恥ずかしい話だが先日事故に合いそうになった。今日の夕食は何だろななどと考えながらボーッと外を歩いていたら赤信号を横断してしまったのだ。隣にいた友人は一人で歩いて行った私に気づかずベラベラと喋り続けていたらしい。友人が気づいた時にはすぐそこにトラックが迫っていたらしく、後に彼女は「あれは死んだと思ったね」と語る。そんな私を危機から救ったのは同じ学校のとある男子生徒だ。彼が飛び出してきてくれなければ私は命を落としていたか、良くて重傷を負っていたところだ。そういう経緯があって私は一年生の教室の前まで来ている。命の恩人の名前は鳴子章吉くん。自転車競技部の一年生。顔は見た事がない。なぜなら、私は眼前に迫ったトラックを見て気絶してしまったチキンであるからだ。情報提供してくれた田所が嘘さえついていなければ、鳴子くんとやらはこのクラスの生徒であっているはずである。私は近くを通ったメガネの男の子に声をかけた。

あー、ちょっとキミ、ああそうそうメガネのキミで正解。ちょっとお尋ねしたいんだけど鳴子くんとやらはいらっしゃるかな。え?今はいない?購買に行ってるって、ああそうなのこの時間から購買…男子高校生の食欲は計り知れないなあ…それなら仕方ないねえ、ああいいのいいのキミが謝る必要ないから気にしないで。まだチャイムまで5分くらいあるし待ってみようかな、うん、ありがとう。…ん?そうそう私関西出身。兵庫。よくわかったねえ、なるべく訛らないようにと気をつけてはいるんだけど…ああそうなんだ、鳴子くんとやらも関西から。それはそれは奇遇だこと。うんそうなの、特に知り合いとかじゃなくてこの前だいぶお世話になったらしいからお礼がしたくて、やっぱり食べ物が無難かなあと思って…あ。チャイム鳴るね。大丈夫大丈夫、走れば間に合うよ。そうだ、キミ名前は?…オノ?ああはいはい、オノダくん。オノダサカミチ、変わった名前だねえ、うん覚えやすいってことだよ悪い意味じゃなく。それじゃあオノダくん話に付き合ってくれたお礼にこれをあげよう。飴ちゃんだぞ。じゃあ授業頑張ってね。

どうせなら彼に伝言を頼めばよかったと思いついたのは階段を下り始めたあたりで今更感が否めなかった。次の休み時間といえば昼休みになってしまうし、かと言って午後にもう一度一年生の教室に行くのも気が引けた。お菓子は買ったばかりで賞味期限はまだ先だ。無理に今日合わずとも明日でいいかもしれない。などと考え事をしながら階段を降りていたら下から駆け上がってきた赤髪の生徒と肩がぶつかって、数段階段を踏み外した。「スンマセン!」焦ったような声が降ってきた。

「ちゅーか今踏み外しました!?足とかやってへん!?」
「大丈夫何ともない何ともない」
「ホンマですか!やー焦ったわ!大事な足ですやん、万が一にでも怪我させてもうたら大変や」
「大袈裟やなあキミ。それより急いだほうがいいよ、チャイム、とっくに鳴り終わってるからさ」

遅刻を許さない先生だったら大変だと思って促すと、清々しいほどのオーバーリアクションで赤髪の生徒は去って行った。そこで私はあることに気づく。そう言えば今の子関西弁だったなとか、何であんなに足を心配してくれたんだろうとか、私が陸上やってるの知ってるのだろうかとか。そういえば田所が「赤い奴だから直ぐにわかるぜ」とか何とか言ってたような気がする。今の子、確かに真っ赤な髪をしていたな。もしかしたらもしかしなくても今のが鳴子くんか。鳴子章吉くん。そうかそうか、なるほど。

「自転車競技部、行ってみるかなあ」

にへら、と。どうしてか上がった口角をそのままに教室へと帰った。隣の席の田所に「気持ち悪いぞ、」と呟かれたけど今の私は機嫌がいいので怒らない。何故遅刻をしたのかと先生に怒られたけれど落ち込まない。授業中、今日練習見に行くねと田所に伝えたら、やっぱり気持ち悪がられたからさすがに殴っておいた。


2012XXXX
title by にやりさま
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -