腕を強く掴まれたまま、試しにその部分に力を込めてみたがビクともしなかった。質問に対する適切な答えを導き出すまで、離してくれるつもりはないらしい。普段のわたしなら、それらしい言い訳をして逃げていたかもしれない。しかし今この場を切り抜ける適当な答えは思い浮かばなかったし、理由ははっきりと言えないけれど、安易な応えを口にしてはいけないような、そんな気さえした。

「荒北は、さ、そこそこ仲がいい男友達、みたいな」

だから、今思っていることを全て言葉にするしかなかった。それが答えらしい答えではないことは承知の上で、心の内を吐き出すことしか。

「普段、女子って言ったらわたしくらいしか話さないのに、誕生日だからって…女の子たちがはりきったりしてて、ね」

嫉妬している。その事実はぼんやりと、それでいてはっきりとわかった。けれど、分からなかった。到底理解が追いつかなかった。
気付いたときには好きになっている、恋愛なんてそういうものだと東堂くんは言っていた。荒北と話しているときのわたしはどこか雰囲気が違うらしい。中学時代から交友のある新開や福富が言うのだから、間違いではないんだろう。渦巻くもやもやとした感情は、果たして友人に抱くべきそれなのか、否か、

「うまく言えないし答えが何なのかわからないんだけど、すごくもやもや、してる」
「…そりゃさ、おまえ、」

ひとり語散るように口にした荒北は、心底呆れたふうな溜息を吐き出した。腕が引かれる。突然の出来事に足を前に出すこともできず、倒れこむようにして、気づけばわたしたちの間に開いていた距離は、一気に縮まっていた。

「無自覚なのも大概にしろよ」
「えっ、と、」
「…これでもわかんねェならめんどくせェ、オレの都合のいいように解釈すっからァ」

荒北はわたしの頭を、耳を、胸板に押し付けた。何が何だかわからなかったが、ドクンと、伝わる鼓動は全てを物語っているように感じられた。

「なまえチャンとおんなじ。わかったかよ」
「…うん、」

それがつまりは答えなのかもしれない。恋と呼ぶには未熟で、あまりに不安定すぎる感情ではあるけれど。

曖昧な言い回しは好かない。
こうなることは最初から決まっていたのかもしれない、とか。出会った時から惹かれていた、とか。多分とか、おそらくとか、――けれど。今ここにある感情を説明するにはどうにも、そんな曖昧な言葉たちがしっくりと当てはまる(ような、気がする。)
だから、あえてわたしはこう答えを出すことにする。
きっと。特等席に座る横顔を見たあの日、あの瞬間から、わたしは荒北のことが好きだったのかもしれない。多分、それがただ一つの答えで、紛れもない事実なのだ。



20140406 fin.
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