ひとりでめそめそと泣いていたら変な奴が現れた。放課後の教室には何かがやってくるという曖昧な七不思議があったような気がしないこともないが、はて、やってくるのは不審者だったか。
「こんなところで何をしているのだ」
不審者もとい狐の面をつけたクラスメイトはかなり上のほうから尋ねた。
「東堂、」
「ハッハッハ!面白いことを言う女子だな!オレは通りすがりの山神であり、そのような名ではない」
「いやもう名乗ってるからそれ変装の意味ないからそれ」
こいつは馬鹿だ。そう思いながら、わたしはまた机に顔を突っ伏せる。一瞬であっても泣き顔を見られた。それだけで不愉快極まりない。しかし気遣いというものをまるで知らないらしいクラスメイトは、その場所に突っ立ったまま、次にはきっと首を傾げるに違いない。面の下の顔が容易に想像できて、やはり不愉快である。
「で?」
「で、じゃない。どっか行って」
「どうして泣いているんだ」
「泣いてない」
「泣いてるじゃないか」
「泣いてないから、どっか行ってよ東堂」
「東堂ではない!あんなイケメンと一緒にするな!」
何故怒り口調で自分を褒めた。意味がわからない。このクラスメイトは何がしたい。ゆらりと顔を持ち上げ、わたしは溜息を吐き出した。
「振られてむしゃくしゃした。それだけ」
「平気か?」
「おそらく」
「大丈夫か?」
「多分ね」
「嘘をつくな。そんなに泣いて、平気でも大丈夫でもないに決まってる」
「何なの、もう」
わかっているなら、じゃあ聞くな。構うな喋るな話しかけるなどこかへ行ってしまえ。振られた悲しさなのか、図星を突かれた悔しさなのか、もう何が何だか分からない思考の中でただただ涙が溢れ出す。ここまで来たのなら隠しても隠さなくても同じだ。満足がいくまでその場を離れないであろうクラスメイトには、何れにせよこのボロボロの顔を見られることになるのだから。
「あんなやつに振られたくらいで涙を流すなんて勿体無い」
「失恋したことないやつが何を」
「聞き捨てならないな。確かに天はオレに三物を与えたが、ぶっちゃけるとついこの間失恋したばかりだ」
「あっそ」
「何だそれだけか?」
「東堂の恋路なんてどうでもいい」
「どうでもいいとか言うなよオレはおまえが好きだと言うのに」
「…………は?」
「いい反応だな!」
高らかに笑った東堂は、もうこれは要らないななどと言って、頭に被っていた安っぽいお面を取り捨てた。そして涙でびしょ濡れになった顔を晒して驚くわたしに向かって、万遍の笑みを浮かべ、言うのである。
「好きだぞなまえ!」
想像だにしなかった告白劇。顔にじわじわと熱が集まってきた。沸騰したやかんさながら満更でもない反応を見せてしまったのは、不可抗力であり不可避の事態であることをここに述べておく。
20140203
title by にやりさま