その現場に遭遇したのは偶然だった。昨日と変わらず学校の近くの道を意味もなく徘徊していたら、何やら言い合いをしているクソガキどもを見つけたのだ。

「女みたいできもちわるいし、いちいち上から目線でムカつくんだよおまえ!」
「つか男のくせにカチューシャとかだっせー!」

まるで東堂弟のことを言っているみたいだ。まさかな。火のついていない煙草を甘噛みしながら注視してみると、小学生にしてはガタイのいいガキの向こうに見覚えのある顔がチラリと見えた。

「オレのことは何とでもいえ!だが、このカチューシャをバカにするのだけはゆるさんよ!」

そのまさかだった。涙目になりながらも吠えるカチューシャはよく見知った顔であり。というか、それを言うなら逆だろうと思う。カチューシャなんかより自分守れよ自分。遠目から見ていると、クソガキのひとりは持っていたバッドを振り上げた。最近のガキはバイオレンスだ。それは白い玉を打ち返すものであって人を殴るものじゃない、ドアホ。振り上げたそれが頭上で動きを止めたのに気付き、ガキ大将が鋭い目つきで私の方を見上げる。

「喧嘩なら素手でやれクソガキ」
「うわっ、何だおまえ!」
「はなせ!くそばばあ!」
「誰がババアだこら。おまえらと4つしか違わないっての」

バッドを取り上げたら、このクソガキども、私の脛狙って蹴りを繰り出してきた。

「知ってっぞ!おまえヤンキーってやつだな!このまえケンカしてんの見たんだからな!」
「ガキのケンカに首つっこむとかおとなげねーぞ!」

喧嘩してるところを見たのなら尚更喧嘩を売るのは間違っていると他人事のように思う。そしてやはり最近のガキはませていた。やることはクソガキだが、言うことは一丁前に大人ぶっていやしまいか。懲りず脛を狙ってくるクソガキども。これには流石に堪忍袋の尾も切れるというものだ。私は両手にグーを作り、下のほうにある頭頂部目掛けて勢い良く振り下ろした。

「いてーよ!なにすんだよ!」
「かーちゃんに訴えてやる!!」
「は?なに?おまえらのかーちゃんそんなに偉いの?」
「うわああ!かーちゃん!こわいヤンキーに凄まれたああ!」

真顔で言ったにも拘らずこの反応である。この前のおっさんみたいな高校生もそうだった。そろそろ本気で笑顔の練習か、あるいはいっそ整形を視野に検討したい。

「だいじょーぶ?東堂弟」
「……うぅ」
「嘘だろどこ痛いの何で泣くの」

私が見ていないところでどこか殴られたり蹴られたり摘ままれたりしたのだろうか。焦りながらも出来るだけ優しく尋ねると、東堂弟はふるふると首を振った。大きな瞳からはボロボロと絶えず大粒の涙が零れ落ちている。

「どこも、痛く、ない、!」
「じゃなんで泣く」
「泣いてない!男は、じょしを守るものなんだ」
「またマセガキ発言。くだんない」
「くだらなくはないよ!大事なことだ!」
「別にわたしあんたのこと守ったつもりないよ。クソガキがむかついたから殴っただけ」
「そういうもんだいじゃない…」

ズズッと鼻水を啜る音。いつも泣くのをぐっと堪えているこの子供にしてはえらく珍しいことだ。女である私に助けられ、そのプライドは深く傷ついてしまったのかもしれない。舎弟を名乗る不良くんたちは私が駆けつけると凄く嬉しそうな顔をするのに、なるほど男という生き物はよく分からない。よしよしと頭を撫でてはみたが、そこに浮かぶのはやはり不満げな表情だけだった。



20140201
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