オレにだって妹くらいいる。何かと文句ばっか言ってくる口うるせェ子豚チャンが二人ほど。顔を合わせりゃ喧嘩、会話をすれば必ず喧嘩になるようなやつらだ。あいつらが物心ついたときから今まで喧嘩三昧の毎日を過ごしてきたわけだから、兄妹なんつーのはてっきりそういうもんだとばかり思っていた。だから、オレには目の前の光景が不思議で仕方ない。兄妹って仲悪いもんじゃねーのかよ。なんでおまえらそんなに仲良しなわけェ?

「兄さま!遊びに参りました!」
「よく来たななまえ!この学園は広いだろう?迷子にならなかったか?」
「どうってことありませんでした」
「そうだな!なまえは昔から賢いから心配いらんな!」

駆け寄ってきたなまえチャンを腕の中に抱きとめて、東堂はだらしねえ顔でその頭を撫でる。そっくりな顔が二つ。周りはこいつらを瓜二つだっつーけど異論ありだ。全然似てねえし、つーか似てたら困る。それじゃオレが東堂の顔を好きみてーじゃねえか。なまえチャンの顔はマジ好みだけど東堂の顔はムカつく。わかったかよ、そういうことだから勘違いすんなよボケナス。

「む、何を見ている荒北。オレか?そんなに見つめられては穴が空いてしまうぞ」
「黙れ自意識過剰殺すぞ」
「理不尽だな!」

見つめてんじゃねえ睨んでんだよ。さっさとなまえチャンから離れろ。そんな意を込めてガンを飛ばしていると、なまえチャンを膝の上に乗せたままの東堂が指を鳴らした。うぜえ。

「わかったぞ荒北!そういうことか!」
「いや何の話だよ」
「すまんな!オレではなくオレたちを見ていたのだろう?いや、見つめざるをえないというほうが正しい!なんたって美男美女だからな!」
「まあ、それは大変です兄さま!あまりに煌きすぎては荒北さんの目に影響が出てしまいます」
「なに!?それはつまり荒北の目がこうなるということか!」
「そうです!こう、だったのが、こうなってしまいます!大事件!」
「おまえらの頭の方が大事件だっつの。つーか何なの?喧嘩売ってんの?」

どこから取り出したのか、メモ帳に下手くそな絵を書き始めたなまえチャンに東堂が賛同する。ビフォーアフターで描き表すのはいいけど目どこやったよ。さすがのオレでも百歩譲って眩しいモン見たくらいで目玉なくなったりしねーよ。「そっくりです!」いやだから似てねっつのドヤ顔すんな。かわいーけど。それとも何、おまえらの中のオレってマジでそんなんなわけ。それはそれで結構傷つくんだけど。
東堂とお絵描きを始めたなまえチャンが顔を上げて、こちらをじっと見つめたのはそのときだ。でかい目がオレを捉える。目力やべえ。

「……、」
「な、なんだよ」
「兄さま、この絵ですと下まつげがないので荒北さんがおこです」
「おっと大事なチャームポイントだったな。すまんね荒北」
「いやおこなのそこじゃねーからァ!!」

つーかおことか可愛いこと言ってくれるじゃナイなまえチャン!
ドヤ顔でオレの似顔絵に下まつげを付け足した東堂はとりあえず殴っておいた。こいつのドヤ顔はすっげイラっとくる。

「しかしなまえは優しいのだな。こんなやつのことを心配してやるなんて」
「これ以上荒北さんが不細工になったら大変ですもの」
「…なまえチャンそんなにオレに殴られたいのォ?」

他の女ならブスっつって言い返してやるとこだけど、なまえチャンにはそんなこと言えない。だって天使だし。さながら天使のように笑ったなまえチャンは、今度は少し困ったように眉を下げた。

「本当に、美しいのも困りものですね。荒北さんには分からないでしょうけど」
「ああ、美しすぎるのも罪だ。荒北には無縁の悩みだが」
「っせーよそろそろ黙れナルシスト兄妹」
「よろしければ今からサングラス、お使いになられますか?」
「いらねーよ!ンだってんだよその気遣い!」

どっかに四次元ポケットでも常備してんのかと尋ねたくなる。差し出されたサングラスを手で払ったオレは、溜息を吐き出したい気持ちを抑えて頭を抱えた。なんでまた面倒な奴の妹チャンなんか好きになっちまったんだろ。こいつらの相手をするのは骨が折れる。なまえチャンなんて完全にオレのこと舐めてるし、良くていい暇潰し相手くらいにしか思ってねーだろうし。東堂は頭に来るし。

「荒北さん、この頃少し変よ」
「どうしたのかな」

マジで黙れおまえら。心の中だけでツッコんで黙りを決め込んでいると、「荒北さん」柔らかい声が覗き込むように呼んだ。

「確かに荒北さんは美しいお顔ではありませんけど、わたし、そんな荒北さんも嫌いじゃないです」
「……は、」

思いもよらない発言に驚いて顔を上げてみれば、そこには顔を真っ赤にして俯くなまえチャンがいて。待てって。どういうことだよ。今の今まで楽しそうにオレのことおちょくってたくせに、はァ?マジ?
スカートを揺らしながら走り去って行く後ろ姿。やっと状況を理解したらしい心臓が煩く音を立て始めた。

「荒北よ」
「…なに?」
「なまえは渡さんぞ」
「くれよ兄さん」
「やめろ鳥肌が立つ」

心配すんな。オレも鳥肌たったからァ。



20140303
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