真田vs氷帝R
「…じゃあよ、じゃんけんで決めねェ?負けた奴がアイス買いに行く。」


宍戸の提案に、渋々賛成した美麗。一発勝負が、始まる。


「「「さいしょはグー!ジャンケン、ポン!」」」


跡部パー
真田パー
宍戸パー
忍足パー
向日パー
芥川パー
日吉パー
鳳パー
樺地パー
美麗グー


『………う、そ…』


全員がパーの中、美麗だけがグー。結果はもちろん、美麗の一人負け。


「結局行くのは美麗じゃん!する必要なかったんじゃねー?」
『…お前らグルだろ!私を陥れるなんて…っムカつくぅぅ!!』
「偶然だ偶然。いいから行ってこい。俺ハーゲンダッ〇のストロベリー。」
「俺パピ〇!」
「じゃー俺スーパー〇ップのバニラ〜!」
「ほんならモ〇カ頼むわ。」
「俺は抹茶ならなんでもいいです。」
「俺、ピ〇がいいです!」
「俺アイ〇の実な。」
「…俺はなんでもいい。」
「ウス、自分も…なんでもいい、です…」
『……わかったわよ!行けばいいんでしょ!行ってきます!』
「車に気をつけろよ。」


跡部の声を背中に受け、美麗はバンッと乱暴にドアを閉め、近くのコンビニへ向かった。
美麗がいなくなって数分。
真田の家を物色していた向日がアルバムを発見した。
皆で輪になり、アルバムを開く。前に美麗の家で見たのと同じ写真もあったが、全く見た事のない写真がいくつかしまってあった。


「お?美麗、なんか泣いてねェ?」
「真田さんの服の裾握ってますけど…何かあったんですか?」


目にとまったのは、泣き顔の美麗と、少し焦った顔の真田が映っている写真。


「…これは……確か美麗が幽霊嫌いになった時の写真だ。」
「…マジ?」


それは二人がまだ三歳の頃。
家族でキャンプに出掛けた時、昼間から二人の父親が怪談話をし出した。何も知らない美麗達は、ワクワクしながら聞いていたのだが、話が盛り上がるに連れて、だんだん怖くなり、落ちを聞いた瞬間、たまらず泣き出してしまったのだ。泣き喚く美麗を、父親がなんとか宥めたおかげで涙は止まったが、まだぐずっていた。
真田が少しだけ美麗の傍を離れようとした時、ギュッと服の裾を掴まれ、びっくりした顔で美麗を見つめた時偶然それを見ていた美麗の母、紗夜がカメラのシャッターを切った、というわけだ。
それ以来、美麗は幽霊やら怪談話が大嫌いになった。と真田は語った。


「へぇ…あの幽霊嫌いにはそんなエピソードがあったんだな。」
「なんか、納得。」
「美麗ちゃん、可愛いC〜!」
「フン、美麗の泣き顔なんて見飽きてるぜ。」
「え、俺ら見た事な…「見飽きてるよな!」……そう、やな…うん。」
「ほぅ…確かに美麗は泣き虫だが、それは昔の話だ。今は全く泣き顔なんて見せないが…?」
「フン、信用されてない証拠だな。」
「何…?跡部、貴様は美麗の何を知っている?俺はアイツの全てを知っている!」
「いや、俺のが知ってる。ずっと美麗の隣にいるからな。」


真田と跡部の睨み合いが始まった。この二人、顔を合わせるたびに言い争いをしている。
もうお馴染みとなってしまった光景に、忍足達はため息を零すだけ。


「まーた始まった…」
「なんで毎回こうなるんやあの二人は…。」
「どうして喧嘩の内容が美麗先輩についてなのかも理解出来ませんね。」
「つーかさ、俺ら美麗の泣き顔見た事ねーよな?」
「「「ない。」」」


向日の言葉に、全員が頷いた。
跡部のあの発言はまったくのデマだ。チラリと二人を見ると、言い争いはヒートアップしていた。


「どんな時に見たんだ!」
「ペットが死んだ時だ!ピーピー泣いてやがったぜ。」
「…嘘をつくな!美麗はそんな話一切しなかったぞ。」
「だからそれはお前を信用してねーからだ。哀れだなぁ真田。いとこのお前が、信用されてねーだなんて。」
「く…っ」
「オイお前ら!お前らもなんか言ってやれ!いとこだからっていい気になるな、とか!」
「そんな事言われてもよー…」
「ふん、情けない奴らだ。何も言えないんだろう。ざまーみろ!」
「…なぁ、真田のキャラがおかしいと思うのは俺だけか?」



宍戸の呟きは、周りの喧騒によってかき消えた。
向日がその挑発に乗ってしまい、いつしか真田と、美麗の事がどれだけわかっているかというくだらない争いに発展してしまった。


その頃、美麗はコンビニに到着し、アイスを物色中。


『えー…と、パ〇コにハーゲ〇ダッツに…………あーめんどい!!もういいわ。全員ガリ〇リ君にしよ。』


選ぶのがめんどくさくなった美麗は、皆のリクエストを無視して、一つ62円の格安なガリ〇リ君を人数分購入し、帰路についた。


『ただいまーっと。』


真田家に到着し、皆がいるであろう居間に続く襖を開けた。


『買ってきた……………よ……』
「だから俺らの方がわかってるって!」
「ずっと一緒にいるんだからな。」
「いや、俺の方がわかっている。美麗はな……」
『…………何やってんの。』


真田と跡部達が向かい合い、何やら言い争っていた。よく聞いてみれば、争っている内容は美麗の事。


「あ、美麗先輩!」


ようやく美麗に気付いた鳳の声に、いったん争いが止む。


「お帰りなさい。」
「ご苦労だったな。」
『……アンタら何してんのよ。』


冷めた眼差しで跡部達を見やる美麗。


「どっちが美麗の事をわかってるかの談議中だ。」
『また下らない事を…バカか!』
「俺らの方が真田よりわかってるよな!?」
知るか!勝手に言ってろ!それより、アイス!溶けちゃうわよ!』


ずいっとアイスが入った袋を突き付ける。向日がそれを受け取り、中を覗く。


「……あれ?」
「どうしたん?岳人。」
「ガリガ〇君しか入ってない。」
「何ぃ!?」


袋の中には、ガ〇ガリ君の山。
しかもソーダ味しかない。


「なんで〇リガリ君なんだ!ハー〇ンダッツはどうした!!」
『んな高いもん買えるか!』
「いいじゃねーの、ガリガ〇君。俺好きだな。」
「黙れ庶民!お前なんかお呼びじゃねーんだよ!」
「んな…っ!庶民バカにすんなァァァァ!!」

『…ねぇ、景吾キャラおかしくない?』
「さっきからずっとですよ。」


唯一大人しく傍観していた日吉がため息をついた。


『はー……困ったもんね…どうするか…』
「ほっといていいんじゃないですか?言うだけ無駄ですよ。」
『そうね………とか言ってる間にまた争い始まってるし。』

二人が会話しているうちに、また言い争いが再開されていた。


『……アイス、食べよっか。』
「そうですね。」
「あ、俺も。」


跡部、真田、忍足、向日の言い争いを聞きながら、美麗、日吉、宍戸は冷たいアイスを口に運んだ。


『おいしー。』
「やっぱガリガ〇君最高だな!」
『ねー。何がハーゲン〇ッツだ。お坊ちゃんめ。』
「だよな。庶民なめてると痛い目見るぜ。」
「これ、なかなかおいしいですね。」
『でしょ?』


のほほんとアイスを頬張る三人は、縁側でゆったりと過ごした。三人の後ろで、ギャースカ言い争う跡部達の声を聞きながら。
時折ふわりと吹く、夏の風に縁側にぶら下がっている風鈴がチリン…と優しい音を立てた。


to be continued...


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