意味もなく舌打ちをしてからテレビの電源を落とした。やることねえ。ここのところ毎日勉強ばかりでいい加減疲れたし、かと言って暇つぶしに詰まらないニュースを見るのもどうかと思う。けど実際こうしている時間が一番もったいない。つってもなあ、と朝方食堂の窓から見た雪景色を思い出す。ニュースでは今年一番の寒気がどうのとか言っていたが、体感温度はそれほどまでに変わらない。ただただ寒い。部屋の中にいるというのに手が悴んでいる。考えてみれば随分長いことチャリにも乗ってない。ぜってー鈍ってんじゃねえか。舌打ち。そういやなまえのやつも身体が鈍るとか何とか言って騒いでた気がする。それより体重を心配したほうがいいんじゃないかと思う。受験期にかこつけて菓子ばっか食ってたら、んなもん太るに決まってるだろ。バァカか。今度顔合わせたら減量を進めてやろうと考えていたら、部屋の扉がノックもなしに開いた。

「おはよう靖友!呼んだ!?」

いやなんでだよ。タイミングおかしいだろ。呼んでねーよ。考えてはいたけど呼んではねーよ。

「暇だから遊びに来たよ。寮監に見つかりそうになって焦ったあ」
「すわんな。帰れ」
「危険を犯してまで来てやったんだからほら、おもてなし。仕方ないからペプシでいーや」

なまえは偉そうに踏ん反り返って右手を出した。すっげーむかつく。見つかったら女連れ込むなって怒られるのオレじゃねーか。ウチの寮監は小言がうるせーんだよ。見つかったら小一時間は拘束もんなんだよ。わかってんのか子豚チャン。

「靖友ー、眉間に皺がよってるぞ。うりうり」
「誰のせいだこのボケナス!!」
「いだだだだ!!ぐりぐり禁止!ハウス!靖友ハウス!」

大袈裟に痛がりやがって、うるせえやつ。直後何とかオレの腕から逃れたなまえは反省した様子でその場に正座した。何で来た。上のほうから問い掛けると、にへらと笑ったなまえが意気揚々と答える。こいつまったく反省なんかしてねえ。

「暇だから靖友で…じゃなかった、靖友と遊びに来ました」
「言い直してもおせーよ」
「遊んで」
「ヤダ」
「いーじゃん受験終わったんだし」
「まだ結果出てねーだろ!大人しく部屋帰って落ちねえように祈っとけ!」

しゅんとしおらしくなったなまえは扉の方へ向かう、かと思いきや、何故かテレビの方に顔を向けてDVDボックスから適当な一枚を手に取った。

「DVDセットするね?」
「オイ何今までのやり取りなかったことにしてんの殺すぞ」

まあまあ、と肩を押されて床に座らされる。まあまあ、じゃねーよ。帰れよ。背中に突き刺さるオレの視線なんて完全にスルーして、DVDをセットし終えたなまえはオレの隣に座った。そして何やら難しい顔でリモコンを操作し始めた横顔に疑問を一つ。

「どーしたら帰るのおまえ」
「靖友で遊ぶの飽きたら帰るよ」
「あとでぜってー殴る。って、何でこっち来んだよ近寄んな。あっち座れ」
「寒い」
「ねーそれオレのブランケット」
「靖友は我慢」
「ふざけんな」
「女の子はお腹冷やしちゃいけないんだよ。それくらい知っておかなきゃモテないぞ」
「いっつも腹出して寝てるやつが何言ってんだバァカ」

オレは生粋の機械音痴からリモコンを取り上げて再生ボタンを押してやった。満足そうに笑ったなまえはブランケットを半分寄越して、ズイとこちらに身を寄せてきた。いや何でおまえと入んなきゃなんねーんだよ。悪態をつきながら渋々その中に身を入れる。こんな間抜けな姿は誰にも見られたくない。誰かが部屋を訪ねて来たら死ねると思う。けど、触れた肩から伝わる熱は嫌いじゃない。くすぐったいけど、あったけーから。

「あ、靖友。これ前に見たやつだ。違うのにしよ、…やすとも?」

細い肩に寄り添う。あったかいなんて、そんなのは当たり前のことだっていうのに、今のオレには堪らなく心地がいい。

「あったけ、」
「今日は雪だからねえ」

うつらうつらとするオレに気付いたなまえはテレビのボリュームを下げた。やがて睡魔がやってきて、ぼんやりとした感覚の中に意識を委ねる。押しかけてきたときはマジでウザかったけど、こういうことなら多めに見てやるよ。何が楽しいのか視界の端でなまえが笑ってる。寒いのにあったかい日。こんな冬の日も悪くない。



20140209
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