓮二……ありがとう。君の死は無駄にはしない。」
「安心して逝ってこい。」
「元気でな、参謀。」
「お前の分まで俺が食ってやるよぃ!安心しな!」
「……いや、本当に死ぬわけではないんだが………まぁいい。」



では、さらばだ。
男らしい柳は男らしく消えていった。

一方の氷帝では。
今だ誰も動かない。


『…よし、亮!逝ってこい!』
「なんでだよ!!」
『アンタが逝かないで誰が逝くのよ。』
「あの、美麗先輩、漢字が違うような……」
『いいのよ。とにかく!男なんだから潔く決めなさい!はい飲む!』


ドリンクを押し付けられ、宍戸はうっ……と唸る。だが、覚悟を決めたらしく、コップを受け取った。


「宍戸さん…!」
「長太郎……あばよ。」
「宍戸さん!俺は宍戸さんを永遠に慕いますから!」
「長太郎……!」
「宍戸さん…!」
『さっさと逝けやコラァァ!!』


向日と同様の手口でドリンクを飲まされた宍戸。のあああああ!!と叫び、パタリとご臨終。


『ったく。…あ、まだ残ってる。』
「何やってんだよ。全部飲まなきゃ次いけねーだろが。」
『……仕方ない。私が飲んであげるわ。』
「え!?」
「美麗先輩、本気ですか!?」


皆が固唾を飲んで見守る中、美麗は残りをすべて飲み干した。

『……!』
「…せ、先輩…?」
『お、美味しい!!何これ超美味しい!』
「「「え゙!?」」」



ありえない発言に、全員の顔がひきつった。「…どんな味覚してんねんあの人…」財前が呟く中、美麗はキラキラした目で乾に詰め寄っていた。


『ちょっと貞治!これどうやって作ったの?めちゃくちゃ美味しいじゃない!もっと頂戴っ!』
「ではまた後で作り方を教えよう。」
『あー美味しいっ!これ絶対売れるわよ!人気商品になる事間違いなしね!』
「売れねーよそんなクソ不味い飲み物!」



桃城が強く主張。


「そうかなぁ?僕はイケると思うけど。」
『イケるよね!絶対世界一美味しい飲み物として有名になるわ!』
「ならねーよ。」



たまらず幸村がつっこむ。


「ホントに美味しいよ?」
『ねー。』
「もう黙れこの味覚オンチコンビ!!」



跡部が額に青筋を浮かべながら言った。
気をとりなおして、再開。
トップを争うのは比嘉中と氷帝。
接戦を繰り広げていた。


「おおーっと!ここで出ました!田仁志のトング食い!」


田仁志が肉をトングでわしづかみし、豪快に口に入れた。


『……何あの食べ方……食欲失せるわー。』
「全くだな。なんて下品な奴だ。」


跡部と美麗が眉間にシワを寄せながらささやく。


「みんなやるなぁ…こりゃ、負けてらんねーな、負けてらんねーよ!よーし!食うぞ越前っ!」
「もう食べてます、桃先輩!」


気合いを入れる青学、桃城と越前。ガツガツと肉を食べるが、焼肉奉行大石の叱咤が飛ぶ。


「桃!そんなにタレをつけるな!越前!焼きが甘いっ!肉汁をなんだと思ってるんだ!」


いつもは温厚で優しい大石の豹変っぷりに、美麗は唖然とした。


『…誰アレ。』
「大石さんですね。」
『……焼き肉って人の性格を変えちゃうの?なんて恐ろしい食べ物!』

「ホントに……あの変わりようはすごいですね。」


美麗と日吉は大石を見ながらそんな会話をしていた。


「んがぁあああああ!!」


突然、大石が口から火を吹き倒れた。突然の出来事に、何が起こったかわからない桃城と越前。ポカンとした顔をしている。


「…な、何が起こったんだ?」
「さぁ……ま、邪魔者は消えたしいいんじゃないスか?」
「そうだな……食うか!」



なんとも酷い言い様である。
そのあと、大石と同じように火を吹いた者が続出した。
氷帝から日吉、ジロー。四天宝寺から石田、金太郎。青学から桃城。どうやら焼き肉のタレに激辛の何かを入れられたらしい。

犯人は比嘉中だ。
沖縄秘伝の激辛香辛料をタレに入れていたのだ。ユラリと動くのは、木手。香辛料を、美麗のタレに素早く入れる。


「(フッ…これであの人はおしまいです。)」


不敵に笑う木手は、美麗を盗み見る。美麗は今まさにタレをつけた肉を口に運ぶところだった。


『ん、おいし。』


ニコニコ笑顔で咀嚼する。
木手は「ば、バカな!」と目を見開く。


『?何か?』


何気に初対面な比嘉中と美麗である。


「か、辛くないんですか?」
『別に…普通だけど。』


きょとんとする美麗。
間違えたか?と焦った木手は、美麗の前にあるタレを少し舐めてみた。


「―――っ!!」


だがやはり辛い。
声にならない悲鳴をあげながらも、なんとか耐える木手。


「あ、ありえない…!」
『アンタ何がしたいの?バカなの?』



眉をひそめ、また肉を激辛タレにつけて食べる。


「み、味覚おかしいさーこの女!」


平子場がわなわなと震えながら美麗を指さした。
平然としているのが、どうしても納得がいかない比嘉中メンバー。呆然としながら、美麗を見つめた。


「お前らバカだな。」


跡部が笑いながら言う。


「美麗は大の激辛好きだから、そんな辛さなんともねーんだよ。」
『え、これ辛いの?』
「沖縄秘伝の激辛香辛料らしいぜ。」
『…全然辛くないんだけど。もっと入れなきゃ!それ貸して。』


美麗は木手から激辛香辛料を奪いとると、タレにドバドバと入れた。茶色いタレが、赤く変色するくらい入れた。


「い、入れすぎ入れすぎ!!」
『こんなの辛いうちに入んないわよ。…うん、美味しい。』
「………ありえない。この人おかしい。」



比嘉中は衝撃を受けた。


「さー!氷帝チーム、30皿目突入だー!続いての乾汁は、これだぁ!」
「その名も、甲羅(コーラ)。」


見た目普通の炭酸飲料、コーラ。氷帝に続き、青学も30皿目に突入した。炭酸好きなリョーマは「なんだ、今度はちゃんとした飲み物なんスね。」と安心しきった様子で一口飲んだ。
だが次の瞬間、リョーマは普段のクールさはどこへやら、とんでもない奇声を発し、倒れた。


『…これ、ただのコーラじゃないのね。』
「その通り。これは甲羅。スッポンの生き血を丸々絞った栄養満点の飲み物だ。」


乾が得意げに説明。


『い、生き血!?』
「ほぅ…スッポンの生き血か……確かに、体に良さそうだな。」
『弦!?』

「幸村、それは俺が飲もう。」


立海真田。
スッポンの生き血を自ら進んで飲んだ。


『…き、吸血鬼!ここに吸血鬼がいまーす!』
「ここにもおるわ、吸血鬼。」
「こっちにも。」



白石と黒羽、真田はスッポンの生き血を飲み、ムダに元気になってしまった。


『…け、景吾飲みなさいよ。』
「お前が飲め。」
『嫌だ。絶対嫌だ!』
「スッポンの生き血なんか飲みたくねェ。」
『それは私も一緒よ!』
「ちなみに、スッポンの生き血は美肌にもいい。」
『よし飲もう。』
「……」



美肌にいい、と言われては飲まなければならない。ころっと態度を変えた美麗は躊躇う事なく飲み干した。


『……っげほっ……』
「…だ、大丈夫か?」


心配そうに尋ねる跡部。
美麗は口端からスッポンの生き血を滴らせながら、笑う。
すこし不気味なその様子に、跡部は冷や汗を流した。


「……(ちょっと怖ェ…)」
『なんのこれしき…!美肌のためなら何でもしてやるわよ…!』



どこまでも美にこだわる美麗だった。


戦いも大分盛り上がってきたが、さすがにお腹いっぱいになってきたのか、食べるスピードが落ちた。


「氷帝、ついに70皿来たで。頑張れ跡部。」
「続いての乾汁は、これ!コーヒー!」


ほかほかと温かそうな湯気を立ち上らせる、ホットコーヒー。
跡部は意外そうな顔をした。


「なんだ、ただのコーヒーか。」


楽勝だぜ、と優雅にコーヒーを飲んだ。が、そのまま微動だにしなくなった。


「………」
『…景吾?』


目の前で手を振って見ても、反応はない。


「跡部よ、気を失っても尚君臨するのか…。さすがだな。」


手塚が感心したように呟く。


「……いや別に君臨しとるわけやないと思うけど。」


呆れたように跡部を見ながら言う謙也。


「……だはぁ!!」
『あ、復活した。』



そんな跡部は見事地獄から復活した。周りからは拍手が鳴り響く。


「これはただのコーヒーではない。ほとんどカフェインで出来ている飲み物だ。」
「めっちゃ体に悪そうやな。」
「目ぇギンギラギンになりますやん。」
『ホントにね。』


さぁ勝負はこれから!という時だったのに…。なんと閉店の時間となってしまい、勝負は呆気なく幕を下ろした。


『あー……食べ過ぎちゃった…』
「美味かったからいいじゃん!」


いつの間にか皆復活しており、帰路につく道を歩いている。


『…ま、いっか。』


夜空に浮かぶ星達に見守られながら、美麗はふ、と微笑んだ。


to be continued...


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