真波くんがわたしの外出許可を貰って来たのは、夢の話をしてから丁度3日後のことだった。つい一週間前は首を横に振っていたお医者さんがどうして突然了承してくれたのかはわからないけれど、きっと、真波くんのおかげだ。真波くんの存在が近くにあるときは、不思議とわたしの体調も良い方に傾く。だから、きっとお医者さんも頷いてくれたんだと思う。お昼から夜まで、たった半日の外出許可証。わたしにとっては一枚の紙切れが宝物のように思えて仕方なかった。

「どこへ行くの?」
「着いてからのお楽しみ」

久しぶりに帰ってきた家でお母さんのご飯を食べて、日が沈む頃にお父さんの運転する車に乗った。「なまえをよろしくね」もう何度目かもわからない両親からの言葉を受け取って、返事をした真波くんはわたしの手をとった。着いた場所は、小学校の頃によく来た遊園地だった。あたりは夕暮れ。西に傾いた陽が、世界を橙色に彩る。

「小学校低学年のときかな、わたしここで迷子になったことあるの。それでね、同い年くらいの男の子と一緒に、」
「観覧車に乗ったんでしょ?」
「へ…?」
「あは、なんで知ってるのって顔してる」

乗ろうか。真波くんは笑顔を浮かべて、観覧車を指差した。

一面ガラス貼りの観覧車から見た光景にわたしは息を飲んだ。
足元に広がるのは赤、黄、青、緑、さまざまな色のイルミネーション。夕焼けの空と橙色の差し込む海に挟まれて、まるで空にふわふわ浮いているような錯覚。チカチカと瞬き消えることはない、さながら絵本の中のような、――わたしはまた、あの夢の中にいるのかもしれない。

「きれい、」
「夢の中と一緒かい?」
「うん、一緒」

真波くんのほうを見ると、彼もまた外の景色に魅入っていた。その青色がかった髪に目を奪われたわたしは、無意識に言葉を発していた。

「また来たいなあ」

視線が交わる。先に目をそらしたのは、わたしのほう。また、困らせるようなことを言ってしまった。真波くんは優しいから、そんなそぶりは見せないけれど、「また」という言葉はあまりにも残酷すぎて、痛い。

「また来よう」
「…ごめんね」
「どうして謝るの?」
「うん、ごめん」
「謝らないで。なまえが望むことは何だって叶えてあげるって言ったじゃないか。行き先が例えどんな場所だって…オレがちゃんと連れてってあげないと、怒られてしまうからね」

ふわりと甘い香りに包まれて、鼻の奥がツンとする。痛いな。痛いよ。

「ねえ死神さん、わたしいつになったら死んじゃうの?」
「まだ内緒」

いっぱいの力で抱きしめ返し、問えば、死神さん優しい声で笑った。



20140221
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