もやもやする。ジッとしていることが難しいくらいの、もやもやだ。それは心臓から腹部のあたりにかけて行ったり来たりを繰り返していて、ご飯を食べても、机に向かっていても、何をしていても消えやしない。
行き詰まった思考の中、ふと思い出したのは、先日新開に借りた推理小説の結末だった。迷宮入り寸前の難事件をツラツラと紐解くように解決する主人公探偵。できることならこの感情の正体も解いてはくれないだろうか、なんて、詩人みたいなことを思ったところで現状は現状のままなのだけれど。
何をするわけでもなく机に向かっていると、携帯電話がぶるると振動した。送信者、東堂くん。珍しいこともあるものだ。彼とはアドレスを交換して以来一度もメールをしたことがない。

『うまいと言っていたぞ!しかしなまえの前では不味かっただのと文句を垂れる姿が想像できるから、証拠の写真だ!うまいと言っていたぞ!』

自撮りも兼ねて送ってくるところが東堂くんらしい。おそらく本人の目を盗んで隠し撮りしたのだろう。あるいは、これを撮ったあとに制裁を受けたのかもしれない。添付された写真には、お弁当を頬張る荒北の姿が写り込んでいた。

部屋にノックの音が響いたのは、ベッドにダイブした挙句数時間が過ぎた頃だった。「男の子が来てるわよ」にやにやと笑うお母さんは何かとんでもない勘違いをしているに違いない。やんわりと否定をして、わたしは急ぎ足で玄関へと向かった。
家の前には私服姿の荒北がいて、近くには水色の自転車が立てかけてあった。

「部活、おつかれさま」
「おー」
「……、お弁当おいしかった?」
「…不器用チャンにしちゃァ上出来じゃナァイ?」

予想とさして違わない答えに思わず吹き出してしまった。訝しげに眉を寄せる荒北に、わたしは東堂くんから送られてきた写真を見せる。すると荒北は決まりが悪そうに顔を歪めて、わたしの手元から携帯電話を横取ろうとした。

「オイ、消せ」
「パソコンに転送してから」
「すんな!今すぐデータ消せボケナス!!」

のちに思えば下らない攻防戦を続けていたわたしは、がっちりと手首を掴まれて、そこにあった顔の近さに驚いた。どうかしてる。どちらからともなく、二人して顔を真っ赤にして、かと思えば咄嗟に顔を背けて。

「っ、だからァ!その顔やめろ!」
「荒北だって人のこといえないじゃん!!」

掴まれていないほうの手を心臓のあたりにやれば、それは内側から太鼓でも叩いているみたいにバクバクと拍動していた。

「ねえ、門限」
「あと30分あんだろ」
「で、もお弁当箱返してもらったし…荒北もそれで来たんじゃないの?」
「んなもんどーだっていいんだよ。オレが聞きてェのは…その
ツラの理由、つーかよォ」

煩い心臓の理由、赤くなった顔の理由、混乱し始めた脳はそれらをうまく処理できず、何も言えないわたしはゴクリと息を飲むことしかできなかった。



20140405
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -