「誰がチビやねん!いつか絶ッッ対に身長抜かしたるわ」

チビやマメやと馬鹿にしとった同級生が東京の高校に行ってしまったのは、まだ冬が過ぎ去ったばかりの肌寒い時期やったと記憶している。特にこれと言って没頭できるものもなく。さしたる目標もなしに地元の高校に進んだわたしは、目まぐるしい日常に流されるようにして一つの春を過ごした。
そうして季節は夏。
ジリジリと照りつける陽射しとセミの鳴き声に鬱陶しさを覚える8月、その同級生は何だかとてもビックな男になって帰ってきた。

「いつ帰ってしまうん」
「ん?明日やで」

夢の大舞台であるインターハイで活躍し、優勝という輝かしい結果を残し。最後に会った数ヶ月前と比べて日焼けし、幾分か身長も伸びたような気がする。「ぜんっぜん変わってへんな」数日前、とても嬉しそうな表情でそう言われた。
わたしが彼に身長を抜かされたのは中学三年生のときや。身長差3センチ。目線の位置はさして変わらなかったが、今となっては少しばかり顔を上に向けないとかち合わないほど。まだ牛乳を飲み続けているんやろか。次に会うときは背伸びせなあかんくなるのかも。もうええやん。優勝、したんやろ。今のままで十分速いやんか、そんなに頑張ってデカならなくても、いいやんか。

「東京は遠いんや」
「そやなあ、まあロケットマン鳴子章吉の脚にかかればぶわーっと一瞬やけどな!」
「冬まで会えへんやんか」
「ちょお、ツッこんでや」
「会えへんやんか」

近くにいた存在が遠くにいってしまうのは、手の届かないところにいってしまうのは、途方もなく怖いことのように感じる。

「なんやなまえちゃん、そんなにワイと離れたくないんか?」
「離れたない、っていうたらどないするん」

冗談に対して真顔で返すと、章ちゃんは一瞬だけ大きな目を見開いた。

「カッカッカ!安心しい、離れとってもちゃんと友達や!」

理不尽な話やと思う。章ちゃんはわたしの気持ちなんて数ミリも知らへんやろし、知る由もないのに。キレるなんてお門違いやと思った。せやけど、動き出したわたしの口はストップがきかんくて。あかんと思いながらも、気付けば感情の全てをぶつけるように言葉を発してしまっていた。

「それ本気で言うてるんか」
「あ、…たりまえやろ!それとも嫌か!?そらさすがに傷つくで!?」
「そんなん嫌に決まってるやろ、」
「は!?何でやねん!!」
「だって章ちゃんのこと好きやもん!!」

言う予定なんてこれっぽっちもあらへんかった。「ほんまかいな、」ほんまやアホ、こんな場面で嘘なんかつくわけないやろ。やってきた沈黙が痛い。何か言うてや、ここまで来たらなんでもええから。なあ。奥歯を噛み、覚悟を決めたつもりやったけど、――唐突に肩を掴まれて思わずビクリと跳ね上がってしまった。なんやの。

「ずっと言えんかったけど、この際やから言う」
「な、なんやの」

なんやの、ほんまに。
真っ直ぐな目に射抜かれて、ごくりと息を飲んだ。見間違えかな、章ちゃん、口元震えてへん?

「ゆ、言うで!?ええんか!?」
「い、言えばええやんか!なんやねんもう意味わからんわ!」
「あかんやん!めっちゃハズい!」
「ハズいのはこっちや!振るなら一思いにふって!」
「振るわけないやろ!?ワ、ワイかてなまえちゃんのこと…ッ、あー!無理やあかん!好きとか言えるわけないやろ!!」

言うてるし、しかも、気づいてへんのかい。そんなツッコミさえもまともにできず顔を真っ赤にしたわたしの目の前で、章ちゃんは暫くあーだのうーだのと唸りながら頭を抱えていた。



20140410
関西弁ごめんなさい
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