記憶喪失!?
「え、ちょ、どうなってんだ!?」
「冗談だよな、な、な!?」
『……ごめんなさい、何も思い出せない。』
「……もしかして…記憶喪失…?」


日吉がぽつんと呟いた。


「き、記憶喪失?」
「俺知ってるC!記憶を失っちゃうんだよね!」
「そのまんまじゃねーか…まぁ合ってるっちゃあ合ってるがな。」
「多分、さっきの強い衝撃で脳に影響があったんやろな。
まぁ…一時的なものやと思うけど…」
「な、治りますよね?」
「……とりあえず、治す方法探してみるか。」
「そう、だな。」
『ねぇ…ここ、どこ?』


美麗はキョロキョロと部室を見渡し、綺麗な部屋ね。と目を輝かせている。


「美麗ちゃん、頭痛ないか?」


忍足が、美麗の後頭部に手を当て、優しい手つきで撫でた。


『………へ、平気…。』
「な、なぁ、美麗おかしくないか?」
「…あぁ…普段なら“触るんじゃねーよ変態!”とか言ってボディブロー入れてるはずだよな。」
「美麗先輩、顔赤くないですか?」
「………え、まさか…」


忍足を見上げる美麗の顔は、うっすらと赤く、恋する乙女の顔だった。


『あ、あの、名前、何て言うんですか?』
「名前?あぁ…記憶ないんやったな……忍足侑士言います。」
『…忍足、侑士……』
「美麗ちゃん?」
『…っ素敵…』
「…え?」
『忍足くん!』
「…お、忍足“くん”!?」
『忍足くん、好きですっ!!』
「「「「え゙え゙え゙え゙え゙!!!?」」」」



美麗は忍足に抱き着き、なんと告白。周りは普段なら絶対ありえない美麗の行動に、目をひんむいた。


「とうとう狂ったか!目を覚ませ美麗!」
「美麗先輩は今記憶喪失なんですから、仕方ありませんよ。………チッ…変態の野郎……鼻の下伸ばしやがって……」
「日吉、心の声漏れてるよ。」
「うわあぁあ!こんなの美麗じゃねーよぉぉ!!」
「……これは夢だ。うん。絶対夢だC…」



ギャーギャー騒ぐ中、忍足と美麗は二人だけの世界に浸っていた。美麗は忍足の腰に抱き着いたまま、離れない。
忍足は心の底から幸せそうな顔をしていた。


「…っま、まさかこんな日が来るなんて……俺、今まで生きててよかったわ…!神様、ありがとうっ!」
「忍足ィィィィ!!調子乗ってんじゃねーぞコラァァ!」
「そーだそーだ!」
「美麗はなァ、記憶がないんだよ!本当はお前なんて大っ嫌いなんだからな!」
「調子乗るなよバーカ!!」
「まぁまぁ。どうせ先輩の記憶が戻ったらまた嫌われるんですから、今だけ夢を見させてあげましょうよ。ね?」
「長太郎、お前の一言が1番キツイわ。」



忍足の味方をした鳳の言葉が1番忍足の心に刺さった。


「フ…フフ……今の俺は無敵やで!何を言われても痛くないわ!別にこれが一時の夢でもええねん!今、美麗ちゃんは俺だけを見てくれてる!俺だけのもんなんや!フハハハ!羨ましいやろ!」
『きゃー!忍足くんかっこいー!』

「…そうだ。跡部さん。」
「なんだ?日吉。」


バカ二人をイラッとしながら見つめていた時、日吉が何かを思いついた。


「もう一回先輩を気絶させればいいんじゃないですか?同じ衝撃を与えたら戻るって昔聞いた事があるような、ないような……」
「曖昧だなオイ。まぁ…やってみる価値はあるか……」
「じゃあ俺がやります。」
「!?待て待て待て待て!!日吉、お前それ何だ!?」
「これ?金属バッドですよ。」



そんな事もわからないんですか?とバカにしたように笑う日吉。


「金属バッドォォォ!?おま、こ、殺す気かァァァ!!」
「さすがにこれで美麗先輩を殴るわけにはいきませんからね、代わりに忍足…あ、間違えた、変態先輩を殴ろうかと。」
「なぁ、なんで言い直したん?忍足で合っとるのに…つーか、え?俺を殴るん?なんで?意味なくない?」
「意味ならあります。」
「どんな?」
「ムカつくから。」
「ただの恨みやん!!めっちゃ私情!」



理不尽や!と叫ぶ忍足だが、日吉は構わずバッドを振りかざした。


「死ね変態ぃぃぃぃ!!」
「っギャアアアア!あ、あぶっあぶなっ!」
「チッ…」



日吉は逃げる忍足を追いかける。


「死ねって…完璧逆恨みじゃん…日吉顔がマジだし…怖ェ…」
「いけー日吉!」
「…長太郎、楽しそうだな。」
「はい!」
「……なんてサドな後輩なんだ…」
『きゃー!ちょっ日吉くん!何するの!私の忍足くんを虐めないで!あぁ…でもなんか楽しい!ウズウズする!この気持ちは何!?』
「…記憶はなくてもS心は健在なんだな。」

「このまま続ければ、戻るかもしれませんね!」
「……よし、日吉!地の果てまで追いかけろ!」
「了解!」
「ちょ、だ、誰か助け……!」
『きゃははは!なんか楽しいぞ!日吉くん、殺っちゃってー!』
「…なぁ、美麗ちゃん記憶戻っとるやろ。発言がいつもの美麗ちゃんと変わらへんし!」



その日一日、美麗の記憶は戻っているような、戻っていないような、微妙なまま過ぎて行った。


翌日。
美麗の記憶はすっかり戻っていた。


「美麗ちゃーん!!さぁ俺の胸に飛び込んで……」
『近寄るな変態ィィィィィ!!!』
「がふぁ!!」
『フンッ!』


「…よかった…いつもの美麗だ。」
「やっぱこれじゃねーとな!」


まるで昨日の出来事が夢だったかのように、いつもと変わらない風景。ホッと安心する跡部、向日、宍戸、ジロー、日吉、鳳。

「……短い夢やったなぁ……まぁ、幸せやったからいいか。」


to be continued...


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