ブブブ、と携帯が振動する。画面に表示された名前を見れば、キツイ練習の疲れも一気に吹き飛ぶ。心なしかメシまで美味く思えてきた。顔がにやける前に手で覆ったつもりだが、間に合っただろうか。

件名 no title
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今何してる?

「へえ、メールか。嬉しいよな。好きな子からのメール」
「ちっげーよボケナス!」

件名 Re:
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暇。なんかよう

「なってないぞ荒北!もっとこう絵文字など使ってみたらどうだ!」
「うっせ!見んじゃねえよ!」

件名 Re:Re:
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大した用じゃないんだけど、今度の日曜日空いてるかなって。映画行かない?

「駅前に新しくできたカフェが今人気らしい」
「ありがとーよォ福ちゃん」

件名 Re:Re:Re:
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行く

「うわ!アンタなにしてんですか!そこは会話を膨らませてメール続けねえと!」
「余計な世話だっつの!!さっさと髪乾かしてこい風邪引くぞコラ!」

件名 Re:Re:Re:Re:
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よかった!行く人いなくて困ってたの。ね、荒北くんはスカートとパンツどっち派?(笑)

「脈ありだ!これは脈ありだぞ荒北!ここは紳士らしく慎重に答えるんだぞ間違えるなよ荒北!」
「ちょっと黙ってろ東堂。風呂入ってくる」

件名 Re:Re:Re:Re:Re:
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オレはスカートがいいです

「荒北さん脚フェチですもんね?」
「何して…ちょ、は、何してくれてんのォ不思議チャァァン!?」

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:
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悪い今の真波が勝手に送った

「気持ち悪がられたらてめえのせいだかんな。返信帰ってこなかったら殺すマジ殺す」
「あはは、荒北さん面白い」

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:
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やっぱり(笑)ちょっと驚いたけど大丈夫だよ〜スカートにします

「オイコラ何してんだよ葦木場ァ!!高いっつの!今すぐ降ろせ怖えからァ!」
「ええっ!?荒北さんバンザイしてたから、てっきり高い高いしてほしいのかと思った!」

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:
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午前中部活あるから午後からな

「それなら夕食ご一緒してきたらいかがですか?駅前だとこのお店が美味しいですよ」
「へーえ。そーすっかなァ」

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:
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了解!細かいことは学校で決めましょう。あっと、そのこととは全然関係ないんだけど、明日の昼休み、ちょっと時間ある?

「荒北!これは来たぞ荒北!」
「デート前に告白しちまうパターンか?ヒュウ、みょうじさんて見かけによらず積極的なんだな」
「荒北さん!アンタ男ならこっちから先に言うべきでしょーが!」
「メールより電話のほうがいいんじゃないですか?」
「ねえユキちゃん、何の話?みょうじさんと荒北さんって付き合ってなかったの?」
「そろそろ消灯時間なんだが」
「もお、荒北さんじれったいな〜オレが送ってあげますよ」

件名 Re:
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オレおまえのこと好き

「どーですか?ちゃんと荒北さんに成り切ってみました」
「……」
「返事がないな。ただの屍のようだ」

頭が真っ白だとか、思考が停止するだとかいうのはまさに今みたいな状況だ。ホント、どうしてくれんだボケナス。バクバクと嫌に騒ぎ出した心臓のあたりで、じわりとした焦燥感が浮かび上がってくる。そのまま携帯を放り出して固まっていると、「ん?靖友、携帯鳴ってない?」新開が肩を叩いた。オイおまえさっきメシ食ったばっかなのに何で、なんて、デブの飯事情は今はどうだっていい。
着信、みょうじなまえ。
さっさと通話ボタンを押して、今のは真波が送ったんだって言わねえと。メールで告白とかかっこりい。面と向かって言うはずだったのに、と思うと今更イライラとした感情が湧き上がってきた。

「悪い、また真波の奴が――」
〈わ、わたしも荒北くんのこと好き!〉

本日二度目の真っ白。焦りも怒りも一気にどっか行った。

〈本当は日曜日に言おうとしたんだけどね、その、友達が…そういうのは早い方がいいって…〉
「…付き合うかァ」
〈えっ、いいの!?〉
「いいもなにも、…オレだってなまえチャンのこと、すき、だし」
〈……〉
「オイ、なんか言えっつの」
〈い、や、…嬉しくて〉

今頃電話の向こうにある赤ら顔を思うと、意識に反してだらしなく顔が緩む。オレだって嬉しい。多分、なまえチャンが思ってる以上に。この締まりのねえ顔は彼女との通話中にどうにかするとして、とりあえず後ろで聞き耳立ててる奴ら、あとで一人ずつ潰すから覚悟しとけヨ。



20140303
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