高校生といえば屋上、なんて安易な考えでしょうか。大半の屋上は鍵がかかっているのだから、青い空を眺めながらお弁当を食べることができるのは漫画の中だけだよ。中学時代の友人はそう言っていましたが、運がいいことに、わたしが入学した箱根学園というところは屋上に「立ち入り禁止」の札がかかっていなかったのです。
なんということでしょう。それを知ったわたしは両手を上げて喜びました。しかし、喜ばしく感じたのはわたしくらいだったようです。今時、屋上で昼休みを過ごしたいなどという方はあまりいないようです。教室で机を並べておしゃべりをしながらお弁当を頬張るのがセオリー。みなさん言います、「階段上がるの面倒くさいんだよね」最近の若者は運動不足だといいますが、ここまでとは。だけどいいんです。わたしは一向に構いません。わたしは屋上から見る景色が好きです。特に今日みたいに晴れ晴れとした春日和に、外に出ないというのは勿体無い。いつも一緒にご飯を食べる友人は風邪でおやすみですが、わたしは屋上に向かいます。

「なまえチャン、下に何か履いたほうがいいんじゃナイ」

屋上の扉を開けると突風が吹き抜けました。おかげでわたしのスカートは見事に捲れたのですが、一番何に驚いたかって、それは。

「な、なんで先輩ここに…!」

苦手な、それはそれは苦手な先輩が扉の向こうにいたからです。
わたしは荒北先輩が苦手です。だって、この人怖いんです。ちょっとおかしい、と言ったら失礼ですが変わった人なんです。ガニバリズムというものをご存知でしょうか。そう、人間が人間を食べるというアレ。まさか本当に食べるなんてことはないとは思いますが、二言目には飼いたいだの、美味そうだの、冗談とも取れない言葉を投げて来るのです。事実、この前はその、キ、キスされそうになりました。思い出すだけで顔が熱いです。わたしのことをからかって遊ぶ先輩は嫌いです、だから苦手なんです。できれば顔も合わせたくなかったのですが、まさかこんなところで会ってしまうとは思いもしませんでした。

「何かご用ですか!?おっ、お金なら持ってませんので…ッお引き取りください!」
「カツアゲじゃねっつの」

では何だというのでしょう。
踵を返し引き返そうとしたわたしでしたが、「こっち来なヨ」どうやら逃げ場はないようです。逃げたらいい、そう思いますか?いえ、駄目です。今ここで逃げたりしたら、あとが恐ろしいのです。わたしは決して気の強い性格ではないので、有無を言わさない先輩の言葉に逆らうことはできません。アーメン、です。
指さされた場所に座ると、全身がぞわわとしました。先輩がごろりと膝に頭を預けてきたためです。意味がわからない。泣きそうなわたしなんてお構いなしですか。お弁当、とも思いましたが、食事をしている余裕など今のわたしにはありません。

そろり、と。見てはいけないものを見るかのように視線を落としました。そして思ったことが一つ。こうして眠っていれば、先輩、普通にかっこいいんです。真波くんや、先輩のお友達の東堂先輩には負けちゃうかもしれませんが、――って、あれ。見間違えじゃなければ、今、笑っ、

「なに?そんなに見つめられっと喰いたくなンだけど」
「く、食う…!?というか、先輩起きて、」

グイと制服のリボンを引っ張られたのはそのときです。ぞわっという感覚を覚えたのも、ほとんど同時。大変なことをされてしまったというのに、一瞬、頭の中はやけに冷静を保っていました。

「舐めていー?」
「…っ、してから、言わないでください」
「へいへいわーったヨ」

思考が動き始めました。けれど、もう遅いです。きっと振り払えばよかったんだと思います。先輩はなんだかんだで、その、優しいところがあるので、わたしが本気で嫌がればこんなこと、してこなかったんだと。
わたしも、どうかしてます。今、この状況に心地よさを覚えてしまうだなんて。

「んっ…ふ、は、」
「…なまえチャンさァ、自分が今すっげェいやらしー顔してるって自覚あんの?」
「そ、んなこと」
「ハァイ、手ェ邪魔ァ」

赤くなった顔を覆っていた手が、軽い力で退かされました。わたしの後頭部に右手を添えた先輩が満足そうに笑ってます。もう、後戻りはできないし、認めるしかないのだと思いました。チャイムが鳴るまで誰も来ないでほしいだなんて、もう、思ってしまったら最後、ってやつです。
先輩、責任とってくださいね。とりあえず、このキスが終わったらで構いませんので。



20140406
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