わたしが過去に一体何をしたっていうんだ。スカート丈は規定値、アクセサリーは一切つけず、頭髪検査は引っかかった試しがない。遅刻欠席赤点追試なし。生徒会役員で趣味は読書。そうやって明るく正しく生きてきたわたしが、どうして元ヤンなんかに好かれてしまったのか。この際誰でもいい。その理由を分かりやすく簡潔に述べて欲しい。

「何でこっちくるんですか!それ以上近づいたらしばきまわしますよ!」
「具体的に何してくれるわけェ?」
「にやにやするな気持ち悪い!」

ぞぞぞ、と背筋に走ったのは紛れもなく悪寒だ。わたしは逃げる。しかし帰宅部が運動部の、しかも男子生徒に敵うはずもなくあっけなく捕まる。会長、この人セクハラ現行犯で連行してください頼みますから。

そんな感じでわたしの毎日はてんやわんやしている。どこにいても先輩に見つかるため、心休まる場所といえばここくらいだ。立ち入り禁止と書かれた扉の向こう側。まさか真面目なわたしが屋上の鍵を掠めて保持しているだなんて、会長はもとよりさすがの先輩でも考えつかないだろう。しかし、そんな考えはすぐさま取り払われた。「ひゃっ」突然の出来事に声が漏れる。にやり、という効果音付きで、わたしの平和を乱すその人物は笑った。

「可愛い声出せんのな」
「な、なんでこんなとこにいるんですか!立ち入り禁止の立て札見えてます!?」
「それはお互いさまじゃナァイ?」
「わかりました離れてください」
「ヤダ」
「こんの…!」

握った拳をどうしたものかと悩んで、溜息を吐き出し脱力。ああ言えばこう言うのだ。いちいち怒っていたらさすがのわたしだって疲れる。

「そもそも何でわたしばっかり構うんですか。迷惑です」
「ンなもん好きだからに決まってんだろ」

先輩はさも当たり前のように言う。わたしの知っている「好き」という感情は、そう簡単に口にできる代物ではないはずだが。

「わたし、荒北先輩のこと好きになりませんから」
「へーえ」
「……やめてくださいよ」
「やめらンねーよ。好きだし」
「あのですね!」
「諦めろ、無理だっつの」

諦めるのはどっちだ。もし本当に先輩がわたしのことを好きだとすれば、折れるべきは先輩であってわたしではない。しかしだ。先輩の厄介なところは、諦めの悪さと日本語の通じなさ具合にある。

「ねェ、どーしたらオレのもんになってくれんの?」

わたしは今確かに言った。先輩のことは好きにならない、そう言い切った。なのに先輩はわたしの耳元で囁くように問う。この声にはもう幾度となく調子を狂わされている。それでもなお逃げ出さないのは、後に引かないのは、せめてもの対抗心と否が応でも曲げられないプライドが故だ。

「もう一度言います。わたし、荒北先輩のこと好きになりませんから」
「なまえチャンのさァ、そーいうクソ真面目でウソがつけねェとこ好きだわ」
「離れてください。てか離せ」
「真っ赤な顔で言われたって怖くねーよ」
「あんまわたしのこと舐めてると噛み千切りますよ」
「いーよ」

できるものならやってみろと言わんばかりの目に囚われる。それからじりじりと距離を詰められて、目の前でくわっと大きな口が開いた。ちらりと覗いた犬歯に目を奪われたのがいけなかった。瞬間、ぱくりと食べられた唇。色んな感情を抱きながらわなわなと震えるわたしは、満足そうな先輩に向かってただ叫ぶしかなかった。

「もうほんと嫌い!」
「オレは好き」

会長、わたしは負けませんよ。ここで折れては生徒会役員の名が廃ります。ファーストキス奪われたくらいで恋に落ちるほど、わたしバカな女じゃありませんから!



20140304
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