まっしろな部屋の四角い窓から覗く季節は冬。はらはらと柔らかそうな雪が降り落ちるその日、わたしは死神と出会った。

「実はオレね、なまえに隠してたことがあるんだ」

委員長にも東堂さんにも福富さんにも荒北さんにも新開さんにも泉田さんにも坂道くんにも他の人にも、誰にも言ったことはないけれど。そう長い前置きをしてから、真波くんは本当の自分の正体を明かした。周りの人たちが真波くんを不思議ちゃんだ天然だと称する理由はよくわかる。ついに頭がおかしくなったかとは思わない。また始まったな、と嬉しく思った。出会った時からそうだった。こうして突拍子もないことを口にしては、わたしの退屈を攫っていく。おかげでわたしは退屈しない。半年前にこの白い部屋に閉じ込められてから、ううん、それより前から、真波くんといると退屈を忘れることができた。

「そっかあ死神ね」
「もう、バカにしてるでしょ」
「それで、死神さんはわたしの魂を迎えに来てくれたの?」
「うん。そうだよ」

への字になった口が笑う。きれいな笑顔。わたしは全てを飲み込むようなその表情がきらいではない。

「知ってるかい?死神の正体は、死んでも死にきれなかったタマシイのことなんだ」
「じゃあ真波くんは死んじゃったってことになるの?」
「そうかもしれない」
「曖昧だね」
「なまえは死んじゃっても死神にはなれないよ」
「そっかあ」

少し残念だと思った。例えばこの身体を蝕む悪いものが、わたしの身体を食べて、喰べて、いずれ消えていなくなってしまうのならせめて真波くんと同じ場所に行きたかったなあ。例えば死んじゃったとして。例えばそれが許されなくても死神になってこの世界に浮遊するのも悪くないのに、曰く、それはできないことらしい。例えば、例えば。唱えてみたけれど、これは例えばじゃなくて痛みのある現実だ。ちょっと少し痛い現実。ちょっと、ほんの少し。

「ねえ死神さん。わたしいつになったら死んじゃうの?」
「ないしょ」

死神さんは弧にした唇に人差し指を当ててきれいに笑った。



20140217
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