不機嫌女帝
次にジローが挑戦。


「美麗ちゃん。」
『ん?』
「ムースポッキーあげるからさ、機嫌直して?」
『…ジロー、そんなんで私の機嫌が直るとでも思ってるの?バカにしないでよ。私そこまで単純じゃないわよ。いただきます。』
「(あ、食べるんだ。)」



結果:ちょっと直った。


鳳の挑戦。


「あ、あの、美麗先輩!」
『なぁにノーコン。』
「……あのですね、俺の宝物、先輩にあげます!」


そう言って、鳳は幼稚舎の頃に拾ったアンモナイトの化石を美麗に差し出した。
ずっと大事にしていた化石だが、美麗の機嫌を直すために、手放す決意をしたのだ。


『…そんな石っころいらないわよ。だいたいただの石が宝物って…バカじゃないの。なんて安っぽい奴。』
「…う……し、宍戸さぁぁああん!!うわぁああん!」
「泣くな長太郎!耐えるんだ!そしてゴメン、俺もアホかって思った。」
「…!?ひ、酷い!」



結果:失敗。


次に宍戸。


「なぁ美麗。」
『何よ。』
「なんでそんなに不機嫌なんだよ!機嫌直せって。な?」


ストレートか問いに跡部達はずっこけるしかない。


『…はぁ?』
「だから、機嫌直せって!何がそんなに気にいらねーんだよ。」


美麗の眉がぐっとひそめられる。


「(おいィィィ!気付けよ宍戸!機嫌さらに悪くなってるだろーが!!)」
「(バカなんですか?あの人は。)」
「(ち、違うよ日吉!宍戸さんは空気が読めないだけなんだよ!その気持ちはわかるけど、そんな事口に出しちゃダメだって!)」
「(鳳、フォローになってへんで。)」



『なんで機嫌が悪いのかって?休みがないからに決まってんでしょ?毎日毎日部活でさ…疲れたのよ。暑いし…』
「…その気持ち、よーくわかるぜ。でもよ、次の休みは三日後らしいから、それまで頑張ろうぜ。な?」
『……うん。』


「……あれ、なんか成功してへん?」


結果:ちょっと成功。


「仕方ねェ…俺様が一発でアイツの機嫌直してやるか。」
「頼むぜ跡部!」


次に跡部。


「おい美麗!」
『あ?』
「イライラするのはわかる。だがな、八つ当たりはするんじゃねーよ。みっともないだろが。」
『………オイ、お前喧嘩売ってんの?失せろハゲ。』
「ハゲてねーよ!なんだその態度!いい加減にしろよバカヤロー!」
『うるっせーんだよアホ!』
「っんだとぉ!?」
『消えろタヌキ!』
「タ、タヌキ!?」
『でべそ!』
「で、ででででべそぉぉ!?テメ、ぶん殴るぞコラァァ!!」
『上等じゃボケ!』



結果:大失敗。
喧嘩に発展。


「……アイツは何しに行ったんや。」
「…喧嘩売りに行ったみたいです。アホとしか言いようがありませんね。」
「これは流石に…フォローのしようがないね…」
「長太郎、お前のはフォローになってねーからな。逆に傷つけてるから。」
「…え、嘘!?」
「気付いてなかったんかい!天然って怖いわホンマに!」



跡部と美麗の喧嘩は、互いがボロボロになるまで続いた。
ラストは日吉。


「美麗せんぱ……」
『なにキノコ。』
「キ………はぁ…」
『…あー…キノコ食べたい…』
「た、食べ!?な、なな何言ってるんですか!(いや…先輩になら食べられてもいいかもしれない………って何考えてるんだ俺は!!)」
『…若?』


頭を抱える日吉を、美麗は首を傾げて見ていた。


「べ、別に食べられたいとか思ってませんからね!」
『は?何の話?私はキノコが食べたいって言ったの。』
「………いえ、ただの冗談です。(あれじゃ自分がキノコって言ってるみたいじゃないか!あぁ……穴があったら入りたい。)さ、さようなら!」



結果:失敗。
自分の勘違いのせいで恥ずかしい思いをした。


「日吉でもダメか……」
「チッ…全員玉砕か………仕方ない………最終手段だ。」
「最終手段?」
「まだ作戦があるんですか?」
「あぁ…………頼んだぞ、萩之介!」


そう言って前に出されたのは準レギュラーである滝萩之介。
いきなり連れられた滝は目をパチクリさせていた。


「…あのさ、なんで今俺を出すの?」
「切り札として取っておいたんだ。」
「………」
「…そういえば滝先輩いましたね。」
「ずっと出て来なかったから存在を忘れていました。」
「……」

「滝、頼んだ。美麗の機嫌を直してやってくれ。」
「俺さ、あの子と接触するの今日が初めてなんだよ?絶対“誰、アンタ”って言われる。」
「大丈夫だろ。お前の心はプラスチックで出来てるんだし。」
「いやいやガラスだよ。俺の心はちょっと触っただけで壊れるガラスのハート!」

「いいから行ってこいって!頼んだぞー!」
「……まったく……」


滝はぶつくさ文句を言いながらも、美麗の前に立つ。


「あの、雪比奈さん…だよね。」
『は?誰アンタ。馴れ馴れしく名前呼ばないで。』
「(やっぱり言われた!…でも、めげないぞ。)あの、よかったらこれ、どうぞ。」


にこやかに笑いながら、差し出したのはサンドイッチ。


『サンドイッチ…?』
「激辛サンドイッチ。ちなみに中身はキノコだよ。」
『…食べていいの?』
「いいよ。」


滝からサンドイッチを受け取り、パクリと一口。食べた瞬間、目を見開いた。


『美味しい!』
「そ?よかった。」
『んー、やっぱりキノコは美味しいわ。ありがとう!』


ニコッと笑顔になる美麗に滝もつられて、微笑んだ。


「…なんでキノコが思いつかなかったんだろうな。」
「キノコあげりゃ、一発だったよな。」
「……(そういやさっき先輩キノコ食べたいって言ってたな…)」



俺達って、バカ。

少し落ち込む、跡部達だった。



翌日。


『あ!萩おはよー!』
「おはよう美麗ちゃん。」
『ねぇ聞いて、昨日ね………』


滝と美麗が親しげに話している姿を目撃した。


「い、いつの間に!?」
「…やっぱり萩之介を出したのは間違いだったか…」
「……下剋上だ…」


to be continued...


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